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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の受難編■
33/139

Episode05-1 聖天使城の夜

 聖天使城、カステル・サンタンジェロ。

 アルベールの目的地であるそこは、南ローマ国の首都ローマにある聖騎士を育成するために建てられた城である。

 かつて、人ならざる者が悪とされていた時代、南北ローマ国とフロレンティアが合同で作ったのがこの城だ。

 特に、闇の力を有していると言われるドラゴン、そして不死の体を持つヴァンパイヤは悪の権化とおもわれており、彼らから人々を守るための存在を聖騎士と呼んだ。そしてここが、その聖騎士団の本部だったのである。

 もちろん現在はどちらの種族とも和解し、ドラゴンなどはむしろ保護種として乱獲が禁止されている。

 逆に聖騎士も、そのような種族を守るため側として聖なる剣を振るうようになった。

 あるいはかつての遺恨から未だ人を脅かすことを辞めないヴァンパイヤの討伐が、彼らの今の仕事である。

 とはいえ、かつてに比べれば絶対数はかなり少ない。

 しかしただの騎士とは違い、聖騎士が使う聖魔法はなかなかに扱いが難しい魔法である。それ故学問所と修行の場を兼ねたサンタンジェロ城は今も残っているのだ。

 そんな聖なる力に守られた城に、乗り込んでくる不死者はさすがにいない。

 そのため、アルベールの護衛についていた騎士達は明日の朝の出発まで休息を取ることとなった。

 それはキアラ達も例外ではなく、城主の好意で提供された、城の客間でゆっくりと過ごすことができる…はずだったのだが。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

 殆どの騎士がこれ幸いとローマ観光へ出かけた中、城に残っていたのはキアラはヒューズにそうたしなめられた。

 キアラの前には、客間のソファーで棒きれのように横になったまま、ぴくりとも動かないレナスがいる。

 そんな彼女にどう声をかければいいかわからぬまま、キアラは無駄に室内を右往左往していたのだ。

「放っておけばいいさ。そのうち立ち直る」

 そんな彼女に、向かいのソファーに腰を下ろしていたヒューズが声をかける。

 その直後、ヒューズの顔にソファーのクッションがぶち当たった。

「立ち直れるか! 私の最後の恋が終わったんだぞ!」

 起きあがったレナスにほっとしつつ、荒ぶる彼女にかける言葉のないキアラはわずかに身を引いた。

 その横を駆け抜け、レナスがヒューズにつかみかかる。

「協力するって言ったくせに、この役立たず!」

「するつもりだったが、ドレス破いて駆けだしたのはお前だろう」

「止めろ!」

「止めて、後悔しなかったか?」

 ヒューズの言葉に、レナスが黙り込む。

 それと同時に彼女の目から、大粒の涙がこぼれた。

 側にキアラとヒューズしかいないせいか、レナスは子供のような鳴き声を上げる。

「キアラ、ちょっと外でてろ」

 ヒューズの言葉に頷くキアラ。その後ろで、レナスがヒューズにすがりついて泣き続ける。

 こんな子供の様になくレナスを見るのは、キアラも初めだった。そしてたぶん、それをヒューズ以外に見せるのは不本意なはずだ。

 レナスにとってヒューズは特別だが、キアラはまだそこまでではない。それがわかっているから、彼女は言われるがまま部屋を出て行く。

 ほんの少し、不本意な思いで。

「わるいな」

 そんなキアラの気持ちもわかっているのだろう、ヒューズは扉の向こうに消えたキアラにに小声でそう謝罪する。

「今は、私だけ見てろ!」

 唐突な嗚咽混じりに罵声が響いた。

「なんだよ、案外元気じゃないか」

「元気じゃない!」

 そうかみつき、レナスはヒューズの胸に拳をたたき付ける。それなりに力を込めたつもりだが、ヒューズは揺らぎもしない。

「元気だよ。その元気があれば、まだ終わりじゃない」

「無理だ。絶対嫌われた」

「嫌われるのなんていつものことだろう」

「アルベールは特別なんだ! 特別で、大切な…」

 涙でかき消える声に、ヒューズの表情にも暗い影が降りる。

 だが彼は続けた、消えたレナスの声の変わりに彼女の覚悟を。

「特別で大切なら、こんな簡単に手放していいのか? お前の気持ち、ちゃんとつたえたのか?」

「伝えたよ、好きだって何回も何回も何回も」

「それは、ドレスを着たお前だろ?」

 ヒューズの言葉に、レナスが顔を上げる。

「ガリレオ騎士団隊長、レナス=マクスウェルの気持ちも、お前は伝えたのか?」

 頬を伝う涙をぬぐってやりながら、ヒューズは笑う。

「腹筋割れてるけど、男より強いけど、いびきもうるさいけど、つきあってほしいってあの王子様に言ったのか?」

「…いびきは、うるさくないもん」

「酒のむとすごいぞ、お前」

 ヒューズの言葉に、レナスは彼の胸を殴る。だがその拳は、先ほどより遙かに軽かった。

「私のこと、好きになってくれるかな?」

「わからん。俺は王子じゃないからな」

「あんただったら?腹筋割れてる女でも良い?」

「勘弁だ」

「そこは嘘でも、いいといえ!」

 元気になってきたじゃないかと笑って、ヒューズはレナスの体を自分から引きはがす。

 なぜだかそれを少し寂しく感じながらも、レナスは腐れ縁の男に向かって小さくありがとうとつぶやいた。


※05/21誤字修正

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