Episode03-2 怒りの火種はゴシップ誌
町中をずんずん歩いていくキアラを追いかけながら、レナスは持ってきてしまったゴシップ誌にもう一度目を走らせた。
写真に写った男はどこからどう見てもヴィンセントだった。この手の雑誌は記事のねつ造も多いが、そう言う場合はこんなはっきりした写真は載せない。
となればやはりこれは本人だ。しかしキアラにご執心な彼が、違う女に手を出すはずがないとレナスは確信している。
不気味なくらい本心が読み取れない背中に目を戻し、レナスはキアラにどう声をかけようかと思考を巡らせる。
そのとき、キアラの足が唐突に止まった。そこはゴシップ誌でヴィンセントの背後に写っていたバールである。
開店準備中のそこに、キアラは躊躇いもなく入った。
何をするつもりかとレナスが尋ねようとした次の瞬間、キアラが剣を抜いた。
「ガリレオ騎士団だ! 店の責任者をだせ!」
突然の抜刀に店員が息を呑む。もちろんレナスもだ。
「わ、私が店長です!」
奥から出てきた老年の男に、キアラが剣を向ける。
「昨日、ヴィンセント王子がここに来たか?」
「は…はい」
「一緒にいたのは誰だ!」
「き、貴族のご令嬢のようでした。お名前は存じませんが、今日も会うお約束をされていたようでした」
そうか。と短く答えて、キアラは抜き身の剣を持ったまま店を出て行った。
その一連の様子に、レナスは薄ら寒い物を覚える。
あれは、確実に怒っている。それも、今すぐヴィンセントとその相手を斬り殺しそうなほど。
「お騒がせしました」
愛想笑いを浮かべつつ、レナスは耳に付けているイヤリング型の通信機の周波数を、ヒューズの通信機の物にあわせた。