Episode05-2 それは恋の証
「後悔するのは、俺の方だと思うんだけど」
救護室の側にある階段の裏、物置として使われている暗がりに、キアラはしゃがみ込んでいた。そしてヴィンセントの気配に、彼女は慌てて彼に背を向ける。
「悪かった、本当に」
キアラの横に腰を下ろすと、今度は膝に顔を埋める。
「謝らないでください。余計に惨めになります」
「そうだな、いくら理由があっても許される事じゃない」
そうじゃない! とキアラは掠れた声でヴィンセントの言葉を遮った。
「状況を考えればあなたに非がないのは一目瞭然だったんです。でもゴシップ誌を見たら頭は真っ白になるし、目の奥は熱いし胸は苦しいし、もう何がなんだか分からなくなって」
気がついたら本部を飛び出していた。
「報告も相談も連絡も全部とんじゃったし、目のさまし方も気付いてたのに隊長にも告げなかったし、騎士として色々失格な事したし」
数え始めたら自分の醜態はきりがない。
そしてなにより、非がないと分かっていたのに、女と共に部屋にいたヴィンセントを見て、頭に血が上った。
「何もかも上手くできなかったし、ヴィンセント様の事信じられなかった」
そう言って泣き出す少女に、ヴィンセントはぐっと歯をかみしめる。
拗れるのは分かっていた。だが、これは…
「お前は、可愛すぎる」
思わずこぼすと、涙で濡れた頬を真っ赤に染めてキアラがヴィンセントを睨む。
「そう言うとき、仕事が二の次になるのはよくあることだ」
「だけど、本当に何も考えられなくなっちゃったんです!」
「それだけ俺を好きって事だ」
何でそんな事を自分の口から言わねばならないのかと、さすがのヴィンセントも若干恥ずかしく思う。 だがおかげで、キアラは今更のように自覚したようだった。
「理由があったって、お前が違う誰かとキスしたら俺はその男を殺せる自信がある」
「ヴィートでも?」
それは微妙に違うが、正直ヴィート相手でも嬉しくないと正直に告げれば、キアラは嬉しそうに笑い、それからそんな自分に気付いてまた赤くなる。
「だからお前は、そんな事態に陥った俺を怒る資格がある。むしろ怒れ」
「だけど…」
「正直泣かれるのはきつい。それも俺に非があるのに」
注意をするとアルベールに約束した。にもかかわらずあっけなく魔法にかかった事を思い出し、ヴィンセントは頭を抱える。
「でも、それだけじゃないんです……」
「まだ何かあるのか?」
「橋の上でヴィンセント様が女の子に囲まれたのを見たときも、殴りたいって思いました」
正義の騎士が怒りに溺れるなんてと、再び泣き出すキアラにヴィンセントは彼女の体を抱き寄せる。
「君は、本当に恋を知らないんだな」
「悪かったですね」
「とりあえず怒るのか泣くのかはっきりしろ」
「好きでやってるわけじゃありません。もうわけがわからないんです」
それほどまで彼女は追いつめられていたのだろう。いつもは冷静なキアラが、涙も感情も止められないのだ。
「本当に悪かった」
自分の感情に混乱する、恋に不慣れな恋人の体を抱きかかえ、ヴィンセントは彼女を膝の上に載せる。
「重いですよ」
筋肉ついてるから、と赤くなるキアラにヴィンセントは苦笑した。
「そこも含めて好きだから」
更に赤くなったキアラが逃げ出す前に、ヴィンセントは彼女の唇を奪う。
口づけは長く、しかしキアラは拒めなかった。