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persona

作者: 久和良悟真
掲載日:2006/05/27

彼は突然転校してきた。

夏休みも間近に迫った、7月の第2木曜日だった。

「は〜い。みんな、聞いてくれる?」

担任の香川静香先生がそう言うと、みんなのざわめき(もちろん私も入っている)が消えた。

「よし、首尾がいいね。それじゃ、本題。今日新しくこのクラスの一員になる人がいます。さあ、入ってきて」

香川先生が開いたドアから廊下に向かって手招きすると、彼は入ってきた。

私は一目見て、ドキッとした。

それは、別に運命の出逢いだとか、一目惚れとか、そういった類じゃない。

――――私がドキッとしたのは彼の顔を見たからだ。

何かおかしかった。

一瞬、真っ白な…そう、ちょうどガストン・ルルーの小説に出てくる、オペラ座の怪人の仮面をしているかのような顔だった。

けれどもう一度良く見ると、もうその仮面はなくて、いたって普通な顔になった。

「架神キョウスケです。よろしく…」

「はい、それじゃあ席は…ユミの隣ね。」

香川先生は教室内をぐるりと見回してからそう言った。

その席とは、つまり私の席の前だった。

何故かわからないけど、ユミはとてもうれしそうな顔をしている。

私といえば、もう彼の顔が怖くてたまらなかった。

もう一度あの顔が見えたらどうしよう。

あの仮面のような顔が…


休み時間になって、架神くんがいないときを見計らい、私はユミに訊いてみた。

「ねぇ、彼の、架神くんの顔って…」

私が全部言う前に、ユミはにんまり笑って口を挟んだ。

「超よくない?あたし好みなんだけど…」

「えっ?!」

彼の顔がいい?

私は自分の耳を疑った。

ユミのタイプの人とは、まったく違うと思ったのに。

それに、彼の顔…

私には、この友人が何を考えてこう言うのかがわからなかった。


驚くことにクラスのみんな、ううん、彼を見た友人はみんな、『かっこいい、自分のタイプだ』という。

やれ芸能人の誰に似ているだの、スポーツ選手の誰に似ているだの…

だけど、不思議なことに、似ている、と挙げられた芸能人は多数いた。

どういうことなのかわからないけど、もう彼には関わらないほうがいいと直感した。

私は努めて彼を見ないようにした。


7月の終わりに、私の住んでいる町のお祭りがあった。

ユミや他の友達と待ち合わせをして、屋台を歩き回ったり、わたあめを買ったりして、最後に花火を見に行くことになった。

その途中で、私はみんなとはぐれてしまった。

どこに行ったのかわからない。けど、とにかく花火の見えるトコにいるだろうと思って、しばらく1人でとぼとぼと探し歩いていた。

そんなときだった。

「あれ?たしか君は…カイリさん、だよね?」

私はいきなり自分の名前を呼ばれたので、ビックリして声のしたほうを振り返った。

するとそこには彼…架神くんがいた。

「え、ええ」

私は突然のことだったので、どうしようかと慌てた。

「どうしたの?1人?」

「ううん。ちょっと、友達とはぐれちゃって…」

「へぇ、それは大変だね」


一瞬の沈黙。


「あ、ああ。その…一緒に探そうか?」

「えっ?」

「もし君さえよければ、僕も一緒に探すよ」

私は考えた。

彼は何を考えて言うのだろうか?



まさか…?



いや、そんなことあるわけがない(それこそ自意識過剰というものだ)。

私だって、そんな美人な方じゃない。平均的な、どこにでもいそうな娘だ。

彼にしても、ちょっとした気まぐれなんだと思うことにした。

私はおそるおそる(そうだとバレないように)頷いた。


結局ユミたちは見つからなくて、何故か私は成り行きで架神くんと一緒に花火を見ることになった。

花火と言うのは、近くで見ると迫力があっていいのだけど、その分音がうるさくて堪らない。


「君は、誰の顔に見える?僕の顔…」

そんな中、架神くんは言った。

一瞬、何のことを言っているのかわからなかった。

「?…別に、誰にも見えないよ。架神くんは架神くんでしょ?」

とりあえず、そう答えた。

すると、彼は驚愕したような顔をした。

そして、次の瞬間には笑みを漏らしていた。

「そうか…やっぱり君には無いんだね」

「何のこと?」

「仮面さ。わからない?」

そう言うと、彼の顔がみるみる変わっていった。


そう、例の仮面だった。


「きゃっ!?」

「…わかっただろう?これが仮面さ。」

もう架神くんの顔は元に戻っていた。

「…どういうことなの?」

そこには意外と落ち着いている自分がいた。

「人は幾重もの仮面をかぶって生きている」

「よく、わからないよ」

私は首を振った。

「…いいんだ。たぶん、今のままだとわからない。君はまだ、仮面を創りだしていないんだから」

「私は?みんなはもう?」

「大概の人は持っている。それこそ何十枚も何百枚もね」

「…でも、それがあなたの顔とどう関係があるの?」

「それは…欲望さ」

「欲望?」

「そう、人間は欲望の塊だ。もちろん君みたいな例外もあるけどね」

架神くんは私をまじまじと見つめると微笑んだ。

「人間は誰しも、自分はこうありたい。他人にはこうであって欲しい。そう、理想を追い求めている」

「それが、あなたの顔に?」

架神くんは頷いた。

「僕の顔はみんなの願望によって変わる。君が見たのは僕のオリジナルの顔だよ。」



私は長く、深い溜息をついた。

「あなたはいったい?」

私が問うと架神くんは微笑んだ。

「僕は仮面だよ」

「嘘!だって…」

「ウソじゃない」

「じゃあ?」

「…もう、お別れだ。」

架神くんは言った。



花火が上がり、弾ける音が聞こえたときにはもう、架神くんの姿は私の目の前から消えていた。


拙い文章で、言いたいこともままならない作品です。

最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。内なる仮面、物語としては面白かったです。  ただ、架神くんが結局何のために現れたのか……途中で終わっているようで残念です。  続きの物語を読んでみたかったなと感じました。それでは…
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