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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の受難編■
23/139

Episode02-1 王子の悩み

 アルベールがガラハド騎士団本部に帰ると、隊室はドゥオモでも救出劇の話で持ちきりだった。

「やっぱり凄いよなヴィンセント様は」

「命綱無しでクーポラ駆け下りてたぜ。凄い度胸だよ」

「あれで王子だもんなぁ、俺達形無しだよ」

 廊下まで聞こえてきた騎士達の談笑に、アルベールは何となく隊室に入り辛い。そのとき、廊下の向こうから聞き覚えのある声が彼を呼んだ。

「デートはどうしたんだ?」

 今し方話題になっていたヴィンセントその人である。

「レナスさん、急用が出来ちゃったって」

 苦笑気味に言うと、ヴィンセントは残念だったなと彼の肩を叩く。

「ねえ、ヴィン」

 隊室から少し離れた、人気のない階段のすみに、アルベールはヴィンセントを引き寄せる。

「僕ってさ、やっぱり頼りないかな…」

「どうしたんだよ藪から棒に」

「昨日ほら、例の件で父さんからも、もっとしっかりしろって怒られた」

 アルベールの言葉に、ヴィンセントは苦笑する。

「それなのにさ、結局今日もデートを優先させちゃったし」

「でも前からの約束だったんだろ?」

「だけど…」

「それに、例の件については俺に任せろって言っただろ」

「そういうとこだよ、問題は」

 先ほどの騎士達の話を思い出し、アルベールの表情はうかなかった。

「僕一応、ヴィンの副官なのに何にも仕事してないし」

「してない自覚はあったのか」

「そう思ってるならもっと怒ってよ」

 ヴィンセントの冗談にむくれるアルベール。その表情に、ヴィンセントは笑った。

「しかたなく仕事されても、邪魔なだけだからな」

 優しいように見えるが、甘やかされているわけではないと分かるのはこう言うときだ。

 笑顔で、彼は一番痛いところをついてくる。

 特にアルベールに関してはそれが顕著で、彼にためらいや迷いがあれば、一番キツイ方法で答えへと彼を導いてくれるのがヴィンセントだった。

「本当に、適わないよ」

「やる前から諦めるなよ」

「そうだね、さすがに今回は敵前逃亡はまずいよね」

「今回は本気なんだな」

 意外そうに言うヴィンセントにむくれながらも、アルベールは少し照れたような声音で言った。

「やっぱりさ、できる男の方が女の子にもてるし」

「そっちか」

「僕にとっては死活問題。もしレナスさんにフラれたら立ち直れない」

「その情熱が、もう少し仕事にも向いてくれたらな」

「この僕が無断欠勤無く働いてるだけで凄いと思うけど」

「えばるなよそこで」

 ヴィンセントは呆れるが、確かに以前のアルベールと比べたら進歩ではある。

 この王子は、今まで様々な職務や学業を放棄してきたのだ。

 女子のような風貌に甘え上手。その上末の王子と来たら、甘やかすなと言う方が無理な話である。

 国王や王妃はもちろん、教育係から剣の師匠まで、誰からも怒られることもなく、ひたすら甘やかされて育ったせいで、かつてのアルベールはそれはもう酷い怠け者だった。

 唯一熱を入れていたのは女性との交際。

 騎士団で働き始めるまでは3日ともった仕事はなかったらしい。

 だからこそヴィンセントのような存在は新鮮で貴重だったのだろう。

 一番厳しいが、逆に今では一番懐いている。それも国王がうらやましがるほどに。

「ということで、ローマの件お願いね」

 ここぞと言うときに使う特別な笑顔で言い切れば、さすがのヴィンセントも首を縦に振るしかない

「了解」

「あ、でも来週でおねがい。デートの続き取り付けたいし」

「お前なぁ…」

 といいつつも、想定の範囲内だったのかヴィンセントはそれ以上、否定の言葉は重ねなかった。

「警備の企画書作ってくる。あとそうだ、外に出るときは絶対にこえかけろよ」

「大丈夫、今日は一日騎士団にいるし」

 アルベールはそう言って、頼もしい親友兼上官を見送った。

 だが、事態が急転したのはその翌日のことだった。


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