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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
□騎士の出勤編□【登場人物紹介】
86/139

朝が苦手な騎士王子【ヴィンセント=アルジェント】

キャラクター紹介小説ヴィンセント編です。

※騎士の休日編までのネタバレ含みます


【午前4時半】

 目覚めのきっかけは、焼けるような目の痛みだった。

 いつもは締め切っているカーテンに、僅かなすき間が出来ていたのが原因である。

 爽やかな眠りと目覚めにはもうずいぶんと縁がないが、今日は特に最悪だ。

 不死者ヴァンパイアとなったことで不便を感じる事は多いが、特に目覚めに関しては殊更強くそれを感じる。

 しかしこれでも、俺はヴァンパイアにしては朝に強い方である。太陽の下でも自由に動くことが出来るし、血圧も一定なので不機嫌で誰かを殴り飛ばすようなこともない。



【午前4時44分】

 日を避けながら二度寝を試みたが、上手くいかないので起床する。

 寝間着の黒いガウンから、動きやすいズボンとタンクトップに着替え、朝の鍛錬を行うために西のサロンにむかう。



【午前4時50分】

 ステイツから取り寄せた室内型の運動器具を使い、2時間かけて全身の筋力と持久力維持のための基礎鍛錬を行う。

 ヴァンパイアは人よりも身体能力が高いが、だからこそ日頃から体を鍛えておかないと、筋肉に過度な負担をかけてしまい体を壊すことになる。

 肉体の再生能力も高いので壊れたところで問題はないが、仕事柄肝心なときに動けなくなると困るので、日々体作りだけは欠かさないようにしている。



【午前6時50分】

 鍛錬を終え、シャワーで汗を流す。

 髪を乾かしながら鏡を覗けば、不死者の証である赤い瞳の色が淀んでいた。

 寝起きに太陽を直視した所為だろうか。



【午前7時】

 目が治るのはまだ時間がかかりそうだが、髪の方は既に渇き始めていた。

 しかし太陽の影響が出たのは瞳だけではないらしく、黒い髪の所々に銀の色が混じり込んでいる。

 不死者は普通銀髪なのだが、人としての姿に未練がある俺は地の黒色に染めている。

 だが魔法で染めているので、太陽など魔力を乱す物に影響されると、ときたま元に戻ることがある。

 理髪店で染めたほうが楽なのは重々承知しているのだが、一応外見年齢は28で止まっているので、若白髪を隠す為だと勘違いされるのが嫌で実行できていない。



【午前7時10時】

 着替える前に、冷蔵庫の中に入れておいた献血用の血液で朝食をすませる。

 俺の正体を知る友人が手配してくれた血液は、フランス産のヴァンパイア用食品である。

 高級だがやはり冷凍食品なので、味は良くはない。

 栄養分も足りてないのでサプリメントで補っているが、最近喉の乾きが以前より強いので困っている。

 やはり身近に血の気の多い恋人がいるのは、不死者的には健康によろしくないのかもしれない。

 かといって離れるという選択肢はあり得ないが。



【午前7時15時】

 寝室に戻り、鍵付きのクローゼットから制服をとりだす。

 いつ見てもこれを着る自分に違和感を覚えるのは、自分がヴァンパイアで、その上マフィアの幹部をしていた過去があるからだ。

 そんな俺の今の務め先はガラハド治安維持騎士団。つまり今の俺は正真正銘の騎士である。

 故に纏う制服は騎士らしさに溢れた物で、色はフロレンティアで代々騎士の制服に用いられていた白と赤を基調にしている。

 かといって古くさく見えないのは、ミラノの有名デザイナーが仕立てたからだろう。

 細身のズボンと上着は、誰が着ても格好良くそして凛々しく見える為、観光客から写真撮影を頼まれることも多い。

 しかし騎士らしさをと格好良さを追求するあまり、動きにやすさが二の次になっているのは問題だ。

 上着は丈が膝上まであるので、すぐ汚れるし擦れるので大変不便である。

 とはいえ、『痛めば買い換えれば良い』という発想の貴族達で構成されるガラハド騎士団では、その手の配慮は無用なのだろう。そもそも真面目に職務に取り込む騎士自体が少ないのが現状だ。

 しかし不便な一方、この制服を着ていて良いことももちろんある。

 騎士らしい格好を何より好む恋人は、どうやらこの手の制服に目がないようなのだ。

 俺の制服をじっと見つめる表情は実に可愛らしく、それを見るためなら多少の着心地の悪さは我慢できる。

 服より俺自身を見てくれと思う時もあるが、視界に入らないよりはずっと良い。

 


【午前7時20時】

 『身だしなみには気を配れ』

 それはかつて恩師から、何度も言われてきた言葉だ。

 そのため外に出るとき、特に騎士に制服を着るときは必ず、鏡の前で自分の容姿を確認することにしている。

 白いズボンと上着には皺はないか、勿論その下のシャツも問題ないかをまず確認する。

 それから膝下までの長いブーツは左右の丈が違っていないか確認し、最後に剣を下げるベルトの位置も調整する。長さが中途半端だと剣と足の長さが上手く合わず、不格好になる。

