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賢者の孫  作者: 吉岡剛
102/311

淡い希望

ぎっくり腰になってしまいました(´・ω・`)


痛くて椅子に座っていられませんでした。


なので、一週開けてしまいました。



申し訳ありません。

 アールスハイド兵士達は絶望していた。


 災害級の魔物の群れという前代未聞の相手に、勝つこと、そして生きることを諦めかけていた。


 そんな死を覚悟した彼らの前に、救いの神が舞い降りた。


 それは『雷神』の二つ名を冠する、彼らの敬愛する王太子、アウグスト=フォン=アールスハイド、その人であった。


 アウグストの放った雷撃に目をやられる兵士が続出したが、正に天の怒りともいうべき雷撃によって、周囲の魔物は尽く黒焦げになっており、兵士達に新たな被害者を出すことはなかった。


 部下の命を救った王太子。


 突然降り注いた雷撃にいまだに目がチカチカしていたが、彼らの忠誠心は爆上がり中だった。


 そして、その忠誠心を一心に受けるアウグストは、目の前に広がる光景に奥歯を噛み締めた。


「おのれ……我が国の民をよくも……!」


 そう小さく呟くと。


「聞け! 我が国の勇敢な兵士達よ! 私達が来たからには、魔物どもの行く末は決まったようなものだ!」


 そう叫んだアウグストは、兵士達を見渡し、さらに続けた。


「なぜなら、これから私たちに全て討伐されるからだ!」


 そのアウグストの言葉を受けたアルティメット・マジシャンズの面々が魔力を集め始めた。


「騎士達は一旦離脱しろ!」


 その言葉を受け、ジェットブーツを起動し、あっさりと後方に引く騎士達。


 前線に誰もいなくなったことを確認したところで。


「放てっ!」


 残った魔物達に向かって一斉に魔法を放つアルティメット・マジシャンズ。


 アウグストと、今こちらに向かっているマークを除く九人が一斉に魔法を放つと、それはまさしく天変地異。


 あまりの高威力に、今まで何度かアルティメット・マジシャンズの魔法を見たことがあるはずのアールスハイド王国軍の兵士達が、アングリと口を開けてしまった。


 しかし、それでも討伐できた災害級の魔物は十数体程度。


 まだまだ魔物は残っていた。


 それを見たアウグストはさらに言葉を発する。


「兵士達よ! 力を振り絞れ! 私達が付いている、必ず……必ず生きて帰るぞ!!」

『オオオオオオオオッ!!』


 生きて帰る。


 先ほどまで、諦めかけていたそれを、アウグストは思い出させてくれた。


 活力の戻った騎士達は、魔物に向かって再度剣を向け、そして……。


「魔法師団! 全員でぶちかませ!!」


 その号令と共に、アルティメット・マジシャンズより数の上では圧倒的に多い魔法師団から、数え切れない魔法が打ち出される。


「騎士団、突撃ぃぃっ!!」


 騎士団員達も負けじとジェットブーツを起動し、再度魔物達に突撃する。


「あたし達も行くよおっ!」

「魔物は殲滅」


 やる気充分のアリスとリンを先頭、アルティメット・マジシャンズの面々も戦闘に参加していく。


 開戦の仕方は最初と同じだったのに、彼らがいるだけでアールスハイド軍が不利に陥ることはなかった。


 魔法師団が魔法を集中砲火で浴びせ、そこに騎士団が追撃する。


 危なくなりそうだったら、アリス達が援護する。


 戦局が自分達に有利に傾いたと感じたアウグストは、次の指令を出す。


「クロード!」

「はい!」


 ただ一人、魔物の討伐に向かわず、アウグストの側に控えていたシシリー。


 彼女は、自分の役割を理解していた。


「お前は負傷兵達の治療に当たってくれ! 頼む! これ以上誰も死なせないでくれ!」


 アールスハイド王国の王族として、民とは貴族・平民を問わず宝であり財産だ。


 兵士達とて、等しく宝なのである。


 それを魔物の襲撃などでこれ以上失うことは、アウグストには耐えられない。


 なので、シシリーに重症の兵士の治療を、頭を下げて依頼した。


「殿下……かしこまりました! お任せください!」


 普通なら、頭を上げるように進言するのだろうが、今はその時間すら惜しい。


 シシリーは、怪我をした兵士達が運ばれている区画に向かって走って行った。


 走っていくシシリーを横目で見ながら、アウグストは駐留軍の司令官を呼んだ。


「状況の説明を。あの魔物どもは各国の駐留軍にも現れたのか? それとも我が国の駐留軍のみか?」

「はっ! それについては確認できております。各国には現れておりません。我々の方面のみでございます」

「そうか」

「はい。それと、我々からの連絡を受けた各国が、救援に向かっているとのことです」

「ありがたいな。この魔物どもを討伐することができれば、我々の絆はさらに深くなるだろうな」

「左様でございますな」


 魔物さえ討伐できれば、各国との繋がりはより強固なものになる。


 そのためにも、このまま何事もなく魔物討伐が終わることをアウグストは切望していた。


 そして、そのアウグストからの命を受け、臨時の救護所に到着したシシリーは、常駐の治癒魔法使いに声をかけた。


「重篤な方から連れてきてください!」


 先ほどまで、生きることを諦めるような激戦が繰り広げられていたのだ。


 怪我人の数も半端ではなかった。


「聖女様! お、俺を、俺を治療してくれ!」

「テメエ! 重篤な患者が先だって聖女様が言ったろ!!」


 この駐留部隊にも治癒魔法使いはいる。


 しかし、シンのもとで生物の構造や、肉体を構成している細胞などの講義を受け、それを教会の運営する治療院で実践し、アールスハイド王都では治癒魔法の天才、聖女シシリーの名を知らない者などいない。


