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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode02-1 悩みの種と残業と

 お先に失礼します。

 そう言って出て行く部下達を見送って、ヒューズは手元の書類と大量の領収書を引き寄せた。

 今頃あの二人は美味いもんでも食ってるんだろうかとぼんやり思いつつも、経費の申請を明日に控えた今夜は食事に行く暇もない。

 帰り際に部下達が提出したこの有象無象達を、今夜中にまとめ上げねばならないのだ。

 他の隊と違って特殊な潜入任務や諜報活動などもある第5小隊では、この手の請求書の整理は一苦労である。

 だから前もって出しておけというのに、何度言っても部下達の提出はギリギリだ。

「よめねぇよ」

 資料代なのか衣装代なのかはっきりしない文字に唸りながら、わかるものだけでも適当に分けていく。

 中には仕事外の領収書を混ぜている馬鹿もおり、そう言うのは勿論ふるい落とす。

 一応経費には上限があり、超過すると事務課のおばちゃん達が黙っていない。

 事務のおばちゃん達は厳しく、そしてとにかく怖い。

 なにせおばちゃん達のほとんどは、結婚や子育て故に前線を退いた、元女騎士なのである。

 故に不正や超過は絶対に見逃さないし、それにくわえてもう一点ヒューズを悩ます爆弾を彼女たちは抱えていた。

 おばちゃん達は、漏れることなく非常に噂好きなのである。特に色恋に関して。

 騎士団内の恋愛事情をもれなく把握しているのは彼女たちで、誰と誰が付き合った、別れたという話を広めるのもおばちゃん達だ。

 ヒューズも一度、レナスと付き合っているという根も葉もない噂を流され、酷い目にあったことがある。

 偽りだとわかったときはさすがに謝罪されたが、それ以降やたらとレナスとのことを聞いてくるのは正直うんざりである。

 しかし人に散々迷惑をかけておきながら、経費に関しての甘えは許してくれないのだ。

 むしろ弱みを握られることになるため、今夜もこうして知恵を絞っている。故に超過は絶対許されない。

 だが節約の二文字が欠けた騎士達は、張り込み中の食費が支給されるのを良いことに、無駄に高い昼飯を食べていたりするからやっかいだ。

 そもそもフロレンティア人は食に妥協しない。

 戦争中にも関わらず、戦地でコース料理を食べていたという噂をステイツで聞いたときはそんな馬鹿なと思ったが、実際来てみるとあながち嘘ではないことがわかる。

「こいつ、絶対女と食事しただろ」

 食事代と書かれたレシートの金額に、ヒューズは呻いた。

 女好きが度を超しているのもフロレンティアの男の特徴だ。

 張り込み中だろうと、犯人追跡中だろうと、いい女がいれば目を離せなくなるのがフロレンティア人らしい。

 ナンパをしないと死んでしまう病にでもかかっているのかと本気で思うほど、女性に目がないのは部下達も同じで、ヒューズはそんな彼らを何回どついた事だろう。

 捕まえた犯人を、女だからと言う理由でを本気で口説き始めた奴には、もはや怒る気力もわかなかった。

 そう言う国なのだと、最近では割り切ることにしている。

 だが一方で、どういう訳だか最近、周りの方がヒューズの行動を割り切ってくれない。

 おばちゃん達の詮索は酷くなるし、部下達は彼を騙してでも合コンに連れて行こうと画策ばかりしている。

 放っておいてくれというのがヒューズの思うところだ。既に彼を財布と思う女がいるのに、これ以上それを増やしてどうするのか。

 それに少なくとも、レナスからの財布扱いについては彼自身が招いた結果である。

 今でこそあそこまで図々しくなったが、レナスは本当に欲しい物に限って遠慮をする少女だった。

 元々甘えるのが得意ではないし、欲しい物をぐっと我慢して生活していた時期もある。

 それを甘やかしてやりたくなったのはヒューズの勝手で、それを普通だと思うように仕向けたのも、彼自身だ。

 レナスとは違いヒューズは物欲もあまりない。

 それに危険な任務が多いため、レナスより貰っている賃金は上だ。その上家や騎獣のような高価な物を買うつもりもないので、レナスの我が儘に使うくらいどうと言うことはない。

 それに何だかんだで、彼女は恩を仇で返すことはしないのだ。

 馴染みの足音が近づいてきたのに気付いて顔を上げれば、そこにはヒューズの財布を持ったレナスが立っていた。

 同時に胃袋をくすぐる香りに視線を動かせば、レナスが紙袋を抱えている。

「はいこれ、パニーニとジェラート。そこでみんなにあって、ご飯まだだって言ってたから」

 そうやってさり気なく気づかってくれるだけで満足してしまう自分には、彼自身だって呆れている。

 けれど多くの物を望んではならないヒューズには、ささやかな差入れだけでも十分すぎるほどなのだ。

「カッフェ入れるね」

「砂糖とミルク大量で」

「糖尿病になるわよ」

 そう言いつつも、ヒューズのマグカップを取り上げるレナスに、ヒューズは書類に目を戻しつつ苦笑した。

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