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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の受難編■
37/139

Episode06-3 想いは剣にのせて

「…参りました」

 そう告げて、アルベールはあがった息のまま膝をついた。

 レナスもまた肩で息をしながら、その場に腰を下ろす。

「本当に、強いんですね」

 アルベールの声に、レナスは笑った。

「強い先生に、ずっと鍛えてもらっていたから。でも、アルベール様も予想以上に強くてびっくりしました」

「ヤワに見えるけど、一応聖騎士の資格はあるから」

「ですね、正直甘く見てました」

 素直に言い切るレナスに、アルベールは少しくすぐったそうに笑う。

「いいね、こういうのも」

「え?」

「はじめてだよね、お互い息も絶え絶えで話すのなんて」

「舞踏会でおぼれたときは息も絶え絶えでしたけど」

「今思うと、あのときのレナスさんはすごく男らしかった」

「おぼれるあなたにあわてて、ネコがはげかけまして…」

「無理をさせてたんだね、いろいろと」

 アルベールの言葉に、レナスはほんの少し顔を赤らめた。

「…嫌われたくなかったんです。あなたのことが、好きだったから」

「僕が嫌うと思った?」

「あなたは優しい。でも、私は今まで何度も恋で傷ついてきたんです。この仕事や自分の力や体のことで、たくさん傷ついて、そしてそのたびに…」

 恋をやめると泣いて、わめいて、酒におぼれて、ヒューズに泣きついた。

「それでも恋をやめたら、女として大切な何かが駆けてしまう気がして、焦ってまた恋をして」

 そしてまた同じ事を繰り返してきた。

「あなたが信じられないんじゃなくて、女としての自分が信じられなかったんです」

 ごめんなさいとうなだれるレナス。その側に、アルベールがそっと寄り添った。

「実を言うと、僕もおんなじなんだ」

 向けられたアルベールの笑顔は明るくて、レナスは少しだけ胸をなで下ろす。

「騎士団に入れたのもさ、聖騎士になれたのも実は実力じゃない。ただ僕が、王子だからなんだ」

 これは秘密だけど、と笑顔を苦笑に変えて、アルベールは剣を見つめる。

「騎士団に入った当初なんて本当に弱くてさ…、もう背伸びするので一杯一杯だった」

 でもそれが認めるのが嫌で、仕事をしないで遊びほうけていた時期もある。

「今の剣術もね、ヴィンに教わったんだ。同じ王子で、なのに強くてかっこよくて、そう言うのを間近に見てようやくやる気になったというか」

「それだけで得た実力だとは思えません。あなたは本当にお強い」

「でも、動機が不純なのはあのは本当だよ。剣術より女のこと遊ぶ方が好きだし、剣が強くなればもてるかなぁって」

 幻滅した?と笑うアルベールに、レナスは首を横に振る。

「私も、剣術を始めたきっかけは似たような物です。追いつきたい人がいて、憧れを憧れのままにしたくなくて始めたんです」

「でも君は隊長にまでなった」

「性に合っていただけですよ、ダンスや刺繍よりも剣が」

「実は僕もそうみたいなんだ。やってみるとこれが意外に楽しくて」

 お互い動機は不純、だがそれでも騎士を続けている。意外と似たもの同士だねとアルベールは笑った。

 レナスもまたようやくアルベールの側まで来ることが出来たような気がした。

 けれど同時にレナスは感じた。アルベールは今、男ではなく一人の騎士として自分と対峙しているのだと。

「でもそれだけじゃダメなんだよね。今回自分が狙われて、ヴィンまで怪我をして、ようやくわかったんだ。自分はホント甘かったって」

 言いながら、アルベールは剣をきつく握る。

「同時に思った、もし同じようにレナスさんが傷ついたらって…。そしてそのとき自分の剣が役に立たなかったらって」

 だから今日ここまできたのだと、アルベールはつぶやく。

「聖騎士の修行って本当に簡単なんだ。聖水を飲んで、それで終わり。なのに、今までの僕はそんなことすら面倒くさがってしなかった」

「これからがあります」

「そうだね。これから、いろいろとがんばらなきゃね」

 そう言うと、アルベールは手にしていた剣をレナスに返す。

「僕はまだまだこれからなんだ。だから…」

 返された剣と言葉。それをレナスは受け取り、最後は静かにうなずいた。


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