突貫工事をしました
大変お待たせしました……
プライベートが超忙しくて、ログインさえできない日々でした。
ようやく落ち着いてきたので更新します。
一ヶ月も空けるとか、今後無いようにしますので、今後ともよろしくお願いいたします。
前回までのあらすじ
各国に魔人が出たので向かったら逃げられた。
代わりに、災害級の魔物が再出現した。
「災害級の魔物が現れた!?」
オープンチャンネルを通して、マークがとんでもないことを言い出した。
『そんなバカな! 災害級の魔物は、先ほど私たちが全滅させたではないか!』
オープンチャンネルだからオーグの戸惑う声が聞こえるが、それも当然だ。
俺が駆けつけた時には、すでに災害級の魔物は残っておらず、魔人達しかいなかったはずだ。
「どういうことだ!? 旧帝都から出てきた魔物はあれだけじゃなかったのか!?」
『分かんないッスよ! とにかく、早く戻ってきてください!』
「お、おう! 分かった!」
マークが珍しく取り乱している。
それだけの緊急事態が起きてるってことか。
「シシリー! 急いで戻るぞ!」
「はい!」
「ちょっと待ってくれシン! 俺も連れて行ってくれ!」
「ガランさん?」
どうしよう。
正直に言えば、ガランさんが災害級の魔物に対抗できるとは思えない。
下手に連れて行って危険な目に合わせるのも……。
「頼む。俺は先日前線から戻ってきたばかりなんだが、入れ替わりで前線に行った奴らに危険が迫っているならジッとなんてしていられない」
そう言われてしまうと、強く反対も出来ないし、今迷っている時間もない。
「そういうことなら……でも、災害級の魔物と戦おうとか思わないでくださいね?」
「ああ、身の程は弁えてるつもりだ」
ガランさんから災害級の魔物と戦わないという約束を取り付けた俺は、さっきまでいたアールスハイド陣営にゲートを開いた。
「おお、すげえな……交代で戻ってくるのに一週間以上かかったのに、一瞬か……よ」
俺たちに続いてゲートをくぐったガランさんが、感嘆の声をあげていたのだが、それが段々尻すぼみになっていった。
それはそうだろう。
俺も、ゲートをくぐってすぐに飛び込んできた光景に、言葉を失ってしまった。
周りを見れば、幾つものゲートが開き、オーグを始めとした皆も次々とこの場に集結してきているが、皆ゲートを抜けた瞬間に、目を見開いて呆然としている。
「な、な、なんだ……こりゃ……」
ガランさんが、ようやく声を振り絞るまで、誰も声を上げることができなかった。
それほどの光景。
「ビーン! ビーンはいるか!?」
「はい殿下! こちらです!」
「これはどういうことだ!?」
こちらも、ようやく意識が復帰したオーグがマークを呼び、状況の説明を要求する。
「皆さんからの報告が終わった後でした。旧帝都から、災害級の魔物が現れたのです」
「それは分かった。だが……これは……この数はなんだ!?」
俺たちが絶句してしまった光景。
それは、地平線を埋め尽くすほどの災害級の魔物の群れ。
それが、ゆっくりとこちらに向かってきている光景だった。
「旧帝都を監視していた兵士さんから、また魔物が旧帝都から出てきたという報告を受けたんです。それで自分も遠見の魔法でその様子を見ていたんですが……」
そこでマークは言葉を切り、皆を見渡し、続きの言葉を発した。
「確かに旧帝都から災害級と思われる大きさの魔物が現れました。一体、また一体と……際限なく現れ続け、最終的にはこのような状況に……」
その時の光景がよほど衝撃的だったのだろう、マークはいまだに信じられないものを見たような口調で話した。
「なんてことだ……まさか、旧帝都全てに災害級の魔物が隠れていたのか?」
「旧帝都全て……一体どれほどの数になるのよ……?」
オーグが、正直に言って一番あって欲しくない可能性を口にした。
大国と言われた旧ブルースフィア帝国。
その帝都は、アールスハイド王国の王都に負けないほどの規模を持つ。
その全てにあの魔物が潜伏していたとしたら……。
マリアが、思わず何体になるのかと口走ってしまうのも無理ないだろう。
「何百……いや、何千か?」
俺は、思わずそう呟いた。
災害級の魔物は、そのサイズが大きくなるから災害級と判定されるのであって、総じてデカイ体躯をしている。
それを考慮したとしても、それくらいはいるのではないか?