 そのシシリーが治癒魔法を施してくれるというのだ、重篤な患者からという言葉を無視して、怪我人が殺到し始めた。


「あ、あの! 話を聞いてください!」


 なんとか、重篤な患者を優先的に連れてきてもらおうと必死に声をかけるシシリーだったが、戦闘と負傷によって興奮した兵士達は聞く耳を持たない。


 このままでは、アウグストに任せられた任務がこなせない。


 そう思った時。


 彼らの頭上で、極小さい、しかし無視できない規模の魔法の爆発があった。


 その音に驚いた負傷兵達は、一瞬動きを止めた。


「アナタ達! ウチの妹を困らせるとは、いい度胸をしてますね!?」

「ウフフ……困った人達にはお仕置きが必要かしら?」

「お姉様! ご無事だったんですね!」


 動きを止めた瞬間を見計らって、負傷兵達を諌めたのは、シシリーの姉であるセシリアとシルビアであった。


 シシリーの言うことを聞かず、我先にと治療を求めてきた兵士達に対し相当お怒りの様子で、その顔は憤怒の形相だ。


「シシリーが言っていたでしょう! 自力で動けない重症の患者から連れてきなさい!」

「もし気に入らないというなら、私が重症の患者にしてあげてもよろしいいですよ?」

「お、お姉様……」


 魔法師団員として従軍し、今回の駐留軍にも参加していたセシリアが兵士達を叱咤する。


 シルビアは、何やら不穏なことを呟いた。


 すると、セシリアの叱咤が効いたのか、シルビアの脅迫が効いたのか、兵士達は慌てて重症の患者を探し始めた。


 そして、意識がなく、見るからに重篤な状態の兵士達は何人も運ばれてきた。


「これは……」


 連れてこられた兵士達を見て、セシリアは一瞬言葉に詰まる。


 腕の骨が折れ、その骨が飛び出し、内臓も一部出ている。


 正直、助かるとは思えない。


 それほどの負傷だった。


 そして、それを今からシシリーが治癒しようというのだ。


 失敗する可能性の方が高い。


 そうなればシシリーのことだ、自分のせいだと落ち込んでしまうかもしれない。


 そう危惧したセシリアとシルビアは、シシリーに声をかけた。


「シシリー、その……」

「助からなくても、無理はないのよ? だから、無理して治療しなくても……」

「セシリアお姉様、シルビアお姉様」


 二人の姉からかけられる言葉をシシリーは途中で遮った。


「ご心配頂いているのは分かります。でも大丈夫です。私、シン君に色々と鍛えられましたから」

「え?」


 いくら治癒魔法が得意な者とはいえ、負傷した人間というものは中々見慣れるものではない。


 セシリアとシルビアは、シシリーがひどく負傷した兵士の前で平然と話していることと、この惨状を見ても問題なさそうにしていることに驚いた。


 そして、シシリーはすぐに兵士の治療を開始した。


 まず、一番危険であろう裂けた腹部と内臓を、除菌をしながら腸を修復し腹腔内に収める。


 そして、内臓に裂傷がないか確認した後、腹部の傷を修復する。


 骨折した腕は、シンなら無理やり神経の伝達を切り強制麻酔を施すのだが、さすがにシシリーはそこまで真似できない。


 が、シシリーの治療には痛みをあまり伴わないらしい。


 シシリーが使う治癒魔法は、実は二種類の特性がある。


 一つは、シンにより教授された医学知識をもとにした肉体の再生。


 そして、もう一つは、元々治癒魔法とは慈愛の精神により、相手を癒したいと思う気持ちが大きいと発動する。


