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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■騎士の初恋編■
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Episode02-4 デートの手土産にはワインより華を

 親友が本気で恋をしていることに、ヴィセントはすぐに気がついた。

「ねえヴィン、女性への贈り物はやっぱり花かな? それともワイン?」

 少年のように微笑む親友、アルベール=アレクサンドルの言葉に「ワイン」とヴィンセントは答える。

「そうか、やっぱりそうだよね」

 栗色の巻き毛を揺らしながら、「ワインセラー見せて!」と言うが早いか部屋を飛び出していくアルベール。ヴィンセントの屋敷あることも忘れて駆け出す親友に、彼はやれやれと首を振る。

 客間を出てすぐ横の木の扉を押し開ければ、地下のワインセラーへと続く階段はある。そこを降りていると、昼間共に戦った一人の少女のことが思い出された。剣の腕ならば、ヴィンセントとも並ぶ。その上小柄な肉体を生かした体術はスピードがあり、しなやかな体から繰り出される蹴りは見事だった。

 しかしなによりも、一流の剣士でありながら、時折見え隠れする女の子らしい瞬間と、それに気付かず無意識のうちに男のように威勢良く振る舞う元気の良さ。それでいて、自分を悲観する儚げな視線が、ヴィンセントの脳裏から離れない。

 自分を見つめる瞳は、小動物のように落ち着きが無く、愛らしい。しかしひとたび視界に敵の姿があれば、それは一瞬にして獣のそれと変わる。

「キアラ、か」

 背中をあわせて戦った記憶と、自分に向けられた表情のギャップが、ヴィンセントの記憶に深く深く、彼女の存在を刻みつける。

「ヴィン、コレなんてどうかな? 飲みやすいって、この前いってたよね」

「あ、ああ。いいと思うよ」

「じゃあ、コレ貰っていってもいいかな? 今度、お返しにうちのワインセラー漁らせてあげるから」

「気にするな、お前には日頃の恩もある」

「そうだよね、僕のおかげでヴィンにも彼女が出来たんだもんね!」

 親友の暢気な言葉に、ヴィンセントは苦笑を返す。彼女ではないといえば、今日の出来事を説明しなければならない。そうすれば必然的に、彼にレナスの正体を告げなければならないだろう。いずれは分かってしまうことかもしれないが、お互いがお互いの正体を隠しているうちは、他人が口を挟むことでは無い気がする。

「そうだ、最近ヴィンが顔を見せないから、父さん心配してるよ。食事に誘っても反応が悪いって泣いてる」

「ただ、忙しいだけだよ」

「でも、たまには気遣ってあげてね。ああ見えて王様なんだし、下手したら王子を首にされちゃうかもよ」

「それはそれで俺はかまわないんだが」

「僕はやだよ、兄さん達はみんな僕に冷たいんだもん。仲良くしてくれるのはヴィンだけ」

「だからって、恋愛相談までされても困るぞ俺は」

「じゃあ、ヴィンが逆に相談してよ」

 立ち戻った話題にあからさまなため息をつけば、アルベールはにこにこ笑う。

「で、昨日の子はどうだったの?」

 こうなれば正直に話すまで折れないことは、長年お付き合い分かっている。仕方なく、レナスの正体がばれない範囲で今日の出来事を告げれば、アルベールの顔には心底あきれ果てた表情が浮かぶ。

「それさ、あの子にとっては要らぬお節介だったんじゃない?」

「俺は親切で、アジトを教えてやったんだぞ」

「教え方がなってない。そんな回りくどいことするくらいなら、普通に盗賊取り逃がした方がずっと良かったってその子思ってるよ」

 たしかに、素直に教えろとキアラにも怒られた。

「それに、食事の誘いに乗ったって事は、少なからず彼女の方にはヴィンに対する好意があった訳だよ。そんな女の子が、返り血のついた自分の姿、見られたいわけない」

「調べでは、細かいことを気にする女性ではないと出ていたが」

 目の前に立つのは本物アホなのかと、アルベールはあきれを通り越して怒りを感じる。

「あのね、女心はプロフィールには乗ってないの。それに、事前にデート相手の身辺調査とかあり得ない。相手の素性を自分のトークで引き出すのがデートの醍醐味だし」

 仕事馬鹿の友人が異性に興味を示したというのは、喜ばしいことでもある。がしかし、もう少しやり方というものがあるだろうに。

「もう一回、ちゃんとあって謝った方が良いよ。ヴィンも一方的に恨まれたままじゃ嫌でしょ?」

「やっぱり、嫌われたかな」

「そりゃあ、壊れやすい乙女心に向かって上級魔法ぶっ放したあげく、魔剣デストロイヤーでボッコボコニ粉砕させたようなもんだもん」

 そこまでか!と、今更気付くヴィンセントもヴィンセントである。

「仲直りには、ワインより花が良いと思うよ」

 得意げな親友の言葉に、このときばかりは素直にうなずくヴィンセントであった。

「じゃあ、授業料としてこのワインはもらっていくから」

「ずいぶん高くつくなぁ」

「もっと色々教えてあげようか? フロレンティア流の女の子の落とし方」

「いいからさっさとワインを持って出て行け」

 親友であり、弟のようなアルベールの頭を乱暴になでながら、ヴィンセントは笑った。

 しかし次の日、ヴィンセントはこのときのやり取りを激しく後悔することになる。

 アルベールが無邪気に持ち帰ったワイン。それが奇しくも、もう一度キアラと彼を結びつけることになろうとは、今の彼は思いもしないのだった。


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