Episode01-3 断ち切れない腐れ縁
ヒューズが始めてレナスとあったとき、彼女は僅か10歳であった。
それからかぞえると、彼女とはもう15年以上の腐れ縁だ。
ちなみにレナスの我が儘な性格はそのころから変わっていない。むしろ若干悪化している。
対するヒューズはまだ精悍な青年で、海の向こうのステイツと呼ばれる国からきた彼は、その武術の腕を買われ、貴族の令嬢であるレナスの護衛として雇われたのだ。
護衛とは名ばかりで、そのころから無駄に活発だったレナスのお目付役兼教育係というのが正しい。
なにせ悪戯好きのレナスは、雇われたメイドや教育係の服に片っ端から蛇や蛙を入れて追い出す始末だ。
それに動じず、そして貴族という肩書きに縛られず彼女を本気でしかった唯一の使用人がヒューズだった。
彼女とまっすぐに向き合うヒューズのことはレナスの父も気に入っており、いつの間にか執事騎士というありがたくない上に滑稽この上ない肩書きをヒューズは拝命した。
その成果、レナスにとってヒューズはいまでも一番近しい存在となった。
愚痴や不安のはけ口は常に彼で、親に言えない悩みの相談相手もヒューズだった。
その居心地の良さを手放すのが惜しいばかりに、騎士団に入る決めたときも無理矢理ついてこいと迫ったのだ。
「お前が家を出たら俺もお役ごめんだしな」
と脳天気な二つ返事で彼女に付き従い、お互いほぼ同時期に隊長に就任した。
だがやはり、騎士団に入ってからも気苦労も多かったのか、20代前半からすでに彼はかなり老け込んおり、今も昔も彼のあだ名は「おっさん」である。
さすがにその事に関してはレナスも悪いと思っていたのだが、やはり心おきなく迷惑をかけられる存在が側にいれば、嫌でも甘えてしまう。
それに当の本人も自分の外見に無頓着なため、「気にするな」と言うばかりである。
今は外見も年相応になったが、逆にいつも髪はぼさぼさでひげを整えることもしない彼に、最近ではレナスの方が手を焼いている。
しかし本人は、ダンディーでモテるからいいと、やはりどこ吹く風。
実際、おっさん臭くてずぼらな割に女子に人気があるのも確かで、そこが密かにレナスはおもしろくなかったりもする。
正直自分よりもてるのだ、こんなだらしがないくせに。
だからいつか見返してやると、思い続けてはや10年。
ついに運命の人を見つけ、ヒューズよりも早く結婚できるのレナスは意気込んでいた。
ヒューズの方も、ようやく手のかかるお嬢様から解放されるとアルベールとの仲を喜んでいた。
…はずだったのだが。