 シン式の治癒魔法を発動させつつも、患者さんを助けたいと思う気持ちが、痛みの軽減という副次的な効果をもたらしていた。


 みるみるうちに負傷が再生していく兵士。


 そして、その様子を周囲の人間は驚愕の目で見ていた。


「……ふうっ、終わりました! 傷は治癒しましたが、失った血は再生できていませんので、後方で安静にさせてください!」

「あ、は、はい! かしこまりました!」


 一人目の治療が終わったと告げるシシリーに、彼女よりも大分年長の兵士が、尊敬の視線を送りながら返事し、治療を終えた兵士をもう一人の兵士と担架で運び出した。


「次の方! どうぞ!」

「シ、シシリー?」

「なんですか? セシリアお姉様」


 あまりにも呆気にとられたセシリアは、シシリーに今の治療について聞いてみることにした。


「なんなの、あれ? あんな治癒魔法、見たことないわ……」

「え? ああ。だってあれ、シン君に教えて貰った治癒魔法ですから」

「シン君に?」


 次の患者を治療しながら、シシリーが簡潔に答えた。


 セシリアとしては、もう少し聞きたいところであったが、シシリーは今の説明になっていない説明で終わったと思ったのだろう。それ以上言葉を紡がなかった。


「……え? それだけ?」

「はい? シン君が魔法を開発する……それだけで今までの魔法とは違う、規格外なものって分かるじゃないですか」

「あ、そんな認識なのね……」


 セシリアは意外だった。


 シシリーとシンのラブラブ振りはよく知っている。


 任期の交代で実家に戻った時など、人目もはばからずイチャイチャする光景に、本当に砂糖を吐きそうだった。


 なのでシシリーは、シンに関することは無条件で受け入れているものだと思っていた。


 これも無条件は無条件だが、どうやら意味合いが違うらしい。


 セシリアが考え込んでいる間に、患者の治療が終わっており、また別の兵士によって運び出されていった。


 そして、次の患者が運び込まれるまでの間に、シシリーは先ほどの説明の続きを話し出す。


「シン君は考え方が普通の人とちょっと違うみたいなんです」

「考え方が?」

「はい。シン君は私達が受けている初等、中等教育は受けていません。ですが、尋常ではないくらい頭がいいです」


 その辺りはセシリアやシルビアも知っている。


 シシリーがメインヒロインとして登場する『新英雄物語』は、それこそ何度も読んだ。


「信じられないことですけど……シン君は、全部自力で学んだんです。自然現象のこと、生物の構造のこと。その他色んなことを、全部独学で」

「ど、独学!?」

「で、でも、賢者様や導師様が教育されたんじゃないの?」


 セシリアが驚き、シルビアが疑問を呈したところで、新たな患者が運び込まれてきた。


 今度はどうやら、内臓に深刻なダメージを受けているらしく、吐血している。


 シシリーはその患者に、シンから教わった超音波診断の魔法をかけ、内臓の損傷箇所を探り当て、そこに再生治療を施していく。


 段々と顔色が良くなっていく患者を見て、もう大丈夫だと判断したシシリーは、先ほどの患者を搬送した兵士達に再度後方への搬送を依頼した。


 そして、次の患者が運び込まれるまでの間に、先ほどのシルビアの疑問に答える。


「お爺様もお婆様も、シン君には魔法の使い方と魔道具の作り方しか教えてないそうです。文字の読み書きを覚えた頃から、ハーグ代表の持ってくる書物で勝手に覚えてたと、そう仰ってました」

