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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■騎士の休日編■
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Episode06-1 老人を追って

「すいませんでした」

 頭を下げるキアラに、事情を知った4人は彼女を諫める。

「さすがにそんな不審者が国王だとは思わないわよ」

「だけどずっと側にいたのに」

「始めて会ったならわからなくて当然だ。それよりまだ近くにいるかも知れない、すぐに探そう」

 ヴィンセントの言葉に少しだけ気持ちを浮上させつつ、キアラは頷く。

「ヒューズ、国王の姿探せる?」

 キアラが落ち着いたのを見計らって尋ねたのはレナス。その言葉に、ヒューズが静かに目を閉じる。

「あの、探せるって?」

 尋ねたのはアルベール。ヒューズの集中を途切れさせないように声を押さえながら、レナスが答えた。

「こいつの目は特殊でね、一所にいながら他の場所を見通すことが出来るの」

「凄い魔法ですね」

「キアラ、国王の服装は?」

 レナスの問いかけにキアラが素早く答えれば、ヒューズが見付けたと目を押さえる。

「まずいな、人相の悪い奴らに捕まっている」

「噂の誘拐犯?」

「わからん。だが、古い映画館が見える」

「敵の人数は?」

 ヒューズが答えようとした直後、彼の口から苦悶の声が漏れる。

 目を押さえ、その場に膝をつくヒューズ。

 その指間だから赤い血が零れた。

「すまん、特定する前に眼をふさがれた」

 慌ててレナスが手をどけさせれば、ヒューズの眼から血の涙がこぼれる。

「酷い」

「犯人の中に魔法使いがいるようだ」

 ヒューズは言うと、最後に見た光景を告げる。

「古い映画館って事は、チネマ・オデオンかもしれません。あのあたりは改装中の建物が多いので、身を隠せる場所が多い」

 キアラの言葉に、騎士達は素早く行動を開始する。

 アルベールは素早く近衛兵に応援の連絡を入れ、レナスはヒューズの眼に包帯を巻きつつ部下と騎士団長のヴィートに連絡を入れる。

 後で合流すると告げた3人をその場に残し、一足先に駆けだしたのはキアラとヴィンセント。

 裏道に詳しいキアラの案内で、最短ルートで映画館まで向かえば、ヒューズが言った通り、建物の周りには柄の悪い男が立っている。

「当たりだな」

「でも正面から乗り込むのは危険そうですね」

 敵の数を数えていたキアラ。だがヴィンセントは男達ではなく視線を上へと向けた。

「あそこから入ろう」

 ヴィンセントが指さすのは、屋根の上についた小窓だ。小さいが、確かに敵の影は見えない。

「でもどうやってあそこまで上がります?」

「跳べばいい」

 言うが早いか、ヴィンセントはキアラを抱き上げる。

 久しぶりのお姫様だっこに叫びだしたい衝動をこらえるキアラ。

 それをおかしそうに見ながら、ヴィンセントは地面を蹴った。

 響いたのは軽い足音、だが二人の体はあっという間に屋根の上まで飛び上がる。

「その脚力は、うらやましい…」

 瓦屋根に着地したヴィンセントにキアラが思わずこぼす。

「うらやましいって……」

「だってそれだけの脚力があれば、スリも逃がさないですみそうです」

「人前では早々使えないけどな」

 王子が人外の存在、それもヴァンパイアだと言うことは、表向きには知られていない。

 元マフィアだと言うだけで風当たりが強いので、それ以上の波風を立てないためだ。

「でもやっぱりうらやましいです。まるでヒーローみたいで」

「ヴァンパイアをヒーロー呼ばわりするのは君くらいだぞ」

「でも、これから国王を助けに行くんでしょう?」

 だったらヒーローですよと言うキアラに、ヴィンセントは思わず吹き出した。

「ヴァンパイアをこき使う君の方が、よっぽどヒーローに見えるけどな」

「ヒーローの器じゃありませんよ。蜘蛛の糸とかも出ないし」

 真面目に返すキアラがあまりに可愛くて、ヴィンセントは思わず抱きしめたくなったが、悠長なことをしていると中の国王に怒られるので、ここはぐっと我慢する。

「じゃあ、ヒーローになりにいくか」

 ヴィンセントの言葉に頷くキアラ。

 そして二人は音もなく瓦屋根を駆け、映画館の入ったビルの屋根へと飛び移った。

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