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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■騎士の休日編■
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Ending      眉間の皺に愛を隠して

「さあ、口を開けて」

 笑顔と共に差し出されたラビオリに、キアラは思わず悲鳴を上げる。

「じ、自分で食べられます」

「でも、腕を怪我してるだろう」

「フォークくらい持てます!」

 と言ったが、ヴィンセントは手に持っていた皿とフォークを素早く引く。このやり取りを、キアラとヴィンセントはもう30分近く繰り返していた。

「傷が開いたらいけないから」

 傷口よりも激しく跳ねる心臓の方が心配だったが、ヴィンセントが引くつもりは無さそうだった。

 しかたなく、彼女はやりかたをかえる。

「そのラビオリ、ヒューズさんのですよね。勝手に食べたらまずいんじゃありません?」

「ヒューズさんから許可は貰ってある」

 ヒューズ隊長めと、またしても彼を呪いながらキアラはじっとラビオリを見た。

 お腹は空いていた。そして以前食べたヒューズのラビオリの味が恋しくて、また家に呼んでくれないかとこっそり期待もしていた。

 していたが、このオプションは望んでいない。

「ほら、口を開けて」

 なぜ、こんな恥ずかしいことを、笑顔で出来るのかキアラには理解出来なかった。

 理解が出来ない上に回避する方法も見付けられず、キアラは不本意ながら、差し出されたラビオリを恐る恐る口にする。

 だが望んだ味はしなかった。微笑むヴィンセントに胸がつまり、味わうどころではなかったのだ。

「じゃあ、もうひとつ」

 ひとつで限界だった。二つも食べたら死んでしまう気がした。

「おなか一杯です」

 そう言って毛布をかぶれば、ヴィンセントが不満げな顔をする。

 だが無理矢理毛布を取られるより早く、寝室のドアが乱暴に叩かれた。

 レナス達が帰ってきたのだ。

「助かった!」

 思わず泣きそうになり、早く入ってきて下さいと懇願するキアラ。

 だがそれを、彼女は深く後悔することになる。

「お邪魔だったかね?」

 尋ねられたその声に、キアラは悲鳴を上げながらまたしても毛布の中に潜ってしまった。

「どうしてみな、余の顔を見て絶叫するのだ!」

「それは、いるはずのない場所にいるはずのない人が立っている状況が、ホラー映画に酷似しているからかと」

 冷静なヴィンセントの分析に、キアラの部屋へと入ってきた国王は不満そうな顔である。

「それにしても、狭い部屋だな」

「あなたの部屋と比べないで下さい」

 毛布の中から零れた言葉に、老人はそれもそうかと納得する。

 それから彼はヴィンセントをどけ、彼女の側に立った。

「とりあえず、毛布から出てきてくれないか」

「陛下にお見せ出来るような顔じゃないので」

「それはいつもだろう」

 キアラが更に頑なに毛布をかぶる。その様子に、言い方を間違えたと国王は呻く。

 いつも可愛いから気にするな、と国王は言いたかったらしいが、今のは完全に誤解される言い方である。

「ともかく顔を見せてくれ。余はそのために脱走までしてきたのだ」

「しないでください!」

「君の顔を見たら今日はちゃんと帰る」

 国王の言葉に、渋々ながらキアラは顔を出す。

 男らしいいつもの彼女とは違う、小動物を思わせるその動きに、国王の胸が激しく高鳴る。

 可愛いとは思っていた。

 思っていたが、孫娘だと自覚した所為か、愛しく思う気持ちが倍以上に膨れあがっている。

「もしかしてあの、説教とかしに来たんですか?」

 どうやら国王は、ときめきを覚えると眉間に皺が寄ってしまうようだった。

 何かをこらえる様に眉をひそめるその表情に、彼が怒っていると勘違いしたキアラは恐る恐る尋ねてみる。