「勝手に覚えた……」

「天才っているものなのねえ……」


 驚くセシリアと呆れるシルビア。


「そんなシン君が使う魔法です。普通なわけがないです」


 シシリーの言葉に、セシリアとシルビアは納得した。


 さすがは魔法使いの王『魔王』と呼ばれるだけのことはある。


 常人には理解しがたい世界観の中で生きているのだろう。


 そうしている内に再び運び込まれる患者。


 軽症の患者は他の治癒魔法使いが担当しているため、さっきから重症の患者ばかりが運び込まれる。


 今度の患者は腕がちぎれかけている。


 シシリーはちぎれかけている腕をずれないように慎重に合わせ、骨を、筋肉を、血管を、そして神経までもつなぎ合わせていく。


 治療が終わった時、元通りに動く腕を見て、騎士は呆然をしていた。


「すみません。次の患者さんが来ますので、場所を開けていただけますか?」

「あ、は、はい! ありがとうございました聖女様!」


 そう一礼して踵を返し、戦場へと駆けていく兵士。


「うおおお! 聖女様のために! 俺はやる……え?」


 意気揚々と駆け出していった兵士だったが、不意に言葉を切った。


 その後、その兵士は叫ぶ。


「魔物が! 魔物がこっちに向かってきてる!」


 その言葉に、臨時の救護所となっていた場所にいた人間は、一斉に振り返った。


 するとそこには、包囲網をくぐり抜けてきてのであろう、巨大な狼の魔物がこちらに疾走してきている姿が目に入った。


「しまった! 後方だからと油断した!」

「ダメ! 間に合わない!」


 マーリン式の練習で魔力制御量が増大していたセシリアとシルビアだが、まだ完全に無詠唱で魔法を使えるところまではできていなかった。


 その結果、治療に専念していたシシリーも咄嗟に治療を止めることができず、あわや魔物の急襲が成功したかに思われた。


 が。


「そうはさせないッス!」


 遅れて到着したマークが、狼の魔物に向かって極太の炎の槍を数本高速で打ち出した。


 最初の攻撃は避けられたものの、その逃げ道を予想したかのように放たれた炎の槍のうちの一本が狼の魔物に着弾した。


 セシリア達は続けて攻撃しようとしたが、その必要はなかった。


 たった一発の魔法で、災害級に至った狼の魔物は、体の真ん中に大きな穴を開け、絶命していたからである。


「クロードさん! 大丈夫ッスか?」

「はい。ビーン君、ありがとうございます」

「なんだか出遅れちゃったみたいなんで、自分、このままここの警護に当たります」

「よろしくお願いしますね」


 災害級の魔物を倒したとは思えないほどの軽いやり取り。


 確かにシンは規格外というより、異常と言っていいレベルだが、そのシンに率いられいる彼らも、十分に規格外な存在になっていると、セシリア達は感じていた。


 そして、他の規格外達はどうしているのかと、戦場の方へと視線を移す。


 するとそこには、見た目にもはっきり分かるほど数を減らした魔物達がいた。


 あと数体といったところだろうか。


 この短時間でよくもまあ……とセシリアは賞賛よりも、呆れの感情の方が強かった。


 これなら問題なく魔物達は討伐し終わると、そう思った時だった。


「「!!??」」


 シシリーやマークでさえも視線を向ける程の強大な魔力が発生し、アルティメット・マジシャンズに匹敵するほどの魔法が彼らに向かって放たれたのだ。


「っ! 殿下!!」


 思わずマークが叫ぶが、アウグストもその強大な魔力には気がついていた。


 若干驚きはしたものの、魔力障壁を展開し、自身の戦闘服に施されている防御魔法も起動。


 問題なくその魔法を防ぐことはできた。


「殿下! ご無事ですか!?」


 突然のことで驚いたトールが、アウグストの無事を確かめる。


「大丈夫だ! だが、今のはなんだ!? どこから攻撃された!?」


 アウグストが不審がるのも無理はない。


 ここにいたのは災害級とはいえ魔物である。


 魔物が魔法を使うといっても、それは身体強化などの魔法であり、このような放出系の魔法を使うことなどありえない。


 ならば、誰がこの魔法を放ったのか。


