Episode02-2 不運を呼ぶガリレオ騎士団の懐事情
「おお友よ! 良いところにきた!」
調査書をコピーしようと、騎士団の玄関横にある事務室にヒューズが顔を出したのと、ヴィートとキアラが騎士団に帰ってきたのはほぼ同時だった。
コピーを待っているヒューズに縋り付いたのはヴィート。今日は良く王子に抱きつかれる日だと、ヴィートの正体を知るヒューズはウンザリする。
こう言うときほど、事務室にしかコピー機のないガリレオ騎士団の貧困ぶりを呪わずにはいられない。
基本的にガリレオ騎士団はヴィートのポケットマネーと、彼と親交のある貴族からの資金援助だけで成り立っている。
それ故廊下には常に「節約」の標語がはられ、経費の申請も必要最低限の物しか受理されない。
もちろん任務に使う装備、剣や武具も殆どがガラハド騎士団からの払い下げ品。それ故殆どの騎士は、装備に関しては自腹を切っている。
そんな騎士団に、コピー機のような機械用品が充実しているわけもない。
最近は魔科学も進歩し、日常生活や事務作業を豊かで便利にする機械製品は増えてきた。
それはもちろん値段がリーズナブルだから。
だがしかし、安いと言っても隊室ごとにコピー機を設置するような予算がある訳もない。それ故コピー機は事務室にある一台きり。食料を保管する冷蔵庫ですら、各階に一個なので常に中身は一杯だ。
その上ヒューズの第5小隊は第4小隊と同じ階。気がつけば冷蔵庫には「女子専用」というレナス直筆の張り紙がされ、第5小隊の男達は飲み物すら入れさせて貰えない。
今日こそはヴィートに直訴しよう、とヒューズは縋り付く上司に目を向ける。
がしかし、ヴィートは話を聞くどころか娘から受けた虐待について一方的にまくし立てている。
「じゃあ、後は任せましたから」
清々した顔でヴィートを置いて去っていくキアラ。
「で? 結局怒られた原因は何だ?」
話を聞く気が無さそうなヴィートに仕方なく尋ねてやれば、ヴィートは驚いた顔をする
「なぜ私の方に非がある事になっている!」
だっていつものことだろうと返せば、ヴィートが年甲斐もなく凹んだ。
「最近、娘と上手くコミュニケーションが取れないのだ」
「昔からじゃねぇか」
「どうすればいいと思う?」
「とりあえずもう少しまともな大人になれ」
ヴィートを引きはがしながら、ヒューズはカウンターに出てきた事務室の女性からコピーを受け取る。
「ん? また何か事件か?」
「ああ…」
軽く事情を説明すると、それまでおちゃらけていたヴィートが僅かに表情を変えた。
「お前さんが出るほどか?」
「わからん。だが他の隊は手一杯だし、レナスの所はこの手の話題にゃあ向かない」
「だがある意味、恋愛してる奴は少ないから向いてるかも知れないぞ」
「俺だってフリーだろ」
「心は常に誰かさんの事でいっぱいなくせに」
アホかとつぶやいて、ヒューズは調査書をヴィートに押しつける。
「これアルベールに返しておいてくれ」
「騎士団長に雑用をさせる気か」
「たまには、弟に顔でも見せてやれよ」
そう言って本部を出て行くヒューズに苦笑しつつ、ヴィートはもう一度調査書に目を落とす。
「失恋の連鎖……か」
何か思うところがあったのか、ヴィートの瞳に憂いが満ちた。
「妖精の仕業なら良いがな…」
もしそうでなければ面倒くさそうだな、と騎士団長らしからぬ発言をヴィートは続ける。
だがその目には、人々に信頼される騎士の真剣さが宿っていた。