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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■男達の秘め事編■
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Episode05-3 人心を惑わすもの

 キアラの涙が止まるのを見計らって救護室に戻ると、先ほどの面子の中にアルベールが増えていた。

 どうやらヴィートが事件の担当者である彼を呼んだらしい。

 彼を含め、キアラ、ヒューズ、ヴィンセントはそれぞれの情報を開示する。

「蛇の目の女か……」

 そうつぶやいたのはヴィート。含みのある言い方に、一同は彼を注視する。

「昔似たような女を見た記憶がある。つっても20年も前の事だが」

 その当時はここまで騒ぎにはならなかったが、事象は酷似しているという。

「そのとき、女は捕まったんですか?」

「ああ。だけど女は人じゃなかった」

 変種の竜だったと、ヴィートは続ける。

 人の心を操る竜。その竜は何故だか男ばかりを狙い、人心を惑わしていた。捕まえたのは当時のガラハド騎士団で、罪人といえど竜を罰するのは御法度だったため、北欧にある竜の保護区に彼女を預けたのだという。

「同種でしょうか」

「とりあえず、保護区に連絡して確認を取る。あとは、どうやって入り込んだかだな」

 フロレンティア市街へ入るには、街を覆う守護魔法の切れ目を通るしかない。

 切れ目は通称『門』と呼ばれ、そこには検問所が設置されている。

 治安維持と動植物保護のため、他国からの入国者はもちろん、国外に出国した者は必ず、パスポートと手荷物検査を行う必要がある。

 とはいえフロレンティアのような小国では検査も甘く、時折禁種のドラゴンや妖精が入り込み、事件に発展する事もあるのも事実だ。

「入国管理局の奴ら、金属探知器にひっかからねぇもんはホイホイとおすからな」

「あいつ等が真面目に仕事してたら、あんただって引っかかるくせに」

 とヒューズの言葉に突っ込んだのはレナス。

 先ほどの姿を見ただけでは彼の正体はよく分からないが、少なくともヴィンセントと同じかそれ以上にまれな存在である事はキアラも気付いている。

 とはいえ、もちろん詮索するつもりはない。危険があるならそもそもヴィートが騎士団に入れるとは思えないし。失礼な話だが、あのレナス隊長に付き合えるだけの理由が分かった気がしたのだ。

「お前、今俺の顔見て失礼なこと考えただろう」

 とヒューズはキアラの考えを見抜いたようだが、それ以上言えばレナスの機嫌が悪くなるので二人とも先は続けなかった。

「とりあえず女どもは怪我もあるしここで待機、悪いがヴィンセントは保護区の方にかけあってくれ。確かお前、つてがあったよな」

「すぐに」

「あと、ヒューズは入国管理局の方だ」

 ヒューズは黙って頷いた。

「アルベールはガラハドに戻ってこの事を伝えろ。それから、竜への警戒と魔法の解除方法を国民に伝えるよう上を説得しろ」

 できるな? と言われてアルベールは自慢の笑顔をむける。

「上を転がすなら、ヴィンより僕の方が得意だよ」

 よし、と弟の頭を久方ぶりに撫回してから、ヴィートもまた彼らと共に歩き出す。

 部屋を出て行く男達に、残された女達と妖精は目を見合わせる。

「ちゃんと仕事してりゃあ、格好いいのにあのオヤジどもは」

 レナスの言葉に、アレッシオがうっとりした顔で男達の背中を見つめる。

「アルベールちゃんも良いけど、ヴィンセントも格好いいわぁ」

「だっ、だめです! ヴィンセント様は、だめです!」

 と思わず怒鳴ったキアラに、アレッシオがにやりと笑う。

「安心しなさい、恋する男には手を出さない主義よ」

 まあ手近なヒューズあたりを狙うわ、と今度はレナスに微笑みかければ彼女は今更のように折れた腕に目を落とす。

「あれは、たまたまよね」

 ヒューズが自分を好いているなど想像が出来なくて。しかしもし違う女が彼を殴って止めたら腹がたつきもする。

「次で決めなきゃ本気で結婚やばいんだから、あんな男に構ってる暇ないわよ」

 自分に言い聞かせるようにつぶやいて、レナスはベッドの上で大きく伸びをする。

 本当は自分も出て行きたいが、足手まといになるのは目に見えている。

 それにもしまたヒューズに何かあったら止めるのは自分だ。そのとき全力で拳を振り下ろせるように精進せねばと、レナスは休息を取るため目を閉じた。


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