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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
□騎士のお仕事編□
60/139

ShortEpisode01-1 ドSの女王様と騎士団長 

 春が来たからと言って、妖精達が勝手に飛んでくる時代は今や過去の物。

 世界の近代化によって、人間達が人生の大半を仕事に費やすようになったように、妖精達もまた自分たちの気分で季節を運んだりする時代は終わった。

「今年もお世話かけます」

 団長室に戻ったヴィートに、そう言って頭を下げた小さな貴婦人は、春の妖精王プリマヴェラであった。桃色のドレスを可愛らしい貴婦人に、女であれば妖精でもドラゴンでも基本的に大好きなヴィートはだらしなく笑う。

「今年はずいぶんと、元気の良い子達が多いようですね」

 妖精に翻弄されている騎士達の姿を窓から眺めつつ、ヴィートは笑う。

「今年は新人が多いんです。丁度、5回前の春はベビーラッシュで」

 昔は自由に自分の魔法を乱用していた妖精達も、今は彼女のような力ある妖精に管理されている場合が殆どだ。

 人と同じく、妖精達も仕事の効率化を求める時代。

 力ある妖精達は人の社会を真似、統率と業務を効率化させるために妖精派遣会社を次々と設立している。

 春には春の妖精を、夏には夏の妖精を、と言ったように世界の季節の移り変わりに会わせて、用途に応じた妖精を派遣するのが妖精派遣会社である。

 季節以外でもお祭りや式典等、人間達から妖精を借りたいという要請があれば、彼女たちは場にあった妖精を派遣してくれる。

 だがやはり相手は妖精。気分屋で扱い辛いところもあるため、今日のような事態に陥ることもしばしばだ。

「でもみんな、フロレンティアが本当に気に入ってしまったみたいで」

「今年は、あなたが集合をかけても一人も集まりませんからな」

 気に入った場所があると、そこに居座りたくなるのが妖精心というらしい。

 明日には違う国で春の式典があると言い聞かせても、こうして集合しないことなどザラなのだという。

 そしてそう言う場合、妖精達を集めるのは人間だ。

 基本的に、派遣に対して妖精は金銭等の見返りを求めない。

 そのかわり、今回のような集合の手助けをすることが契約内容となっており、ステイツや英国のような大国では、妖精回収会社なども多くあるという。

 そしてフロレンティアでその役目を負うのは、街の何でも屋とかしているガリレオ騎士団だ。

「まあ、みんな頑張ってくれますよ」

 そう言ったヴィートは完全に他人事だ。

 だが、そんなうまい話はない。

 自身もカッフェを飲もうとヴィートがコップを手にした瞬間、腕をつったキアラとヴィートの秘書官であるクラリッサが入ってくる。

 その二人の騎士はあまりに対照的だった。主に体のラインが。

 方々からまな板胸と称される小柄なキアラ、そして隊服の上からでもわかるほどのアップダウンが激しいセクシーな肉体と美貌を持つクラリッサ。

 キアラはともかく、クラリッサは女好きのヴィートであれば思わず手を出してもおかしくない所だが、残念な事に彼女はヴィートの天敵であった。

「みんな?」

 と人を殺しそうな顔でヴィートを睨んでいるキアラ。

 その横でクラリッサがかけていた眼鏡を軽く押し上げれば、それだけでヴィートが悲鳴を上げた。

 キアラ以上の殺意、そしてヴィートに向けられた嘲笑はどこか残酷な笑みにも見える。

「誰がサボって良いと言いました?」

 ヒールの高いブーツをならしながらヴィートの側にすっと近寄るクラリッサ。

 思わず逃げ出そうとしたヴィートの襟首をつかみ、彼女は彼の予定表がかき込まれた手帳を団長机に叩き付ける。

「今日は一日、あなたも妖精取りですから」

「あの、俺、今日はちょっと具合が…」

 と言い訳を繋ごうとした直後、クラリッサの拳が、ヴィートの腹にめり込んだ。

 グエッという嫌な声がして、ヴィートは腰を折って悶え苦しむ。

 しゃがみ込んだヴィートの頬にヒールをめり込ませ、クラリッサが美しい笑みに磨きをかけた。

「キアラさん、首輪」

 キアラが手渡したのは、その名の通りの首輪である。それも鎖がついた。

 それを慣れた手つきでヴィートの首に付け、クラリッサは鎖を強く引いた。

「行きますよ」

「ちょっとちょっと! 何か今日はいつもよりサドッぷりに磨きが掛かってるぞ!」

「春を早く終わらせないといけませんので」

「あ、もしかして男にフラれた?」

 ヴィートの顔面に、ヒールがめり込んだ。

「騎士団長のことはお任せ下さい」

 そう言って笑顔でヴィートを引きずっていくクラリッサ。騎士団で唯一ヴィートを意のままに操る彼女は、ドSの女王の異名を取る美しき女騎士だった。

「かっこいい」

 そして彼女は、キアラがレナスに続いて憧れている存在でもあった。それも割と本気で。


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