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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode02-2 二つのお願い

 鼻孔をくすぐるバジルの香りに誘われるがまま、レナスの差入れのパニーニかぶりついた途端、妙な視線をヒューズは感じた。

 どこか不敵な忍び笑いも聞こえ、ヒューズは恐る恐るパニーニから顔を上げる。

 ときたま優しさに見せかけた罠を張られることがあるのだが、今日はまさしくその罠の方だったらしい。

「食べたわね」

 いつの間にか迫ったレナスの顔に、思わずむせるヒューズ。それを笑いながら、レナスは側の机から椅子を引きだしヒューズの隣に座った。

「これは一体何との交換条件なんだ?」

「とりあえずまあ、カッフェでも飲んで」

 喉も渇いたので手を出したいところだが、側でこちらを伺うレナスの顔にはなにやら含みがある。

「安心して、ここまでは私のサービス。っていうか別に、あんた私の言うことは無償で聞くじゃない」

 これまた勝手なことを言い出すレナスには呆れたが、ヒューズは誘惑に負け、カッフェを口に含んだ。

「実はさ、アルベールに告白されたのよね」

 どうしてお前は、口に物を含んだときに限ってそう言う告白をするのかと、カッフェで濡れた机をふきながらヒューズは唸る。

「アルベールがさ、聖剣貰ってたの知ってた?」

「これ見よがしにぶら下げてた奴だろ」

「そう、私全然気付かなかったんだけど」

「アレ、一応貰うの結構大変なんだぞ」

「やっぱり努力してたんだ……」

 そう言って机についた腕に頬を載せ、レナスは唸る。

 一応その努力が他ならぬ自分のためだと言うことはわかっている雰囲気である。まあ告白されたのなら当たり前だろうが。

「受けるのか」

「そう言うこと以前にもう一個問題があるのよね」

 持ち上げていたカップを机に戻し、ヒューズはレナスの言葉を待った。

「カルチョ・ストーリコに出るんだって」

 口にカッフェを含んでいなくて良かったと、ヒューズはしみじみ思った。

「努力は認めるわよ。でもよりにもよってカルチョ・ストーリコよ、野郎どもの裸祭よ」

「……まあ、魔法が得意な王子様とは相性最悪だな」

「もうさ、死んじゃうと思うのよアルベール」

 同意するのはアルベールが可哀想だが、残念ながら否定も出来ない。

「去年ヴィートが参加して、他のチームをボコボコにしちゃったでしょ? それで、そもそも騎士が参加するのは不公平だ、うちも特例を認めろとか結構騒いでるみたいなのよね」

「助っ人ルール、復活するんだったな」

「北地区が竜族、東地区が巨人族、南地区が獣人族で申請出してるらしいわよ」

「……確実に死人が出るぞ」

「もちろん人数制限とか細かいルールはあるみたいよ。でもさぁ、アルベールが巨人に叶うわけ無いじゃない」

 逃げまどうアルベールの姿しか想像出来ず、ヒューズも渋い顔である。

「まあその、明らかにアルベールが変なやる気出しちゃったのは、自分の所為だってわかってるからさ、だからこそ死なれたら困るって言うか」

「気付いてるなら応えてやればいいのに」

「それじゃアルベールのためにならないじゃない」

「ということは、一応今も好きなんだな」

「そう言われると微妙なのよね」

 言いつつヒューズをさり気なく見たレナスだったが、ヒューズがその視線に気付くことはなかった。

「ともかくさ、止めるなりフォローするなりをあんたに頼みたい訳よ」

「しかし、あいつの一世一代の大告白だったわけだろ。それを違う男に止めさせるって言うのは、あいつの自尊心を傷つけちまうんじゃないか?」

「体ボコボコにされて騎士生命たたれるよりも、自尊心ボコボコにされてでも生きてた方が良いじゃない」

 それは女の考え方何だよと呟きつつ、ヒューズはどうした物かと頭を悩ませる。

 だがそのとき、ヒューズの聴覚がこちらに近づいてくる馴染みの足音を感知した。

「まずい、隠れろレナス!」

「え?」

「良いからすぐに!」

 レナスはその言葉に、ヒューズの机の下へと潜り込んだ。

 その直後、隊室へと顔を出したのは渦中の存在アルベールである。

「あれ、誰かいたの?」

 側の椅子に目ざとく気付くアルベールに、少し前まで部下がいたのだとさり気ない嘘で誤魔化す。

「しかしどうした、こんな時間に」

 そう尋ねた直後、アルベールが先ほどまでレナスの座っていた椅子に腰を下ろした。

 何を告げるつもりだろうかと、そして足下のレナスに気付かないだろうかとハラハラしていると、アルベールは唐突に、ごんっと言う音まで立てる勢いで、頭を机にこすりつけた。

「助けて、僕死んじゃうかもしれない!」

 叫ぶアルベールを一目見た瞬間、目の前の王子には自尊心やプライドと言った物が激しく欠けていることにヒューズは気付く。

「レナスさんに良いかっこしたくて、よりにもよってカルチョ・ストーリコに出るとか言っちゃったんだ!」

 どうやら周囲以上に、言い出した本人が一番不安だったらしい。

「その上絶対優勝しなきゃいけないんだ! だからヒューズ、僕とチームの完全勝利のために、一緒にカルチョ・ストーリコに出て!」

「……一応聞くが、お前はそれで良いのか?」

 ヒューズに向けられたアルベールの瞳には、人を頼って何が悪いの?という、意思しか映っていない。

 そして言い訳よりも、スケジュール調整について考え始めてしまった自分に、ヒューズは深く深く、ため息をつく。

 昔から自分勝手で破天荒な年下に、ヒューズはとにかく弱いのだ。


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