「災害級の魔物が数千……はは……冗談はよしてくれよ……」
その俺の呟きを、そばにいたことで聞いてしまったガランさんが、乾いた笑いをこぼした後、ゆっくりと迫ってくる魔物群れを絶望的な表情で見ていた。
災害級の魔物と単独で戦えないガランさん達からすれば、まさに悪夢としか言いようのない光景だろう。
単独で災害級の魔物と戦うことができる俺達としても、悪い冗談であってほしいと思うほどの光景だ。
「どうするオーグ……?」
「……どうすると言われてもな……この数を私達だけで討伐できると思うか?」
「……」
正直に言えば、出来ないことはない。
ただし……。
「……地形が変わってもいいのなら……」
「よし、どうにかして足止めしよう」
即答で却下しやがったな、おい。
「まさかとは思ったが、本当に出来るとはな……」
「俺だってできればやりたくないよ。そんなことしたら、今度は俺が世界の敵認定されるかもしれないじゃん」
「……お前がようやく自重を覚えてくれて助かったよ」
オーグの物言いに引っかかるところはあるけど、俺だってそのくらいは想像がつく。
ただ、そうなると途端に難しくなってくるんだけど……。
「でも、オーグどうする? さすがにこの数は俺たちだけじゃ厳しいぜ」
「むぅ……」
「今はかなりゆっくり近付いてきてるけど、そんなに悠長にもしていられないぞ」
「分かっている。今考えているのだからちょっと待……」
「な、なんだこれは!?」
オーグの言葉を遮って、突然大きな声が聞こえた。
振り向くとそこには、大勢の軍勢がいて指揮官と思われる男性が声を出したようだった。
「このタイミングで到着したか……」
「え? 何、この軍勢?」
「先の災害級の魔物出現の際に、各国から救援部隊を送ったと報告があったのだが……」
「そうか、無線通信機を持ってないから……」
「すでに出立した軍勢に連絡を取る術がなくてな。それがこのタイミングで到着したらしいな」
「アウグスト殿下! これは一体どういうことですか!? 報告では数十体であると聞いたのですが」
どこの国の指揮官さんかは分からないけど、装備などからお偉いさんだと分かる人がオーグに話しかけてきた。
「我々にも分からん。先に報告した魔物は全て討伐したのだがな……」
「そ、それも凄まじいですが……それにしてもこれは……」
その指揮官さんも、地平線いっぱいに広がり、ゆっくりとこちらに向かってくる魔物の群れに言葉を詰まらせる。
「こんなもの……人間に何とかできるのですか?」
また別の国の指揮官さんと思われる人が話に参加してきた。
今はまだ遠目にしか見えない災害級の魔物の群れを、各国の指揮官達は絶望的な気持ちで見つめていた。
その後ろに控えている軍勢も、同じ表情で見つめている。
それにしても、随分とゆっくり近づいてくるな。
こうして遠目に見ていると、まるで動物園かサファリパークにでも迷い込んだ錯覚に……。
「そうだ! 檻だ!」
「檻?」
「そう! あの魔物の群れは進行速度が極めて遅い。今なら、あいつらを隔離するための檻が作れるんじゃないか!?」
「そうか! アルティメット・マジシャンズ! 全員集まってくれ!」
俺が思い出したのは、前世での動物園だ。
あそこは、檻や柵を用いて危険な動物が、外に出られないようになっていた。
まだ遠目に見えているこの段階なら、巨大な壁を魔法で作り出して隔離できるのではないかと考えたのだ。
「皆聞いてくれ。あの魔物どもを壁を作り出して隔離する! シン! どれくらいの壁を作ればいいと思う?」
「そうだな。できれば三十メートルくらいの高さで、厚みは五メートルは欲しいな」
「厚さ五メートル、高さ三十メートルの壁を作る!?」
オーグの相談に、大体これくらいでいいかと答えた内容に、ガランさんが声を挟んできた。
災害級の魔物は、背が高くても十メートルあるかないかくらいだから三十メートルもあれば足りるだろうし、厚さも五メートルもあれば十分だと思ったんだけど……。
「薄くて小さいですか? なら五十メートルの十メートルで……」
「ち、違う違う! 厚すぎるし、大きすぎるって言ったんだよ!」
「ああ、そういうことですか。まあ、薄くて小さい壁で突破されるよりいいでしょ?」
「そ、それはそうだけどよ……」
「殿下! どこまで壁作るんですか?」
ガランさんが、なんか頭を押さえているが、その間にも壁を作るための話し合いは続いている。
