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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の受難編■
20/139

Episode01-1 愛のドゥオモで死を叫ぶ

「死んでやる!」

 昼時のフロレンティアに響いたその絶叫の出所は、街の中心に位置するサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の大円蓋クーポラであった。

「俺は本気だ! 死んでやる!」

 愛のドゥオモと称される大聖堂のクーポラからの景色はフロレンティア1の絶景。

 それゆえ、観光客が上れるようになっているのだが、何をとち狂ったか安全のために設置された柵を乗り越え、1人の男が大声でわめいているのである。

 この異常事態に気づいた市民の通報で、ガリレオ治安維持騎士団が現場に向かったのが12時15分。 その任に赴いたのはガリレオ治安維持騎士団第4小隊。女性ばかりで構成された小隊である。

「急な呼び出しがこれか……。ったく、また面倒をおこしやがって」

 ドゥオモの側に立つ鐘楼のたもと、双眼鏡でクーポラの状況を確認していた隊長にレナスの言葉に、副官であり第4小隊の副隊長であるキアラ=サヴィーナはため息をこぼす。

「とりあえず、落下したときのために特殊魔法部隊に応援を要請しておきました」

「いっそ突き落としてさっさと解決しちゃおうか」

「説得という手段は?」

「あのドゥオモエレベーター無いじゃん。上まであがるの超しんどい」

 いっそ弓矢あたりで打ち落とそうか。

 と物騒なことを言い出す隊長にため息をつき、キアラは部下から渡された報告書に目を通す。

 が、キアラはそれをすぐに閉じた。その素早さに、隣のレナスがめざとく気づく。

「どうした?」

「いえ、何でもありません」

 言いよどむキアラに、レナスの視線が若干厳しくなる。

「言わないと、お前が5回も書き直した上に結局ゴミ箱に捨てた恋文を朗読するぞ」

 キアラが、素早く報告書を開いた。

「男の連れらしき女性に話を聞いたのですが、どうやらその、今回のことは痴情のもつれが原因らしく」

「ほう…」

「ミラノから新婚旅行でフロレンティアを訪れた折、愛のドゥオモと名高い大聖堂のクーポラに上ろうとなったまではよかったのですが」

「…あらかた、途中の階段の多さにどちらからともなく不満がこぼれ、それが転じて大げんか。挙げ句の果てに別れ話が飛び出し、男の方が投身自殺」

「よく分かりましたね」

「時々居るんだよ、ああ言う馬鹿は」

 よし、とレナスが何かを決意した表情で頷く。

「やっぱり弓矢で撃ち殺そう」

「だめです!」

「そんなくだらない理由で人様のデートをぶちこわしていいと思っているのか! 死刑だ死刑!」

「だから言いたくなかったんですよ!」

 キアラの悲鳴と重なるように、先ほどまで騒いでいた男の絶叫が響いた。

 あわてて視線を男に戻すと、彼はクーポラをズルズルと滑り落ちている。どうやら足を滑らせたようだ。

「嫌だーーー! 死にたくないー!」

 先ほどとはうってかわって、男はそんなことを叫んでいる。

「あいつ、本物のアホだな」

「感想はいいから早く上に行きましょう」

「案ずるな、すでに手は打ってある」

 とレナスは自信満々に言い放す。

 その直後叫んでいた男のからだが傾いた。

 様子を見守っていた人々の間から零れる悲鳴。その刹那、ドゥオモの天辺から1人の男が丸屋根を駆け下りる。

 ガラハド騎士団の騎士であることを示す純白の制服に身を包み、危なげない足取りで男の側まで降りてくるのは二人がよく知る人物であった。

「ヴィンセント様…」

 思わずつぶやいたのはキアラで、そのつぶやきにレナスがにやりと笑う。

「あんたの王子様は人助けもお手の物か」

「そ、そんなんじゃありません」

 真っ赤になってむくれる部下にさらに苦笑しながらレナスは救出劇に目を戻す。

「あいつの登場は予想外だけど、まあいいか」

 ヴィンセントは男をすでに安全な位置まで引き上げている。

 こういう高所での救助の場合、救助をする側巻き込んでの二次災害がおきる場合が度々あるが、ヴィンセントにその心配は無用のようだ。

「まったく、どこかの誰かとはデキがちがうな」

 レナスはそう言うと、今更のようにドゥオモの上から顔を出した1人の男にむかってため息をついた。


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