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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode03-1 熱の入れすぎにはご注意

 6月の日曜日、あふれかえる人と熱気に満ちたサンタクローチェ広場には、巨大な観客席と砂利が敷き詰められたサッカーコートが出現していた。

 カルチョ・ストーリコと呼ばれる伝統的な古式サッカーの試合は、もう何百年も前からこの広場で行われている。

 行われる試合は、予選と決勝戦を会わせた3試合。

 フロレンティアの都市部を4つの地域にわけ、それぞれに住まう男達の中から選抜メンバーを編成し、戦いに挑むのだ。

 地元に根付く祭であるせいか、春の祭に比べれば訪れる観光客も少なくその規模は小さい。

 だが遊びに本気になる事を美徳とするフロレンティア国民の、この古式サッカーへの熱の入れ具合は半端ではない。普段は温厚な人々も、この時期は地域同士での争いが絶えないほどだ。

 皆自分の地区が優勝すると信じて疑わない故に、応援に熱が入りすぎた国民が暴徒化することは多々あり、それを押さえるのはもちろん治安を維持する騎士達の仕事である。

 だから本日、急遽出場する羽目になったヒューズに変わり、現場で指揮をとっていたのはレナスだった。

 試合が行われる広場内部は、昔からガラハド騎士団が警備を行うのが通例なので、ガリレオ騎士団が見回るのは、会場の外と試合の中継をしている酒場などだ。

「今年は荒れそうですね」

 レナスの横で、そう呟いたのはキアラだ。その目が追っているのは巨体を屈めつつチケットブースで観覧チケットを購入している巨人族である。

「久しぶりの参戦だから、客席の方にも結構いるわね『大きい人』たち」

 その奇異な外見と身体能力の高さから、世間から隔てられ、虐げられてきたマイノリティーな種族達が、こうして身体能力を競う祭に参加するのは久々のことだ。

 元々フロレンティアは観光と学生の街であるがゆえ、近隣諸国と比べると昔から国民も多様で差別意識も少ない。

 パスポートさえあれば入国も比較的簡単で、それ故『特異種族』と呼ばれる人種や民族も気軽に訪れることが出来る数少ない国だ。

 リストランテにはイタリア語の他にも英語やフランス語、東竜語、巨人語、スペイン語に古代妖精語と様々なメニューを用意しているところも多く、観光局のガイドなども様々な言語に対応している。

 故に通年を通して巨人族のような者達を見かけるが、それらを一緒くたにコートに放り込むというのはさすがにないことだった。 

 なぜなら人種意識が薄い事で逆に、熱くなると巨人や竜相手でも平気でやり合ってしまう悪い癖がこの国の国民にはあるからだ。

 たしか最後に異種混合試合をカルチョ・ストーリコで行ったのは、7年ほど前のこと。

 あのときは観客をも巻き込む大乱闘が起き、それ以来危険だからと試合に出られる選手の制限が厳しくなったのだ。

 騒ぎが起きたときの仲裁役は勿論騎士達で、自分たちと同じ人族ならまだしも巨人をなだめるのは非常に骨が折れ、怪我人の多くはこの騎士達だった。

 故に選手の制限に騎士達は大喜びしたが、まさかそれを他ならぬ騎士団長が再び廃止させてしまうとは誰が予想しただろうか。

 実際今も、西の地区で竜と巨人が喧嘩をしているという通報が飛び込んできたのだが、それを聞いた騎士は口々に騎士団長への恨みを呟いている。

 その上例年は、この手の超人対超人の喧嘩が起きると呼び出されるのは決まってヒューズだった。しかし少なくとも、試合中は頼めない。

「うちが行きますよ」

 変わって、レナスに声をかけたのは彼の部下達だ。他の騎士同様表情は明るくないが、隊長の晴れ舞台に水を差す気はないようだ

「変わりに、隊長の勇士みといてくださいよ」

 ヒューズの隊は特に戦闘に優れたエリートで構成している。数さえあれば事態の収拾は可能であろうと判断し、レナスは頷いた。

「じゃあお言葉に甘えて、第4小隊はバールと近くの広場を中心に巡回しましょう」

 事前に打ち合わせていた班に分かれ、騎士達は行動を開始する。

「本当は生で見たかったんじゃないですか?」

 歩き出すレナスの横でそう言ったのは本日のバディであるキアラ。

「それはあんたも同じだと思うけど?」

「別にサッカーは興味ありません」

「サッカーは、でしょ?」

 ムッとしつつも、観客席から零れ始めた黄色い声援を気にしているのは明白で、レナスは思わず微笑む。

「決勝は一緒に見に行きましょうね」

「勝つと決まった訳じゃないでしょ」

「勝つわよ。今年は本気のチームだから」

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