「そう言うわけではない」

「ならもしかして……」

 と、キアラはヴィンセントを見つめる。

「別れろとか、そう言うお話でしょうか…」

 シュンとした顔でうつむくキアラに、国王はもはや限界だった。

「そう言う顔をするな! しゃんとしろ!」

 可愛いの一言が言えない不器用な国王は、またもやそんな言葉を叩き付けてしまう。

「余はお前に礼を言いに来たのだ! 案内のセンスはなかったが、一応付き合って貰ったからな!」

 礼を言う口調ではない。口調ではないが言いたいことはわかるので、怯えるキアラの耳にヴィンセントがそっと耳打ちをする。

「照れてるだけだ、素直にお礼されてくれ」

 ヴィンセントのフォローで、ようやくキアラは笑顔を取り戻す。

「私も楽しかったですよ」

 少し照れながらもそう告げれば、国王は満足そうに笑う。

 だがそんな自分に気付き、国王は慌てて表情を頑なな物へと戻した。

「だ、だがやはり君の案内はまるで駄目だ!」

「すいません、確かに勉強不足でした……」

 だからこの国のことをちゃんと勉強しますと宣言するキアラ。

 だが国王はそれだけでは満足出来ないようだった。

「お前の勉強などあてに出来ん。……だっ、だから余が、じっ直々に教えてやる」

「いや、それはいいです」

 即答したキアラに、ショックを受ける国王。

 遠慮をしての言葉だったが、突っぱねられたと勘違いした国王はうなだれる。

 仕方なく、再びフォローに入ったのはヴィンセントだ。

「君ともう一度観光がしたいって事だよ」

 たぶんじっくりと。

 ヴィンセントの言葉に、キアラはそう言うことかと頷く。

「わかりました。それまでに自分の方でも、勉強しておきます」

 そう言って敬礼したキアラの反応は、国王が求めていた物とは少し違うがしかたない。

「ヴィンセント、ちょっと来い」

 鈍い孫娘に危機感を覚え、国王は頼りになる息子を呼ぶ。

「次の休日は、お前も予定を開けておけ」

 どうやら孫娘は予想以上に手強いようだ。

 ここは味方を付けねばまずかろうと、国王は判断したのである。

「いつもとちがって気弱ですね」

「余はあの子に、酷いことを沢山言ってしまったのだ。次で挽回しないと、嫌われてしまう」

 国王の囁きにそんなことはないと言おうとしたが、孫娘に言葉に一喜一憂する国王は、見ていて非常に微笑ましかったのであえて黙っておく。

「わかりました。…ただひとつ条件が」

「何だ?」

「彼女との交際許可を」

 そこで国王は、今更のようにキアラと出会った経緯を思い出した。

「愛してるんです、彼女を」

 重ねられた言葉に、国王は首を縦に振るほか無い。

「他の男にやるよりはいい」

 でもせっかく出会えた孫娘に、既に虫が付いているというのは非常に複雑だ。たとえそれが彼が一番信頼している王子だとしても。

「だがあの子を泣かしたら、余が黙ってはおらんぞ」

「その言葉、ヴィートさんにも言われました」

 ヴィンセントの言葉に、国王は不満そうな顔で唸った。

「ちなみに、ヴィートさんとは上手くいったんですか?」

 ふと気になって尋ねてみれば、国王は静かにうなだれるばかりだ。

 孫娘への反応を見ていれば予想は出来たが、この老人は本当に不器用で言葉が足らないらしい。

「そっちもフォローが必要ですか?」

「あいつのことは、自分で何とかする」

 国王の目に宿った覚悟に、ヴィンセントは微笑む。

「早く仲直りした方が良いですよ。あの人と仲良くなると、写真とか沢山横流ししてくれますから」

 誰のとは言わなかったが、国王の目に宿る並々ならぬやる気を見た限り、彼は理解したのだろう。

 気むずかしくも立派な国王の、あまりに子どもっぽい一面。

 それはヴィンセントにとって始めて見る彼の一面であったが、こちらの表情も悪くないと彼は思った。


騎士の休日編【END】

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