二日酔いと背中【レナス=マクスウェル】
キャラクター紹介小説レナス編です。
※騎士の休日編までのネタバレ含みます
【午前7時20分】
同室のキアラが身支度を調える気配で目がさめる。
しかし頭が痛い。体も重い。
そして思い出されるのは昨晩の合コンでの失敗と、そのあと酒に溺れた嫌な記憶だ。
嫌な記憶は忘れるに限る。頭も痛いし。
そう思ってリビングのソファーに横になった瞬間、意識が飛んだ。
【午前8時5分】
馴染みの男の声と温もりで、再び目が覚める。
酒臭いと馬鹿にされた気がして、腹いせにに拳を突き出したら手応えがかえってきた。
【午前8時10分】
ようやく意識が覚醒し始める。しかしとにかく頭が痛い。
唸っていると、とにかく風呂に入れと言われる。
そう言えば今日は休日ではないと今さら思い出した。
ついでに自分はガリレオ騎士団の第4小隊隊長レナス=マクスウェルだと言うことも思いだした。
そうだ、仕事に行かなくては。
【午前8時半】
風呂から上がったままウロウロしていたら、ヒューズが慌ててタオルをかぶせてきた。
何でいるのかと聞いたら、お前が呼んだのだと言われた。……たしかに昨日留守電を入れた気もする。覚えてないけど。
ぼんやりする私に、ヒューズが服を着ろと怒り出したので、寝室に戻りクローゼットから隊服を取り出す。
先週ヒューズにアイロンをかけさせたお陰で、隊服は皺ひとつ無い。
しかし、この恵まれたスタイルの良さがでない制服が、私はあまり好きではない。
っていうかこのえんじ色、これが私の美しいブロンドの長髪に合わないのだ。
26の今日まで結婚相手が見つからないのは、この制服が私の魅力をちゃんと引き出さない所為だ。きっとそうだ。
【午前8時40分】
隊服にブツブツ恨みを言っていたらヒューズにさっさとしろと怒られた。
洗いはしたがタンスにも入れていない下着を身につけ、ズボンを履くとブーツが見あたらなかった。
ヒューズに聞きに行ったら「服!」と怒鳴りながらブーツを投げてくれた。
女性用のブーツは、普段は足が細く見えるから良いが、二日酔いの時は履くのが辛い。
お陰で3回ほど床に転倒し、ようやく履けた。
【午前8時50分】
シャツと上着を身につけてヒューズの前に出ると、よれていた襟を直された。
胸元が開きすぎだと言われたが、堅苦しいのは好きではないし、ヒューズだって格好はだらしない方だ。そう指摘すると苦笑しながら、剣をさすベルトを締めてくれた。
【午前8時55分】
ヒューズと共に家を出る。
朝食は食べている暇がなかったが、ヒューズがサンドイッチを作ってくれたのでそれを持参する。
遅刻するぞと駆け出すヒューズを追おうとして、また頭痛がぶり返してきた。
ついて行くふりをして、公園のベンチでこっそり息をついた瞬間意識が飛んだ。
【午前9時20分】
目が覚めるとヒューズの背中に乗っていた。
私は女性にしては背が高く、春の身体測定では170まで身長が伸びていたが、ヒューズはそんな私を軽々と担いでいく。
こうしていると思い出されるのは、まだ騎士ではなく貴族の令嬢であった頃のこと。
あのころから執事兼、護衛の騎士として側にいた彼の背にはよくお世話になった。
大抵はいたずらに失敗し、怪我をした私を彼がこうして運んでくれたのだ。
それが二日酔いに変わったところ、自分も大人になったなぁと思う。
だがそれを告げると、しみじみするところじゃねぇと怒られた。確かにもっともだ。
【午前9時25分】
騎士団本部に到着した。降りろと言われたが面倒だったので隊室まで運んでもらう。
酷い顔だなと言われ、今更のように化粧も何もしていなかったことを思い出した。
ただでさえ最近皺が増えてきたのにと唸れば、愛用している化粧品と化粧水が入ったポーチをヒューズが渡してくれる。
相変わらず気配り上手だと思いつつ、礼を言う前にさっさと去ってしまう相棒をちょっと見直す。
それと同時に彼の前で相当の醜態をさらしたことを思い出し、今更のように恥ずかしくなる。
【午前9時半】
朝の朝礼を開始。予定の確認と点呼を行い業務開始。…と行きたいところだが、キアラ以外の騎士達は皆着替えや化粧をすませていないので、ロッカールームに向かう。
【午前9時45分】
肌のためにと高い金を出して買った化粧水と乳液で二日酔いの肌に活を入れ、同じく良い値のするの化粧品で女の武装を施す。
今日は昼から訓練なので、紫外線をカットするフェアリーパウダー配合の化粧下地とファンデーションを選ぶ。
部下達も皆慣れた手つきで訓練と仕事に合った化粧を施していく中、唯一キアラだけが暇そうにしている。
これだから10代はと若干恨めしく思うが、こちらをちらちら見ているところ、少しはその手のことに興味も出てきたのだろう。
今度の週末当たり、ショッピングに付き合わせるのも良いかも知れない。
【午前10時】
化粧を終わらせると、最後に特殊なコンタクトレンズを目に入れる。
有り余る美貌からわかるとおり、私には魔力と容姿のレベルが極めて高い『エルフ』と呼ばれる種族の血が入っている。
そのため私の緑眼には特別な魔力があるので、コンタクトはそれを押さえるための物である。
とはいえ私の場合、異常なほど魔力が低いのではめる必要はあまりないのだが、こういう細かいところをいちいちチェックする男が側にいるので仕方がない
それにこのコンタクトをしていると、若干目が輝いて見えるので男ウケが良いのは確かだ。
一通りの身支度を終え鏡の前に立てば、そこには美しきガリレオの騎士が映っている。
どうしてこんな美人なのに、結婚できないのだろう。腹筋か、それとも制服の所為なのか……。
【午前10時5分】
正直仕事をする気分ではないが、残念ながら出動要請を告げる放送がロッカールームに鳴り響く。
一振りの剣を腰に差し、私は仕事に取りかかるため気合いを入れた。
…でもやっぱり頭は痛い。