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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■騎士の初恋編■
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Episode02-1 初デートは鮮血の香り

 盗賊討伐に出かける隊士達を泣く泣く見送って、待ち合わせのリストランテに向かったのは正午前だった。結局、中止を告げる文は来なかったのである。

 さすがに剣は腰にぶら下げていないが、出かけ用の私服など持っていないキアラは、結局合コンの時に借りた女学生の制服を着ていくことにした。

 待ち合わせの10分前だというのにヴィンセントはすでに店にいて、窓際の4人がけの席でキアラに手を振った。

「今日も学校だったのか?」

 さすがに着ていく服が無くて、とはいえず、キアラは曖昧な笑顔で誤魔化す。

「今日は俺のおごりだから、何でも好きな物を注文してくれ」

「でも、来たのは私の勝手ですから」

「俺がおごるのも俺の勝手だろ」

 それ以上この話題を続ける気はないらしく、ヴィンセントはキアラの前にさっとメニューを差し出す。

 値段を見て、正直言葉を失った。昼時、それも学生でにぎわう噴水広場の裏にあるというのに、どうりでお客が全くいないわけだ。ランチだというのに、キアラがいつも通っているバールの4倍は値の張るメニューが並んでいる。

「決まらないなら、俺と同じのでいいか?」

 ヴィンセントの言葉に慌ててうなずくと、素早くメニューを閉じた。慣れた様子で給仕(カメリエーレ)に料理とワインをオーダーする様子を見ていると、相手は王子なのだなと、今更ながらに思う。

 今日のヴィンセントは、貴族と言うよりは騎士団の男性が身に纏うような、厚手の紺のズボンにブーツ、上半身は仕立てのいい純白のシャツ一枚という、きわめてラフな格好をしていた。指定されたリストランテも、値段はともかく割とシックな店だったので油断したが、ふたを開ければやはり自分とは全く違う人種なのだと痛感する。

