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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■男達の秘め事編■
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Episode03-3 魔の口づけに犯されて

「ヒューズ!私だ!」

 痛いほど鼓膜を震わせる大きな声に、ヒューズはドゥオモの側で耳を押さえた。

「もしかしなくても、ヴィンセントとキアラか」

「読んだか」

 見えないとは分かっていたが、手にしたゴシップ誌を軽く上げつつヒューズは肯定する。

「キアラがヴィンセントを殺しに行きそうなんだ、止めるのを手伝え」

「それよりこっちも分かったことがある」

「5秒で話せ」

 無理だと分かっていたが、とりあえず口を開く。

復活祭パスクワでつかう、山車の保管庫の周辺で不審な女が目撃されている」

「女? 妖精じゃないのか?」

「だが怪しい点がいくつかある」

 ヒューズが言葉を続けようとすると、5秒たったという鋭い声がする。

「話は聞く、だから急いでこっちに来い!」

「キアラなら、お前が説得しろよ」

「抜き身の剣を持っているんだぞ」

「お前だってもってるだろう」

「自慢じゃないが、剣術ではあの子に適わない」

 ため息をつきつつ、ヒューズは目を閉じると静かに息を吸う。何かを探るように空を仰ぎ、そして彼は静かに息を吐き出した。

「……いま、ガリレオ通りか」

「見えたか」

 ヒューズが口にしたのは川を越え、ガリレオ騎士団の更に東にある町はずれの通りだ。確かそこにヴィンセントの邸宅があった事を思い出し、彼は眉をひそめる。

「ここからだと時間が掛かる、頑張れ」

「とんでこい!」

 また無理難題をと思いつつ、ヒューズは目を開けようとした。

 そのとき、甘い花の香りが彼の鼻孔をくすぐる。

 慌てて目を開けようとしたヒューズの頬に、冷たい女の手が触れた。

 それをはね除け、彼は目を見開いた。

 目の前にいたのは女だった。黒く長い髪には虫類を思わせる瞳は、人と言うにはあまりに禍々しい。

「ヒューズ、どうした!」

 通信機から響くレナスの声に、女が不気味な笑みを浮かべた。

『それがお前の女か?』

 目の前の女は言った。だがそれは人の言葉ではなかった。

 驚くヒューズの耳に女がもう一度指を走らせる。かちりと音がして通信機の電源が切られた。

 抗いたいのにヒューズの体は動かず、それどころか意識までもが遠のきつつあった。

『そうか、お前は私と同じモノか……』

 女はそういうと、ヒューズの唇に自らの舌をはわせた。そのまま口の中へと押し入ってくる女の舌を追い出そうとするが、絡められた舌は麻痺したように動かない。

『同族のニオイを嗅ぎ取ったその鼻はやっかいだ……。ならばその心、犯してやろう』

 離されたた唇から三度漏れた言葉は冷たく、しかしそれを聞くヒューズの目は虚空を見つめるばかりだった。


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