終章
こんな時、どんな選択をすれば良いのだろうか。
主人公たちなら、どんな選択肢を選んぶだろうか。
そんなことを、ほんの少しだけ考えた。
でも俺は、二人の笑顔を壊すことなど出来ない。
出来ないし、したくもないし、まずそんな勇気など持ち合わせていない。
だから、俺に出来ることはただ一つ。
彼女の幸せそうな笑顔を思い出したら、自然とそれは浮かんできた。
俺はやっぱり、彼女のことが好きだ。
彼女が彼と付き合うと知ってもなおこの気持は変わらない。
だから。
だから、俺は。
俺は、彼女たち二人の恋を応援する。
全力で応援してやる。
そのことに、躊躇いはなかった。
彼女を奪った憎き相手だとか、他の男にデレているのを見て辛くないのかとか、いろいろ言われるかもしれないけれど、そんなことは一切思わなかった。
彼は、俺の友人だ。
彼を俺は信用している。
彼を彼女は信頼している。
彼なら彼女のために全力を尽くすだろうし、全霊をかけるだろう。
そう信じている。
だから、俺は二人を応援する。
そのためになら、俺は道化にだってなろう。
俺は、彼女たちの笑顔を応援するんだ。
そんな偽善を掲げながら。
そう。
偽善。
どんなに良い面したって、どんなに彼女のためと謳ったって、一見自分を殺して相手のために陰ながら戦う、正義のヒーローに見えるけれど、所詮は全て偽りの善でしかない。
結局は、いつも同じ、自分のためなのだ。
行動を起こすのが怖い。
状況を変えるのが怖い。
嫌われるのが怖い。
相手の悲しむ顔を見るのが怖い。
だから俺は、二人を応援する。
善を。
偽善を、重ねる。
そうすればきっと、誰の心も傷付かないと思うから。
そうすれば、俺の心の傷付かずに済むと信じて。
彼女に恋をしていた俺という存在はもう既に消え去った。
結局俺は、最後まで主人公になどなれはしなかった。
それどころか、物語に深く関わることすら出来なかった。観客、読者、プレイヤー、行ってもせいぜい、主人公の友人役が関の山だったろう。
しかしまぁ、全ては自業自得の結果でしかない。
日和ってなんかいないで、恐れてなんかいないで、行動をしていたら、何かが変わっていたかもしれない。
もしかしたら、彼女の隣に立っていたのは、俺だったかもしれない。
そんなことを思ってしまう。
けれども、全ては終わった話。
自分の中で始まり、自分の中だけで終わってしまった物語。
物語といっても、本編からは外れた、おまけの番外編のスピンオフ作品ではあるが。
おまけはおまけ。
本編とは何の関係性もない、本来は存在しえない物語。
語られることなどなかったはずのお話。
知らなければ知らないで、何ら問題はないのだ。
そしてその物語は、終わってしまってもなお、明確なエンディングを迎えることもなく、だらだらと続いてゆく。
俺は、偽善者であり続ける。
胸にしまった片想いが、いつか色褪せ、思い出へと風化するまで。
俺は、いつもと変わらず仕事を始める。
今日もまた、彼女と彼と三人で仕事をする。
でも今日からは、今までとは違う。
これまでの片想いは、もう既に鍵を掛けて胸の奥へとしまい込んだ。
それから、俺は二人に言うのだ。
さぁ、今日も頑張ろう、と。
本作品は、作者が高校時代に所属していた文芸同好会の会誌にて掲載されたものです。