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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■騎士の休日編■
69/139

Episode02-2 まともに見えても油断は大敵

 キアラがサンタクローチェ教会に着いたのは、待ち合わせの時間の少し前だった。

 まだ朝も早いうちだが、観光名所として有名な教会の入り口にはすでに観光客の姿が多くある。

 別名「フロレンティアのパンテオン」と呼ばれる教会は、フロレンティアの礎を作った5人に賢者や、国を治めた歴代の王が埋葬されている歴史ある教会だ。

 側廊の壁には小礼拝堂と墓石が犇めいているが、不気味さや気味の悪さはなく、広い内部は常に神聖で荘厳な空気に満たされている。

 観光客で混み合っていても清らかな空気が乱れることはなく、むしろ教会に満ちた不思議な力が人の心を落ち着かせるのか、この界隈ではあまり大きな騒ぎが起こることはない。

 そのため第4小隊の巡回地域からも外れており、キアラが教会に足を踏み入れたのは久しぶりのことだった。

 観光客達に混じって内部に入ると、教会の名前の由来になっている大きな十字架が置かれた中央礼拝堂の前に、老人を見付けた。

 十字架の前で祈りを捧げる老人の顔は穏やかだった。

 一昨日の傍若無人な態度もあり警戒していたキアラだが、毒気のない横顔に油断し、気がつけばそっと彼の側に寄り添っていた。

「君も祈ったらどうだ?」

 しかし、キアラに向けられた声は相も変わらずとげとげしい。

「信者の方なんですか?」

 とげとげしいが、その手の敵意に鈍感なキアラは、逆に老人に問いかけていた。

「私自身は信仰しているわけではないが、教会の神を信じそれによって救われている者もいる。だからたまにこうして、感謝の祈りを捧げている」

 問いかけの答えは静かな口調で告げられたが、キアラに向き直った老人の顔は、次第に一昨日と同じ神経質で意地の悪い物へと変わりつつあった。

「それにしても遅かったな」

「9時のお約束でしたよね?」

「13秒の遅刻だ」

 いつの間にか胸ポケットから懐中時計を出して、老人はキアラを睨む。

 やっぱり意地が悪いと、心の中でため息をつくキアラ。そんな彼女をじっと見つめていた老人は、突然キアラの来ているシャツをつまみ上げた。

「君は、休日もそんな格好なのか?」

 そんな格好とは、飾り気のない男物の服のことだろう。

「動きやすいので」

「でも君は女性だろう。そんな格好でどうやって男を誘惑する」

「誘惑は別にしませんけど」

「したんじゃないのか? 王子を」

 その言葉に、キアラは一昨日の失態を思い出す。だからだろう、気がつけばキアラは老人に情けない問いをかけていた。

「やっぱり、女性からもそう言う誘惑はする物なのでしょうか……」

「君は、何を言ってるのかね」

「いや、知り合いの男性にはこういう事聞けなくて」

 そう言ってもじもじする姿は女々しいが、誘惑するにはやはり事足りない。

「色気とかあんまり無くて、服も可愛いのとか無くて、そう言う女性は、男性から見てどう思われますか?」

 問われた方の老人は、あきれ果てた表情で唸る。

「私あったら願い下げだな。自分のために着飾ってくれる乙女こそ、何よりも美しく思う」

「でも、何を着ても似合わないとしたら?」

「そんな女と付き合おう何て、正気の沙汰とは思えん」

 老人の言葉に目に見えて凹むキアラ。

 一方老人は自分の言葉を小声でもう一度繰り返し、キアラの姿を見つめる。

「こんな小娘がよりにも寄ってあいつを落とせるわけがない…、今日こそは化けの皮を剥がしてやる」

 なにやら老人は呟いていたが、キアラは聞こえなかったのか小首をかしげるばかりである。

「何か言いました?」

「なんでもない。それよりも、早く私を案内しろ」

 具体的にどこへと尋ねれば、どこでも良いという投げやりな答えが返ってくる。

 本当に観光する気があるのか怪しい答えだが、見る間に機嫌が悪くなっていく老人の姿にキアラは慌てて歩き出す。

 念のため観光課の騎士から情報は貰ってきている。

 まずは妥当な線で街の中心地大聖堂(ドゥオモ)から。貰ったアドバイスを思い出しキアラは老人と共に教会を後にした。

※6/23誤字修正しました。

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