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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の受難編■
36/139

Episode06-2 不器用な恋

 剣戟の音を聞きながら、ヒューズは懐からたばこを取り出し、マッチで火をつける。だがしけっていたのかマッチは乾いた音を立てるばかりだった。

「これを」

 いつの間にか、側に立つ騎士の姿にヒューズは笑う。

「王子に火をもらうとはね」

 ヒューズのたばこにマッチで火をつけたのはヴィンセント。

「お前さんも、すうのか?」

「やめました。嫌いだと、言われたので」

 潔癖な騎士の少女を思い出し、ヒューズは笑う。

「青春だねぇ」

「そんな年でもないですが」

 そういって、ヴィンセントはヒューズの側で彼と同じく壁に背を預ける。

「あなたも、十分青い恋をなさっていると思いますが?」

「なんでそう思う」

「アルベールとのやり取り聞いていました」

 最後のつぶやきまで、と続けるヴィンセントにヒューズは苦笑し、わざとらしく話題を変える。

「んなことより、お前さん体は大丈夫なのか?」

「怪我の方は平気です」

「そっちじゃねぇよ」

 そういうと、ヒューズは懐から小さな小瓶を取り出した。

「竜の血だ。飲めば一晩はしのげる」

「どこでこれを…」

「ヴァンパイアのお前さんが、聖騎士の本部でピンピンしてられるわけねぇからな」

 自分の正体を彼に告げた覚えはない。とすればキアラかレナスあたりが話したのかとも思ったが、それをヒューズ自身が否定した。

「見りゃわかるさ」

 そんなまさかと思いつつヒューズの方に顔を向ける。

 一瞬彼の瞳が不気味な紅い色に染まった気がして、ヴィンセントは息を呑む。

 だが彼を見たヒューズの表情に変化はなく、瞳も特におかしな所はない。

「一応、隠しているつもりだったんですけどね」

「…まあ、人間色々と経験すると、分かることもあるんだよ」

「ドラゴンを倒せたのも、そういう経験のお陰ですか?」

「倒したんじゃなくて説得したんだよ」

「手荒に、でしょう」

「多少な」

「恋愛に関しても、もう少し手荒な手に出ても良いと俺は思いますけど」

 唐突に話を戻され、ヒューズは肩をすくめる。

 そのとき、廊下の向こうからキアラがやってくる。

 ヴィンセントとヒューズに気づき、彼女はなぜだか不満そうな顔をした。

「暇なら仕事してください!」

 キアラが言うと、ヒューズが剣のない腰元をぽんと叩く。

「行きますよヴィンセント様」

「ここは安全だしそう力まなくても」

「絶対と言うことはありません!」

 強引なキアラに苦笑しつつ、「では」と敬礼をして、ヴィンセントはキアラの隣に並ぶ。

「青春だねぇ」

 という言葉をキアラは無視し、ヴィンセントは苦笑で交わす。

 そのままズカズカと歩き出すキアラの耳元に、ヴィンセントはそっと顔を近付ける。

「今日はいつもより積極的だな」

 彼女に尋ねれば、キアラはちらりとヒューズを振り返る。

「ヒューズ隊長と、何話してたんですか?」

「男の話だよ」

「…ずるいです」

 予想外の言葉に、ヴィンセントはきょとんとした顔で彼女を見つめる。

「みんな、ヒューズ隊長には本音を見せるのに私には見せてくれない」

「俺は君には本音を告げているつもりだが?」

「あなたのことはどうでも良いんです! レナス隊長が…」

 そこで言葉を切って、キアラはうつむく。

「私だって隊長の側にいるのに、いつも大事な相談はヒューズ隊長にばっかり」

「すねてるのか」

「すねてません!」

 いつもより子供のような態度なのは、明らかにすねているからだろう。

 だがそれ以上指摘すれば今度は口を閉ざしてしまいそうで、ヴィンセントは重ねたい言葉を飲み込んだ。

「そのうち、ヒューズ隊長にできない相談もできるようになるさ」

「どんなですか! いつですか!」

「それはアルベール次第じゃないかな」

「意味がわかりません!」

「まあ、君にはわからないだろうな」

 思わずこぼれた本音に、キアラは明らかに不満そうだ。

 さてどうご機嫌を取ろうかと悩むヴィンセント。

 可能ならばローマでのデートも取り付けたいが、優秀な女騎士を仕事から遠ざけるのは骨が折れそうだった。

※8/3誤字修正致しました。(ご指摘ありがとうございました)

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