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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■騎士の初恋編■
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Episode02-3 男らしさは程々に

「制服は、ヴィンセントが弁償してくれるそうです」

「そんな当たり前のことで、私が納得すると思うのかっ!」

 無駄足に終わった盗賊討伐から帰ってきた隊士達を出迎え、あらかたの事情を説明したキアラへの、レナス隊長の返答はその一言であった。

 ちなみにいつもの隊室ではなく、「飲まないとやってられない」というレナスの一存により、騎士団本部の側にある行きつけのバールでのことである。

 夕方前というのもあって、お客はまばらだ。そんな時間からビールを注文するレナスに、なじみのバリスタは笑い、「キアラちゃんも苦労するなぁ」とカフェを入れてくれる。

 この店のような、小さな商店をかねたバールは、フロレンティアの国民にとって憩いの場だ。席は少なく立ち食いがメインだが、カフェや、パニーニのような軽食やジェラートからアルコールまで、取り扱う品の幅は広い。

 そして彼女たちの行きつけのバールは特にアルコールの種類が豊富で、キアラは大抵カフェですますが、レナスは立ち飲みが出来なくなるくらいの量を平気で飲む。

「で、結局あの王子様は何で盗賊のこと知ってたわけ?」

「私達と同じく、ガラハド騎士団へも討伐依頼がきていたようです。ただ、あちらは貴族への圧力に音を上げて、捜査自体は早々に打ち切ってしまったようですが。担当者として納得がゆかず、一人捜査を続行していたようですね」

「そこに偶々、同じ相手をねらうあんたが現れた。あら、運命の出会いっぽくて、なかなか素敵」

「勘弁してください。せっかくうちの団の大手柄になるところだったのに、横からかっさらわれたんですよ」

「まあ、あちらさんのメンツも立ててお上げなさいな。いくら王子といえど、無断捜査がばれればまずいでしょうし、手柄の一つも手みやげにしなきゃ言い逃れ出来ないのよ」

「でも!」

 本気でいらついているキアラに、レナスは少しだけ驚く。基本的に、キアラが異性に対してこうもムキになること少ない。

 幼い頃から騎士になることだけを、ただひたすらに追い求めてきた為か、彼女は「騎士」に関すること意外にはあまり興味を示さない。

 どんなときでも騎士らしく、騎士として、騎士であり続けるために。

 彼女の行動の三原則は、すべてが「騎士」である。

 そんな彼女が心を揺さぶられる相手。それもまた騎士であるのはさすがといえるが、少しでも女らしさが芽生えつつあるのは悪い事じゃない。

「惚れたんだ」

 キアラが、カフェを思い切り吹き出した。

「そろそろだとは思ったのよね。むしろ、遅すぎるくらいって言うか」

「な、何を言い出すんですか!」

「初恋よ、初恋。あんたの場合は女らしさの目覚めも込み」

「お、女らしさはすでにあります!恋とか、考えたことあります!心の、中では」

「考えるだけじゃまだまだ。恋は落ちてなんぼなのよ」

 変なところで意地になるところがまた可愛いが、それを異性の前で出せるようになるのはまだまだか。

 だがもしかすると、そう言う相手に彼女はついに巡り会ったのかもしれない。

「ともかく、私の話は置いておくとして。やっぱり問題は盗賊団の」

「話をすり替えなーい」

「でも、2ヶ月もかけて情報あつめたのに、このオチはひどいと思いません?」

「少なくとも、今期のボーナスに上乗せは期待出来ないわねぇ。あーあ、ブランドのバック、買うんじゃなかったー」

 とか何とか言いながら、「ワイン」と叫ぶ隊長の姿に、キアラはあきれるほか無い。

 しかし、あきれる一方で、キアラはレナスのことを尊敬もしている。

 女もうらやむブロンドと、どんなに長い時間太陽の下にいても、決して日に焼けない白い肌。エルフの血を引くと言われるマクスウェル家の長女でありながら、貴族としてではなく騎士として生きる、美しき上官。

 彼氏がほしいとか、ブランド物の服がほしいとか言いながら、彼女が自分の家や財産を利用することはなく、どんなときも、剣ですべてを勝ち取ってきた。

 そんな彼女こそ、女騎士の鏡でありキアラの目標だ。

「そういえば、この前の合コンで連絡先を交換した相手、どうなんですか?」

「うふふ、明日デート」

「じゃあ、そろそろ帰りましょう。二日酔いじゃあ、格好が付かないでしょ」

 レナスの代わりに運ばれてきたワインを変わりに一気飲みして、キアラはにっこり微笑んだ。

「そういう無駄に男らしトコ。いい加減隠した方が良いわよ」

 思わずこぼれたつぶやきは、可愛い部下を案じる、優しい上官の忠告だった。


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