アリスが、どこまで壁を作ればいいのか聞いてきた。
「できれば、旧帝都も含めて全てを覆いたいが……」
「それはさすがに無理じゃないですか?」
「出来んじゃね?」
「え?」
オーグはぐるりと旧帝都を囲いたいらしいが、トールは無理だと思っているらしい。
なので、それができそうな俺が一応声をかけておいた。
「旧帝都の向こうからここに向かって壁を作りながら飛んでくるわ。そうしたら、魔人はともかく魔物は出てこれなくなるだろ?」
「そんなこと出来……るか、お前なら」
オーグが一瞬否定の言葉を言いかけるが、すぐに思い直したらしい。
気心の知れた友人というのはありがたいね。
「……お前が何を考えているかは、容易に想像がつくがな。お前の力の規格外さをよく知っているだけだからな」
「そこは嘘でも信頼してるとか言っとこうよ!」
「すまん。嘘の言えん質でな」
「絶対それが嘘だ!」
肩をすくめて、やれやれといったポーズでため息を吐くオーグと苦笑いしている面々。
くそう、信頼からの言葉じゃなかったのか。
「まあ、お前の異常さはある意味信頼している。だから、頼んだぞ」
「……どうにも言葉の端々に悪意が感じられるけど、まあいいや。じゃあ、俺は旧帝都の向こうから壁を作ってくるから、皆はこの真正面の壁の作成を頼むな」
「オッケー! 任しといて!」
皆を代表してアリスが親指を立てながら答えた。
「シン君」
すると、元気に返事をしたアリスの脇から、シシリーが歩み出て、俺に声をかけてきた。
「一人で行くんですか?」
「ああ。皆には、ここの壁を作ってもらいたいから、少しでも人数がいて欲しいんだ」
「そう、ですか……そうですよね。分かりました。私達も全力で壁を作ります。でも……」
俺が一人で壁を作りに行くことに納得してくれたシシリーが、俺にそっと寄り添ってきた。
「旧帝都には、魔人達の王様がいるんです。どうか……どうか気を付けて」
「大丈夫だよ。旧帝都の真上を飛んで行くわけじゃない。迂回していくからさ、だから……」
「あ……」
誰も俺のことを心配してくれない中で、シシリーだけが俺のことを真剣に心配してくれていた。
そのことが嬉しくて、寄り添っていたシシリーをギュッと抱きしめてしまったのはしょうがないだろう。
「シシリー達も、頑丈な壁を作ってくれな」
「シン君……はい! 頑張ります!」
そう言って、シシリーと見詰め合っていると……。
「す、凄いわね……こんな大勢いる前でそんな真似できるなんて……」
マリアの声でハッと気がつくと、さっきまで絶望の表情をしていた兵士達が、生温かい目でこちらを見ていることに気がついた。
「……まあ、いっか。今更だな」
「あうぅ……」
もう何度目だ? いい加減慣れてきたわ。
そもそも正式に婚約披露パーティまでやったんだ。公衆の面前でいちゃいちゃしたっていいだろうが!
「時と場所を考えろ! この馬鹿者が!」
「おっと。それじゃあ行ってくるな」
「あうっ」
オーグの、文字通りの雷が落ちそうだったので、シシリーのおでこにチュッとキスをして、浮遊魔法で浮かび上がった。
小言を言われる前に現場に向かいますかね。
眼下を見ると、腰に手を当てて呆れ顔のオーグと、首まで真っ赤になり、茹で蛸になっているシシリーが見えた。
「そんじゃ、行ってくるわ」
地上にいる皆に声をかけて、俺は飛行魔法で壁を作るスタート地点まで飛び立った。
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「まったくアイツは……緊張感とか持ち合わせていないのか?」
「まあ、シン殿ですからねえ……」
災害級の魔物が地平線を埋め尽くすほどの数で現れ、それがゆっくりとはいえこちらに向かってきている。
この世の終わりとも言えるほどの光景が目の前に広がっているにも関わらず、いつもの軽い調子で飛んで行ったシンを見ながら、オーグは呆れのため息を、トールは苦笑いを浮かべていた。
各国の指揮官達にとっては、魔物側の光景も信じられないが、味方であるはずのシン達の行動も理解できない。
「で、殿下……何をおふざけになっているのですか? こんな、こんな非常時に」
「そ、そうですとも! それに、先ほどの魔王殿の発言、そんな壁などすぐにできるのですか!?」
各国の指揮官達の苦言ももっともである。
災害級の魔物の異常発生とその侵攻。
明らかな世界滅亡の危機を前に、友人同士でふざけあっている。