 考えられる答えは一つしかない。


 だが、その予想は当たってほしくない。


 そう思いながら、魔法が放たれた辺りを注意してみていると……。


「おいおい……冗談ならやめてくれ」


 今まで、魔力を隠蔽して隠れていたのであろう。


 魔人達がそこに立っていた。


「ほう、今のを防ぐか。やはり、シン=ウォルフォード以外も油断ならんな」


 自らの放った魔法が防がれたのが面白いのか、魔法を放ったと思われる魔人がそう呟いた。


 現れた魔人を見ながら、アウグストは最悪の事態になったことを予感した。


 できることなら、魔人達には旧帝都にておとなしくしていて欲しかった。


 彼らの首魁であるオリバー=シュトロームは、今目標を見いだせず、抜け殻になっているはずなのだから。


 それが動いた。


 ということは、シュトロームが何らかの行動指針を得たということに他ならない。


 そして、魔人達が取った行動は、やはり戦闘であった。


 その事実にアウグストは歯噛みする。


 魔人領攻略作戦はうまくいった。


 監視網も完成した。


 しかし、人類の安寧はすぐには訪れないようだ。


 アウグストは油断なく魔人達を見る。


 現れた魔人は五体。


 今まで多数の魔人を討伐してきたアウグスト達だったが、この魔人達は今までの魔人と違った。


 まず、落ち着いている。


 いきなり魔法を打ち込まれはしたが、その力に酔っている印象は受けない。


 なにより、一番の違いは……。


「なん……だ? この魔力は……」


 魔人特有の黒い魔力。その量が桁違いに大きかったのである。


「今までの魔人とは違うということか……」

「当たり前だろう? あんな頭足らずの連中と一緒にしないで頂けるかな?」


 アウグストの言葉に、魔人は心外だとでも言わんばかりの顔をした。


「随分と辛辣だな? 元は仲間だろう?」

「仲間? おかしなことを言うな。我々は魔人だぞ? 仲間意識などとうにないわ」

「なら、なぜお前達は徒党を組んでいるんだ?」

「全てはシュトローム様のため。我々の行動のすべてはシュトローム様と共にある」

「ふんっ。随分な信頼だな」

「当たり前だろう? 我々が今あるのは全てシュトローム様のお陰だ。それを裏切った無能ども。本来なら我々の手で葬り去りたかったところだ」

「……」

「そんな恩知らずなど、捨て駒として利用されただけでもありがたく思うべきだな」

「捨て駒……」


 その一言でアウグストの中で色々なことが符号していく。


 あまりにも短絡的な魔人達の侵攻。


 稚拙な戦術。


 今まで疑問とされてきたことが、ようやく理解できた。


「つまり、あの魔人どもの行動は全てお前達の指示だったと……そういうことか」

「ククク。あの馬鹿どもは全く気付いていなかったがな」


 初めて、魔人達と冷静に話をするアウグスト。


 その会話の中で、アウグストは彼らが人間として何かが欠落してしまっているのだと実感した、


 おそらく、シュトローム以外のことは本当にどうでもいいのだろう。


 魔人とはいえ、人の命に、欠片も価値を見出していない口振りだ。


「さて、私達がこうやって出向いてきたのは他でもない」


 離反した魔人達を捨て駒にしたという言葉に、皆がショックを受けている間に、魔人達がここに現れた理由を話し始めた。


「シン=ウォルフォードという最大の脅威がいないうちに……お前達を排除しておこうと思ってな!」


 その言葉を皮切りに、唐突に魔人達が動いた。


 そして、五体の魔人が一斉に魔法を放ってくる。


「防御魔道具起動! 兵士達は全員後方に下がれ! 巻き込まれても知らんぞ!」


 放たれた魔法を、自身の魔力障壁と魔道具によって防いだアウグストは、兵士達に退避命令を出した。


 アルティメット・マジシャンズと魔人との戦闘に巻き込まれてはかなわないと、大慌てで離脱する騎士達。


 それでも魔法の速度には勝てず、ジェットブーツを使用し、ジャンプしているところに着弾の余波を受けたため、何人か吹き飛ばされ宙を舞っていた。


 魔人達の魔法を防ぎきったアウグストは、シンがいないことをさも当然のように知っている魔人に対してある仮説を立てた。


