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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■騎士の休日編■
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Episode05-2 一番人気は王子の笑顔

 2時間のコース料理を堪能し、機嫌を良くした老人と共に店を出たのは午後2時を過ぎた頃だった。

 庶民的なトラットリアでコース料理を食べるのは不思議な感じがしたが、元三つ星リストランテのシェフだけあって、味は一級品。

 味も見た目も美しく繊細なのに、もられた皿とそれが載るテーブルが激しく安物というのはおかしかったが、そこが新鮮で良かったと老人は大満足だ。

「素晴らしい昼食だった」

「何よりです」

「あと面白い話もありがとう」

「信じてないですね」

「王子と合コン、それによりにもよって君のような女が選ばれるなんて話を信じろと?」

 老人は相変わらずキツイ。だが笑顔で言ってくれるだけ食事の前よりマシかも知れない。そう思いつつ次はどこに案内しようかと迷っていると、彼女のイヤリング型の通信機が弱々しく光った。

 慌てて通信に切り替えるが、声が遠くてよくきこない。

 このあたりは昔、魔法術の学舎があったところだ。魔法を一所で長く使い続けると地場が歪み、小型の機械製品が上手く作動しないことがあるので、原因はそれだろう。

 もしトラットリアにいたときから呼び出しがかかっていたら大事だと思い、キアラは老人に向きなおる。

「少しだけ、ここで待っていて貰えますか?」

 老人が頷いたのを確認して、キアラは通りを駆け出す。

 通りを200メートルほど走り、小さな土産物屋の前に来てようやく、遠のいていた声が近づいた。

「もうっ! あんたどこにいるのよ」

「すいません、通信が入らない店だったみたいで」

「まだ変なじいさんの観光案内?」

「変ですけど、いい人ですよ」

「悪いけど、優先事項が出来たの。じいさんはそこら辺の騎士に預けてくれる」

「事件ですか?」

「国の重要人物が行方不明」

 たしかにそれは大事件である。

「まあ今のところ誘拐とかはなさおうだけど、すぐに探して」

「どなたですか?」

「国王陛下」

 キアラの時が止まった。

「色々思うところはあると思うけど、とにかく探して」

 さすがに顔は覚えているわよねと念を押され、キアラは少し自信がないと素直に答える。

 新聞やテレビでは見たことがあるが、本人の警護はしたことがない。それにもし変装でもされていたら、探すのは骨だ。

「なんだったら、土産物屋でポストカードでも買いなさい。王子達の間に、売れ残りが沢山あんでしょ」

 言われるがまま、目の前の土産物屋に入った途端、キアラは思わず赤くなる。

 そこで売られていたのは、笑顔がまぶしいフロレンティアの王族達が写った土産用のポストカードだ。

 一番の売れ筋はヴィンセントなのか、種類も豊富で、中には明らかに隠し撮りされたものまである。そしてこれこそ、キアラの頬を染めた元凶だ。

「こんな物売ったんですね」

 爽やか笑顔で写っているポストカードの値段を、思わず確認してしまうキアラ。

「最近ハンサムな王子って流行らしいのよね。雑誌とかでも特集くんでハンサム王子ランキングとか出しちゃうくらい」

 そしてその上位に、性格はともかく顔が良いフロレンティアの王子達は入っているらしい。

「結構多いのよ、王子目当ての観光客」

 とはいえこの種類の豊富さは尋常ではない。よくよく見ればポストカードだけでなくステッカーやカレンダーと言ったグッズまで売られており、レナス曰く売上げはかなりの額になるそうだ。

 さすが、観光で栄えている国は王族の使い方もえげつない。

「多分国王のもあるでしょう、割とアップの奴」

 王子達に紛れて、やたらと売れ残っているそれを手に取るキアラ。

 そのとき、通信機の向こうの話し手が変わる。

「キアラか?」

 その声に思わずキアラは悲鳴を上げる。

「彼氏の声を聞いてカエルがつぶれるような声を出すな」

「いや、その…」

「今、ポストカードを持ってるか?」

「はい」

「国王は多分髭を剃ってるはずだ。あと髪はヅラだから、本当はもっと額が後退している」

 言われるがまま、指で豊かな顎髭を隠した途端キアラは更に息を呑んだ。

「今すぐコスタ・サン・ジョルジョ通りに来てください!」

「騎士団のすぐ裏手じゃないか」

「とにかく今すぐに!」

 それだけ告げて、キアラは元来た道を駆け戻っていく。

 だが店の前に老人の姿はない。慌ててトラットリアにはいるが、老人は影も形もなかった。

「よりにもよって…」

 顔を覆い、キアラはうなだれた。

 思わず持ってきてしまったポストカード。そこに写る老人は、先ほどまで彼女をいじめていた彼にそっくりだった。


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