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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode03-2 本気のチーム

 3重もの防御魔法をかけられた時点で、アルベールの不安はピークに達していた。

「公平を期すために、耐久力が少ない方には鋼の魔法をかけております。しかしながらこれは、背骨や脊髄内臓各種といった負傷すると二度と戻らない部位を守護するための魔法ですので、痛みを和らげる効果はございません。また度重なる負傷で魔法の効果が落ちる場合がありますので、もう無理だと判断した場合は速やかに棄権してください」

 そんなアナウンスをしながら魔法をかけていく魔法使い達は、大会運営が用意したボランティアである。

「あっ間違えた」

 とか言っているのが若干気になるが、ボランティアとして集められた者達の殆どは、魔法学校の若き生徒達だから仕方がない。

 出来ることなら、自分で自分に魔法をかけたいとアルベールは切望したが、選手が魔法を使うことは禁止されている。

 いかなる場合でも、武器と魔法を使ってはならない。

 それがカルチョ・ストーリコの鉄の掟なのだ。

 魔法使い故にかけ方が甘い魔法に不安を覚えてしまいながら、アルベールはため息を重ねる。

「今更後悔してんなよ」

 そう言って、彼の側に来たのはヒューズだ。

「よりにもよって一回目で巨人族と対戦なんだよ。あと・・・」

 まだ何か不安があるのかと尋ねようとしたヒューズは、アルベールが着ているコスチュームにを引っ張っているのに気付く。

「これ超ダサイ」

「お前、またそう言うどうでも良い事を……」

「どうでも良くないよ、こっちはレナスさんに格好いいところ見せなきゃいけないのに!」

 彼らカルチョ・ストーリコの選手が纏うのは、フロレンティア建国以前にこの街を守護していた騎士の様相である。

 現在の騎士の制服や鎧は、実用性と防御力を考慮した生地や素材で出来ているため、騎士と言うよりはステイツや英国の軍や警察騎士団からのデザインや装備を取り入れた物が多く、アルベールがダサイと言い放つ服とはだいぶ違う。

 今時キンキラキンの甲冑だの、タイツだの短パンにはねつき帽子だのと言った騎士らしい装備を常時着用しているのはしているのは南ローマの騎士くらいだ。

 フロレンティアも歴史ある国なので、勿論礼服や特殊装備として騎士らしさに溢れたコスチュームもあることはあるが、纏うことはまれだ。

 だがカルチョ・ストーリコとなれば、話はまた別である。

 そもそも古式サッカーは騎士達が行っていた訓練から派生したスポーツ。それ故衣装も騎士の歴史を再現した物になっており、無駄に派手な色彩と装飾に飾られた短パンと上衣いう少々珍妙な格好なのである。

 衣装はチームごとに異なり、アルベール達の所属するサント・スピリト地区の衣装は白だ。

 本日戦う敵チームの色は緑で、その他に青と赤があり、4つのチームはその色で呼ばれることが多い。

「まあ、そうごねるなよ。どうせ服装なんてろくに意味ねぇんだから」

「それこそが問題なんだよ」

 そう言ってアルベールが頭を抱えたとき、唐突に彼の服を引くたくましい腕が現れた。

「そろそろ試合始まるぞ。さっさと脱げよ王子様」

 そう言って、無駄にたくましい胸板を恥じらいもなくさらしているのは、ヒューズの上司であるガリレオ騎士団団長ヴィートである。

「やめてよヴィート! ってか監督なのに、なんで一番最初に脱いでるのさ!」

「そりゃお前、観客席の美女達がこの俺の色気ムンムンの胸板を待ちわびているからだ」

 自意識過剰にもほどがあるが、言ってきく性格ではないことはアルベールもわかっている。

 世間的には認知されていないが、彼はアルベールの兄でありフロレンティアの第5王子なのだ。

 過去の様々な出来事を思い出し、口をつぐむアルベール。そんな彼に変わり、ヒューズがヴィートに指摘する。

「監督は脱ぐ必要ねぇし、誰もお前の裸なんて望んでないと思うが」

「俺は去年の英雄だぞ。サント・スピリト地区を10年ぶりの優勝に導いたんだ」

「お前が本気出したお陰で、今年からすさまじい助っ人が増えちまったんじゃないか」

「勿論責任は取る。だからこそ、今年は俺が監督になったんじゃないか」

 そう言って、側に置かれたベンチの上に立ちヴィートは声を張り上げる。

「良いか野郎ども! 作戦はこうだ」

 ばんっと足を踏みならし、ヴィートは高らかに宣言する。

「向かってきた敵はぶちのめせ! 転がってきたボールは何が何でもゴールに入れろ! 逃げたら俺がぶっ飛ばす!」

 一人盛り上がっているヴィートには申し訳ないが、30名もの選手達は一様に無言になった。

「…それは、作戦とは言わん」

 誰も何も言いたくないという顔をしていたので、仕方なくここでもまた口を開いたのはヒューズだ。

「難しい作戦言ったってあの巨人相手じゃどうしようもねけだろ! 勢いだ勢い! それが大事!」

「責任取るって台詞はどこ行った」

「ぐだぐだ言うな! 去年はそれで何とかいったんだよ!」

「だから今年は難攻不落の鉄壁が参加してきてるんだろうが!」

 あーもううるせぇ! とついには逆ギレするヴィート。

 そんな彼に、始まる前から敗北ムード流れ出したチームに、意外なところから助っ人が現れた。

「すいません、到着が遅れました」

 その声に、一番に顔を上げたのはアルベール。その視線の先には、3人目の王子の姿がある。

 彼の姿に何より驚いていたのはチームの男達だ。

「おい、ヴィンセント様が出るなんて効いてないぞ」

「アルベール様が出ると聞いた時はもう無理だと思ったが、ヒューズ隊長に加えてヴィンセント様がいるなら、勝てるかもしれん!」

 沸き立つ歓声に、凹んだのはアルベールとヴィート。

 同じ王子でありながら、このカリスマ性の違いは何なのだとむくれている。

「…悪いな、無理言って」

 思わず呟いたヒューズに、ヴィンセントが微笑む。

「さすがに、ヒューズさん一人じゃ荷が重いと思って」

 アルベールは勿論、例年より明らかに線の細い騎士ばかりで構成されたチームを見回して、ヴィンセントは苦笑する。

 それから彼は、向けられる熱い視線に応えるべく、口を開いた。

「巨人を容易い相手ではないが、皆で善戦しよう。ひるまなければ、きっと勝機はある」

 さすが優秀な王子。この手の演説はお手の物である。

 彼の言葉で男達は奮い立ち、声を張り上げながらピッチへと繰り出した。

「なんでこれが出来ないかなぁ、こっちの二人は」

「僕は素直だから、ヴィンみたいに口先だけの台詞何て言えないもん」

「俺も素直だから、そんな無駄にきざったらしい台詞なんて言えないもん」

 普段散々口先だけの言葉やら、きざったらしい言葉を女に連呼している二人が今更何をとヒューズは思ったが、あえてここは無視することにした。

 何せ試合の開始は、もう目前なのだから。

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