 そしてこう言うところに目ざとく気付くのが俺の恋人だ。

 多分俺の顔より、服を見ている時間の方が絶対長いに違いない。照れ屋な所は可愛いが、一応褒められる顔はしているので、せっかくなら全身を見て頂きたい。 



【午前7時半】

 服装のチェックを終え、髪と髭を整えてこれで身支度は終了。…と思っていたが、そう言えばこの前アルベールから香水を貰ったこと思い出したので、それを付けて家を出る。



【午前7時40分】

 騎士団に赴く前に、フロレンティアの中央にあるヴェッキオ宮殿に足を伸ばす。

 宮殿に入るやいなや王子王子と近衛兵が群がってくる。正直この呼び名が未だに慣れない。



【午前7時45分】

 近衛兵がよってきた理由が、国王が行方不明だからだと知る。

 国王は俺の恩師の一人であり、俺に第6王子としての位を与えた人物だ。

 けれどそんな彼の一大事に関わらず、俺は慌てることが出来ない。

 理由は昨晩、俺の恋人が好きな花について、国王が根掘り葉掘り聞いてきたからである。

 公にはしていないが、俺の恋人である騎士キアラは国王の孫娘なのだ。

 表だって孫娘に会えない彼は、武術の腕が立つのを良いことに、すぐに城を抜け出し会いに行ってしまう。

 正直デートについてこられたときは、少々イラッとした。

 国王だからと言って何をしても許されるわけではないと思うが、残念ながら城を抜け出すクセは治るどころか、悪化の一途をたどっていた。



【午前8時】

 いつの間にか、国王がふらりと戻ってくる。

 肩に花びらがついていたので、やはりキアラに花を届けに行ったのだろう。

 そこを指摘すると色々と面倒なので、来月行われる王族の晩餐会について軽く話をしたあと、アルベールの部屋に向かう。



【午前8時15時】

 爆睡しているアルベールをたたき起こす。

 俺の部下であり、今は弟でもあるこの王子は俺が起こしに来ないと際限なく寝ている。宮殿のメイドにグズグズしているようなら無理矢理服を着せるように言って、先に宮殿を出る。



【午前8時半】

 巡回をかねて街を歩いていると、幸運な事に、朝食を取っているキアラを見つけた。

 朝食とは思えない量の食事に思わず微笑めば、あからさまな不快感を示された。

 156という小柄な体にどうしてあれだけの量が入るのかわからない。25センチも身長が違うのに、正直俺よりも遥かに食欲が旺盛だ。

 まあヴァンパイアはそれほど食事を必要としないので、厳密には比べられないが。



【午前8時40分】

 機嫌を悪くしたキアラをなぐさめようと、世辞を言うのに相変わらず素直に受け取ってくれない。

 そこが可愛くて仕方がないのだが、やはり微笑んだ顔も見たいと思うのが男心である。



【午前8時45分】

 キアラが朝食を終えた。騎士団本部へと向かう彼女を送ろうとしたら全力で拒否された。

 キスをしてくれたら引くと申し出れば、2分ほど悩んだ末、頬に軽い口づけをしてくれた。

 全力で逃げ出した数週間前と比べるとかなりの進歩である。



【午前8時48分】

 逃げるようにして去ったキアラのあとを追うように、ガラハド騎士団の本部へ向かう。

 ガラハド騎士団の本部は、キアラの所属するガリレオ騎士団の本部と、背中をあわせるように建っている。なので向かう方向同じなのだが、キスは許しても一緒に出勤は嫌らしい。



【午前8時55分】

 騎士団本部内にある執務室に向かうと、アルベールが起こしたらしい不祥事の始末書が置いてあった。

 近頃やる気を出してくれたのは嬉しいが、どうにも空回りしている。

 その上中途半端に聖騎士としての実力がついてきたので、天狗にもなっているようだ。

 きっと近々痛い目を見るだろうが、良い薬になりそうなのであえて放っておく。



【午前9時】

 就業時間開始。

 俺が隊長を務める、ガラハド治安維持騎士団一番隊のロッカールームに顔を出したが誰もいない。

 貴族とか王族というのはとことん時間にルーズなのだ。

 でもせめて一人くらい定刻通りに来てほしい。特にアルベールに。



【午前9時半】

 ようやく部下達がやってくる。

 ガラハド騎士団では基本的に10時を過ぎないと人が来ないため、これでも早いほうである。

 それで良いのかと思う時もあるが、うちの隊に関して言えば緊急の時は遅れず集合するので、普段は大目に見ている。



【午前9時45分】

 アルベールが出勤。早速今朝の予定を伝えようとしたところ、アルベール以下5名の騎士が二度寝を始めたため、今日は朝の予定を訓練に切り替える。

 不満ばかりいうので、好きにしろと突き放した所、何だかんだで全員ついてきた。

 この手のおぼっちゃま達は、基本無視されるのが一番嫌いなので、押すより引いた方が確実に上手く事が運ぶ。 



【午前10時】

 騎士団内にある中庭で、剣術の訓練を開始。

 以前より様になってきたが、まだまだ訓練が必要な部下達を片っ端からたたきのめせば、ようやく彼らのやる気に火がついたようだ。

 貴族という優位性を捨て、騎士としての心得と剣を持って貰いたいという俺の思いが伝わっているとは言いがたいが、もう一回と手合わせを願い出る部下の目に真剣さが芽生え始めているのは確かだ。

 俺は剣を構え、そして改めて部下達との訓練を再開した。

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