そんな風にしか見えなかった。
「ふむ。確かにそうだな。それでは早速始めるか。お前達、何メートルくらいいけそうだ?」
「私は、一度に十メートルくらいですかね」
「あたしは五メートルくらいかなあ……土の魔法ってちょっと苦手なんだよね」
「私も」
オーグの問いかけに、マリアは十メートルはいけると言い、アリスとリンは五メートルくらいだと言う。
「自分、普段の鍛冶で土系の魔法を結構使ってますから、十五メートルくらいはいけると思います」
そんな中、普段、鍛冶や彫刻で土をいじることの多いマークが、最長の数字を言った。
その言葉に困惑を隠せないのが各国指揮官達だ。
「五メートルとか、十メートルとか……一体何の話ですか?」
「まあ、見ていれはわかるさ。じゃあ、今申告があった間隔を空けて配置につけ」
『はい!』
指揮官の質問に返事を濁したアウグストは、皆に配置につくように指示をすると、最後に一言付け足した。
「壁の向こう側はどうなっても構わん! むしろ深く掘り下げればそれが障害になる! 思いっきりいけ!!」
『了解!!』
アウグストの号令に一斉に返答するアルティメット・マジシャンズ。
すると、各国の魔法師団では感じたことがないほどの膨大な魔力が彼・彼女達の周りに集まり始めた。
「こ、これは!?」
「なんという膨大な魔力だ……」
「これがアルティメット・マジシャンズ……」
驚愕し、呆然とする魔法使い達。
そんな彼らを尻目に、アルティメット・マジシャンズ達は、先ほどシンが言っていた数値を思い浮かべる。
縦三十メートル、厚さ五メートル、幅は……できる限り。
イメージを完成させた彼らは、一斉に地面に手をつき、魔法を起動した。
その途端……。
「うお!?」
「じ、地震!?」
「あ、あれを!!」
突如揺れだした地面。
その直後に、まるで地面から生えるように土魔法でできた壁がそそり立った。
先ほど、厚く大きすぎると言ったサイズの土壁。
そのサイズの壁が、一瞬で出来上がっていく。
そして、その幅には個人差があることに気がついた。
「そうか……先ほどの申告は、一度にどれだけの幅の壁ができるかの申告だったのか……」
「そういうことだ。今ならまだ確認できるから、壁の向こう側を見てみろ」
色々納得した指揮官達に、魔法を行使し終わったアウグストが声をかける。
すると、その言葉が気になったのか、指揮官達は壁の向こう側に走って行った。
「あ、気をつけろ。その向こうは崖になってるぞ」
先ほどまで平坦な平原であったそこを指して崖になっているというアウグスト。
その言葉に疑問を持った指揮官達は走る速度を緩めた。
その結果……。
「う、うおっ!」
「こ、これは!」
「すごい……」
このそそり立つ壁を作るための材料になった土は、壁向こうの地面から調達した。
その結果、壁の前にとても深い堀ができていたのだった。
「だから、気をつけろと言っただろ?」
その言葉に疑問を持たなかったら、危うく崖下に転落しているところであった。
その事実に冷や汗をかいていた各国指揮官達は先ほどのアウグスト達の態度にもようやく納得がいった。
「これほどの魔法を行使できるのであれば……先ほどの余裕も頷けますな」
「本当に……まるで夢でも見ている気分です」
指揮官達の後ろから見ていた兵士達も、その成果が信じられないのかどよめきが起きている。
しかし、そんな賛辞を送られているアウグスト達は極めて冷静だ。
「まあ、褒めてもらえるのは嬉しいのだがな」
「え?」
そう言って、苦笑するアウグスト。
そんなアウグストに不思議そうな顔を向ける指揮官達。
「そうですね、正直、シン殿ならどういうことになっていたのかと考えると、そう素直に喜べな……」
シンと比べたらどうなのか?
そんな思いがある以上、アルティメット・マジシャンズの面々は魔法を誇る気にはなれない。
そんなことをトールが言おうとした矢先に、遥か遠くに土煙が上がった。
そしてその土煙は、横に凄まじい勢いでスライドしていき、旧帝都と魔物の群れを囲うように動いていた。
「あれは、まさか……」
嫌な予感がしたアウグストは、遠見の魔法を使ってその土煙の正体を探ると……。
「やっぱりか……」
土魔法によって巨大な壁を作成しながら、飛行魔法によって地面スレスレを飛んでいるシンを見つけた。
自分達が五メートルや十メートルの壁を作るのに、割と苦労しているというのに、シンのあれはなんだ?