「まさか! 教皇猊下が刺されたのは!?」

「ほう、そこに気付いたか。そうさ、我らによって洗脳された者を使った。当分シン=ウォルフォードはイースに足止めされるであろう」


 ニヤニヤと、自らの作戦でシンとアウグスト達を引き離したことを告げる魔人。


 そのことに、創神教徒であるアウグスト達は強い怒りを覚える。


「貴様ら!! 教皇猊下を餌に使ったのか!?」

「ククク、そうそう、うまく踊ってくれたし、うまく釣れたよ。後は、うまく殺してしまおうかねえ」


 魔人達はそう言うと散開し、複数人で一人を狙い始めた。


「うわっ! ちょっ!」


 最前線にいたため、真っ先に狙われたアリスは、咄嗟に戦闘服に施された防御魔法を起動させる。


「これは……中々厄介な魔道具を身につけているな!」

「へんっ! シン君特製の防御魔法だからね! 簡単に破れると思ったら大間違いさあ!」


 全ての魔法を防ぎきったアリスが、攻撃に転じようとしたとき。


「こっちの存在も忘れてもらっては困るな」

「え? きゃああああ!!」


 攻撃しようと、一瞬戦闘服の魔法防御が解かれた。


 その一瞬の隙をついて、別の魔人が攻撃を仕掛けてきた。


「コーナー!!」


 初めてアルティメット・マジシャンズに、直接的な攻撃が加えられた。


 そのことに、アウグストは思わず叫んでしまう。


 そして、魔法を食らったアリスの方は。


「うああ……ビックリした!! 死んだかと思った!!」


 咄嗟に再度防御魔法を起動したらしく、無傷でいた。


 アウグストはひとまずホッとするが、その間にも、魔人達は別の者に狙いを定め、攻撃を仕掛ける。


 あくまで複数で、防御魔法を解き、攻撃に移ろうとするとその隙を狙って攻撃を仕掛けてくる。


 人数に勝るアウグスト達は逆に取り囲んで攻撃しようとするが、複数人で一人を攻撃している際は、射線上に仲間がいるように誘導されてしまうため、魔法を放つことを躊躇してしまい攻撃に転じることができない。


「なら!」


 そう言って駆け出したのはトニーだ。


 その手にバイブレーションソードを持ち、魔法ではなく、近接戦で直越斬ってしまおうと考えた。


 だが。


「単独で突っ込んでくるとは、舐められたもんだな!」

「うっ! くそっ!」


 魔人の一人に狙いを定めると、やはり別の魔人が魔法によって狙い撃ちをかけてくる。


 そうなると、突撃を止め防御魔法を展開するか、回避しなくてはならない。


 トニーは咄嗟に回避した。


 魔人に近づいていたため、足を止めることは危険だと判断したからだ。


「チッ! 足を止めれば嬲り殺しにしてやったものを」


 その言葉に、トニーは背筋に寒いものが走るのを感じた。


 そして、この時点での全員の認識は一致していた。


(この魔人達、今までの魔人とは比べものにならないほど強い!)


 そう認識したからといって、事態が好転するわけでもない。


 魔人達の魔法はなんとかしのげているが、代わりにこちらも魔法が撃てないし、撃てたとして避けられる。


 魔人達もアウグスト達に強力な防御魔道具があったのは想定と違ったのか、お互いに決め手を欠いている。


 最初は、アウグスト達を殲滅するのにさほど時間はかからないと思っていた魔人達も、自分達の魔法が防御魔道具によって尽く無効化されているのに、段々苛立ちが込み上げてきていた。


 このままでは決着がつかない。


 そう判断したアウグストは、近くにいたトールに耳打ちをした。


(これからシンを呼ぶ。少し時間を稼いでくれ)

(わかりました)


 そして、魔人達が他の者に向かい、迎撃され、攻撃してこようとするところを牽制している隙に、一時戦場を離脱した。


 そして、異空間収納から無線通信機を取り出し、シンに連絡を取った。


 こうなれば、人類の切り札の投入しかないと判断して。

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魔法少女と呼ばないで
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