Episode04-1 女らしさと騎士らしさと
電車が走り出して早30分、未だ襲撃はなく隣で談笑しているレナスに笑顔を向けながら、アルベールはちらりと周囲を見回した。
騎士を他にすれば出入りをする者もおらず、襲撃の予兆はない。
ヴィンセントからの報告によれば怪しい客の姿もないとのことだ。
さすがに時速300キロで走る列車に乗り込むのは難しい。襲撃があるならば列車が止まるタイミングだろうとアルベールは踏み、わずかに緊張を解く。
「そんなに心配されなくても大丈夫ですよ」
唐突に、レナスがアルベールの手のひらを握る。
それにほんの少し驚きながらも、彼女の笑顔を見ていると安心できる自分に気づき、アルベールは苦笑した。
いざとなったらレナスを守るのは自分の方なのに、気がつけばいつも、レナスのさりげない言葉や行動に救われている自分がいることを、アルベールはすこし情けなく思う。
見た目は可憐で清楚。そして常に明るく気だてがよいレナスをアルベールは心の底から愛しく思っている。
だが時々思うのだ。彼女には自分にはない強さがあると。
「本当に、あなたはお強い」
レナスが若干息をのむが、アルベールはそれに気づかないようだった。
「今の状況を話しても動揺一つしない」
「それは、アルベール様が側にいてくれるからですわ」
「でも僕は騎士としてはまだまだ半人前です。剣術では友のヴィンセントに勝てず、聖なる力にすら拒まれている」
「でもこれから修行に向かうのでしょう? 立派なことですわ」
「むしろ遅すぎるくらいです」
「でも、あなたはそれに気づいたわ」
切なげに揺れるアルベールの顔をのぞき込み、レナスは笑う。
「間違いをただし、後悔から前に進むことは正しい者にしかできないことです。そしてそれこそ、騎士として大切なことなのではないでしょうか?」
「あなたはずいぶん、騎士道にお詳しいようだ」
アルベールの言葉に、レナスは目を泳がせる。
「…ということを、昔教えていただいたんです。そこの彼に」
そう言った先にいたのは、暇そうな顔で二人の側にたたずんでいるヒューズ。
「執事にですか?」
「い、今は執事ですが以前は騎士だったそうで」
フォローしろと視線を送られ、ヒューズは「左様でございます」と頭を下げる。
そのやりとりを見て、アルベールはなぜだか少し複雑な顔をする。
「僕なんかより、立派な騎士が側にいるのですね。それも常に」
「そんな!アルベール様より立派な騎士なんていませんわ!」
そう言うなり、レナスはアルベールの腕をとる。
「あなたはこんなに素敵で女性に優しくてお強い。それに比べてこの男、情けなくてどうしようもなくてブルースウィリスリーの物まねしかできないんですのよ」
再び跳んできた視線に、ヒューズが「あちょ」とやる気のない構えをしてみせる。
「こんなのとご自分を比べてはいけません!」
ね? と顔を近づけられ、アルベールは渋々うなずく。
「すいません。最近ちょっといろいろと自信をなくしていて…。情けないところを見せました」
「かまいませんわ。むしろ私には見せてくださってよいのですよ」
レナスの言葉にアルベールは堅く首を横に振る。
「男性は女性より強くあらねばなりません。あなただって、強い男性が好きだとおっしゃっていたでしょう?」
「それはそうですけど、私は…」
「僕はあなたにふさわしい男でありたいのです。わかってください」
そう言って、アルベールは堅く口を閉ざし、窓の方へと視線をそらす。
自分に向けられ無くなった言葉と視線に、レナスもまた仕方なく黙り込むほか無かった。
※8/3誤字修正致しました。(ご指摘ありがとうございました)
※1/6誤字修正致しました。(ご指摘ありがとうございました)