一度に、一体何十メートルの壁を作っているのか。
そして、それをどれだけ連続で行使しているのか。
アウグスト達は、やはり呆れ顔になり、指揮官達は、顎が外れんばかりに大口を開けて驚愕していた。
「私達も負けずに壁を作り続けるぞ! ほらお前達! そんなところにいると壁の内側に取り残されるぞ! 早く避難しろ!」
揃って驚愕していた各国指揮官達やガランは、アウグストのその言葉に、災害級の魔物がひしめく壁の内側に取り残される未来を想像し、大慌てで退避した。
「シンにばかり負担を掛けさせるな! 私達もできる限り壁を作るんだ!」
そのアウグストの言葉に、皆が再度壁を作り始めた。
高速移動で巨大な壁を作っていたシンが、突如その作成をやめ、魔物の群れとアウグスト達の間を横切っていった。
そして、ある程度のところまで辿り着くと、今度は旧帝都方面に向かって壁を作り出した。
(あとは任せたということか)
全部をシンが一人でするのではなく、アウグスト達にも仕事をさせる。
そうすれば、この成果は皆のものになる。
恐らくシンはそう判断したのだろうとアウグストは察した。
「まったく……世間知らずのくせに、妙な所で気が利くなアイツは」
「不思議な人ですね。相変わらず」
「まったくだ」
シンのお陰でなんとかなりそうだ。
そう思ったアウグストの口から笑みが溢れた。
「さあ、あと少しだ。しっかりやるぞ!」
「はい!」
こうして、シンが途中まで作っていた壁とアウグスト達が作っていった壁が繋がり、旧帝都を完全に包囲する壁が完成したのであった。
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旧帝都を完全に包囲する形で、デカイ壁を作ることができた。
これでしばらくは時間を稼げるだろう。
その間に、対策を練ることもできるだろう。
もちろん、最終的な目標は、魔物の根絶だけど、その方法なども話し合わなくちゃいけないし、ついにシュトローム側の魔人も出てきた。
正直、足止めがこれだけっていうのも不安がある。
そんな思いを抱きながら、俺はオーグ達の元まで戻ってきた。
飛行魔法を解除し、地面に降り立った俺を出迎えたのは、各国軍兵士達の大歓声だった。
「凄かったぞ! 魔王!」
「いや! これはもう魔王様と呼ぶべきだろう!」
なんだと!? 魔王だけでも大概なのに、さらに様付けだと!?
「魔王様! なんだ!? 妙にしっくりきやがるぜ!」
「魔王様! 魔王様!」
突如起こった魔王様コールに俺は呆然としてしまった。
……俺達は、一体いつから魔王軍になったのだろうか……?
そんな呆然としている俺の元にシシリーと、ついでにオーグもやってきた。
「シン君! 凄かったです!」
「まったくな……なんだあれは? 正直、怪奇現象にしか見えなかったぞ?」
「怪奇現象って……魔物の群れが到着する前に包囲しなきゃいけなかったからな。急いでやったらあんな形になった」
「まったく、やっぱり自重は知らなかったか」
「あれ? あれはダメだったか?」
派手な攻撃魔法は使ってないし、兵士さん達にも受け入れられているから大丈夫だと思ってた。
「あれは、あまりの超常現象に理解が追いついていないだけだ。一種の現実逃避だな」
現実逃避って……と、オーグとそんなやり取りをしていると、指揮官さん達も集まってきた。
「いやはや、さすがは魔法使いの王、魔王と呼ばれるだけはありますな」
「本当に。アウグスト殿下方の魔法も凄まじいと思いましたが、これはちょっと……」
「桁が違うだろう?」
言葉を濁した指揮官さんのセリフの後を、オーグが引き継いだ。
言いにくいことをズバッと言ったオーグに、指揮官さん達は目を丸くしている。
「何をそんなに驚いている? シンと私達の間に途轍もなく大きい実力の差があることは、私達が一番知っているんだぞ?」
事も無げにそういうオーグに、またしても指揮官さん達は驚きの表情をする。
それはそうかも。オーグって、忘れがちだけど王族だ。
王族の人間が他の人間より劣っているなど、面と向かって口にはできない。
それを自分の口で言うことなど、本当ならありえないことなんだろう。
「実力差がありすぎると、別に悔しくもなんともないからな。気にするな」
「それはそうとオーグ、これから……」
そういうオーグに、これからのことを尋ねようとした時だった。
『フッフフ、アハハハ! アハハハハハ!!』
拡声魔法だろう。
突貫で作り上げた壁の前にいる、俺達全員に聞こえるように、突如楽しげな笑い声が響き渡った。
『いやはや、相変わらず、とんでもないことをしでかしますね』
そして、その声には聞き覚えがあった。
「オーグ! これは!」
「分かっている!」
『フフ、久しぶりですねえ。アウグスト殿下、シン=ウォルフォード君』
「貴様! シュトローム!!」
そう、魔人どもの首魁。オリバー=シュトロームの声だった。