「ワインは白で大丈夫か?」

 ヴィンセントの言葉にうなずき、キアラは伺うように彼の顔を見た。

「どうして自分がって、顔だな」

 見透かされていた。

「男性から、お誘いを受けたのは、はじめてなので」

「意外だな」

 お世辞とはわかっていても顔がほてる。いつもなら、口先だけのお世辞になど耳すら貸さないのに、まっすぐに見つめられた赤い瞳が、彼女の心を放さなかった。

「しかし、その年で異性との交流がないのは珍しいな。俺の故郷とは違って、この国では恋は文化だと聞いたけど」

「たしかに、恋は生活の一部だという人は多いです。愛に生きた遊牧民の血を受け継ぐ人が多いからかもしれないけど、目が合えば恋の始まりだと友達も良く言っています」

「じゃあ、条件はすでにクリアしているわけだ」

「たとえ話です」

「でも、君は来てくれた」

 ヴィンセントの言葉に高鳴る鼓動が憎い。

「じゃあ、俺たちの出会いに乾杯でもするか」

 どこかおどけた調子で、つがれたワインを掲げるヴィンセントに、キアラも仕方なくグラスを掲げる。

 乾杯、そう言ってワインをあおるヴィンセントとほぼ同時に、キアラもグラスに口を付ける。

 そして、はっとした。

そのワインは、キアラにとってあまりになじみが深い物だったからだ。

「このワイン」

「シチリアーノの80年物だよ。あそこの国は政情が不安定だから、最近なかなかワインが入ってこない。飲める店と言ったら、盗賊団のアジトくらいじゃないかな?」

 そう説明するヴィンセントの瞳が、まっすぐキアラに向けられる。その瞳は先ほどまでの甘い物ではなく、キアラを試すような鋭く輝いていた。

「なぜ、この店に私を?」

「無理矢理連れてこられた合コンで、君だけが俺の相手をしてくれた。そのお礼といったら?」

「じゃあ、つきあってほしいという意味は?」

「俺一人で乗り込んで、全員を相手に出来る自信がなかった。うちの上官は下世話な盗賊退治になんて興味がないし、この案件をおっていたのは君の隊だと聞いてね」

 ヴィンセントが笑ったのとほぼ同時に、前菜を運ぶためにテーブルへとやってきたカメリエーレが、懐からナイフを引き抜いた。

 反射的に動いたのはキアラ。手にしていたグラスワインをカメリエーレの顔にかけると、一瞬の隙にテーブルを飛び越えて、カメリエーレの腕を蹴り上げる。

 ナイフをとばされたカメリエーレは逆上し、キアラへと殴りかかろうとした。

 がそれよりも早く、ヴィンセントがワインのボトルをカメリエーレの後頭部に叩き付けた。

「ロングとはいえ、スカートで回し蹴りはどうかと思う」

「ならどうして、ズボンで来いと言わなかったんですか?」

「男装の麗人が好きだなんて言ったら、俺が君のことを知っているのがバレるだろう」

「私のこと、調べたんですか?」

「キアラ=サヴィーナ。騎士団第四小隊の副隊長。14歳でプリマヴェラの騎士学校を卒業、同年に王国直属の騎士団にお呼びがかかるも、そちらを蹴ってガリレオ騎士団に入団。同性愛者かと思われるほど異性との関係を拒み、普段は男装までしている。これ以上はプライベートな問題かと思って調べてないけど、そのかたくなさの理由には少し興味がある」

「そこまで調べておきながら、今更私の人権を尊重するとでも?」

「別に君を傷つけようと思って調べたんじゃない。ただ、純粋に君とのお付き合いを考えて……」

「こういう状況、おつきあいとは言いません」

 言いながら、キアラはカウンターの奥から続々と出てくる人相の悪い男達に目を向けた。出てきたのは全部で六人。その腕には質の悪い大降りの剣が握られている。

「こいつら、私がおっていた盗賊団です。街道で荷馬車を襲うって情報は、どうやら嘘だったみたいですね」

「だから今朝方君の部隊がぞろぞろ出かけてったのか」

「知っていて、あえて止めなかったのでしょ?」

「声はかけたんだが、すてきな笑顔で君のことを頼むと言われてね」

「どうせはなから言う気なんてなかったんでしょ?王子のくせに性格が悪いですね」

「よく言われる」

 ヴィンセントは足下に置かれていた2本の剣を拾い上げ、その片方をキアラに投げ渡す。

「どうしても、この案件は俺の手柄にしたいんだ」

 さやから剣を抜き放ち、ヴィンセントが手前の男に斬りかかる。

「人に手伝わせておいて?」

 ヴィンセントに負けじと剣を抜き放ち、キアラは素早い動きで、彼の背後へと回り込む男に一太刀を浴びせた。

 どの敵も、動きが遅い。素早さを武器に剣を操るキアラにとっては、楽すぎるくらいの相手だ。

 制服が血に濡れることもいとわず、キアラは続けざまに三人の男を斬り伏せた。命までは奪わないが、腕や足の一本はとばす。そうでもしないと、これだけ体躯のいい男達は抵抗をやめないからだ。

 四人目の男の右腕を切りとばし、暴れる前にと首を絞めて意識を落とす。

 それから五人目を相手にしようと剣を構え直すと、すでに最後の一人はヴィンセントが斬り倒したあとだった。

「まだ、奥に何人かいる」

「あなたはここにいてください。あとは私が片づけます」

 キアラの言葉に振り返ったヴィンセントは、血に濡れたキアラの横顔に思わず口をつぐむ。ヴィンセントの視線にキアラも気づいたのだろう、彼女はほほについた返り血をぬぐいながら、無理矢理微笑んだ。

「私が異性を寄せ付けないのは、遅かれ早かれこういう顔を見られるからです。女の子の服を着ないのも、丈の短いスカートや可愛らしいだけの服じゃあ、鍛えた体を隠しきれないから」

 小さい頃から、騎士になりたいと思っていた。

 がむしゃらに勉強して、稽古をつけて、騎士になって……。自分の性別を自覚したのはそのさらに後。

 でもそれは本当に今更で、強くなることは男のようになることだとも思っていたキアラにとって、今更自分の体と心を女の子に変えることは出来なかった。それでも、少しばかりの勇気で希望に手を伸ばしたらコレだ。結局、自分はいくらがんばっても女の子にはなれない。

「ありがとう。あなたみたいな性格が悪い人は好きじゃないけど、私の目を見て、可愛いって言ってくれたのは結構嬉しかった」

 逃げるように、キアラは店の奥へと駆けだした。敵は、まだ残っているし、それを見過ごすことはもちろんできない。なぜならばキアラは、か弱い女の子ではなく、誇り高きフロレンティアの騎士だからだ。




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