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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■男達の秘め事編■
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Episode06-1 忌み嫌われる王子

 恋人がおかしなそぶりを見せたら、殴って確かめましょう。

 という珍妙な張り紙が街中に溢れた復活祭パスクワ当日、街は少しずつだが活気を取り戻しつつあった。

 どんな事でも良い方向にとらえるフロレンティア人の気質のせいか、街中では女達が男達を殴る快音が響き、その行為が逆にお互いの絆を深めているようだった。

「ホント、たくましいねぇ」

 団長室から表の通りを見ていたヴィートは、ヴィンセント達からの報告書に目を通し、それから復活祭パスクワのハイライトである、「スコッピオ・デル・カッロ」に参加するため、いつもは適当に結っている長い髪をオールバックに整える。

「よぉ色男」

 鏡の中をのぞき込めば、そこには鋭い目の男が一人。騎士団の制服を脱ぎ、はやしっぱなしの髭を綺麗に剃れば、いつもより一回りは若く見える。

 その上で値段ばかりが張る黒いスーツに身を包んだ彼は、人々から忌み嫌われる王子そのものだった。

 人がいない隙をついて部屋を出、ヴィートは裏口からアルノ川へと続く通りへと繰り出した。

 彼が向かうのは、ドゥオモ前の広場。そこで彼の参加する祭はとり行われる。

「山車の爆発」の意味を持つスコッピオ・デル・カッロと言う儀式は、美しい装飾を施された山車を雄牛が引いていくパレードから始まる。

 ドゥオモ前の広場まで引かれた山車には大量の爆竹がつけられており、そこにフロレンティア王家の墓からまれに見つかる聖なる魔石から打ち出した火の粉を放つのだ。

 魔石で扱うのは大聖堂の祭壇から放たれた春の妖精の役目。

 妖精が上手く火を放ち、それによって山車に付けられた爆竹を派手に爆破させるのが祭のハイライトとなっている。

 そしてこの爆竹の勢いによって山車にしかけられた小さな扉が開き、その中に入れた春と恋の妖精と共に魔石を持った妖精が祭壇に戻れば、今年は愛と実りに満ちた一年になると言われている。

 だからこの爆破を間近で見れば恋が実ると言われ、多くの国民や観光客がこぞって広場に集まるのだ。

 それだけの規模の祭であるから、国の代表である国王や王子達も、祭には参加するしきたりになっていた。

 とはいえヴィートが行けば祭が盛り下がる事は確実なので、普段は騎士団長として警護につく事が多い。

 けれど今日ばかりはそうも行かない。お目当ての人物はきっと王子ヴィートを待っているのだ。

 だから彼は人々に白い目を向けられるのを承知で、王子として大通りを闊歩している。

「今更何しにきた」

 広場へと向かうためにヴェッキオ橋をわたっていると、いつもは気さくに声をかけてくれる老人が彼を睨んだ。

「今回の騒動、お前の所為じゃああるまいな」

 老人の言葉を鼻で笑い、ヴィートはその場を歩き去る。

 その言葉はあながち間違ってはないが、ここで声を出せば耳の良い老人には自分の正体がばれる可能性がある。

 ばれたくないと、思っている自分に今更気付き、ヴィートは思わず苦笑した。

 隠しているつもりはなかった。

 同一人物だと悟られたところで何も問題はないと彼は思い続けてきたはずだった。

 しかし騎士団長として過ごす時間が長くなるに連れて、どうやら自分は今の立場を居心地が良いと感じていたらしい。

 心のどこかでは全てを無かったことにして、やり直したいと思っていたのかもしれない。

 だから今回のこれはきっと罰なのだ。

 涙で濡れた愛娘の瞳を思い出し、ヴィートは人知れず拳をきつく握りしめた。


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