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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
□嘘つき達の願い編□
138/139

ShortEpisode01    嘘の中の真実 

エイプリルフールに関するショートエピソードです。

前半のキアラとヴィンセントのお話は【騎士の初恋編】と【隊長達の受難編】の間のお話。

後半のレナスとヒューズのお話は【騎士の我が儘編】のあとのお話となっております。

「俺と付き合ってくれないか?」

「つくならもう少しマシな嘘にしてください」

 未だかつてこれほどまで邪険に扱われたことがあっただろうかと、ヴィンセントは目の前の少女の答えに記憶をたぐり寄せる。

 答えは否。お断りの言葉はあれど、嘘で切り捨てられた事は長い人生の中でもはじめての出来事である。

「いくら何でも、嘘でくくるのは酷いな」

 しかしそれにあまり動じないのは、告白の相手が恋にとことん疎い男装の騎士キアラだからだ。そしてそんな彼女にどうしようもなく惹かれているからだと客観的に分析しながら、ヴィンセントは不機嫌な彼女の返答を待つ。

「だって嘘をつくために、わざわざ巡回中の私を呼び止めたんでしょう?」

「いや、俺は想いを伝えに来ただけだ」

「騙されやすい顔に見えるかもしれませんが、嘘を重ねても無駄ですよ」

 むしろ騙されにくそうな顔だと凛々しいその面を眺めながら、ヴィンセントはもう一度言葉を繰り返す。

「俺と付き合って欲しい。君に会えたらそう言おうと、先週からそればかり考えていた」

「まさか、王子ともあろう方がこんなばかげた行事の為にそこまで入念に準備をしているとは思いませんでした」

「告白をばかげた行事で切り捨てるとは君らしいな」

 皮肉でも何でもなく、むしろ関心しながらそう言ったのだが、相手の顔は不機嫌そうに歪んでいた。

「ばかげた行事でしょう。特に好きとか付き合ってとか、恋愛に関する嘘で人を騙そうとするのが最も嫌いなんです! まあ、レナス隊長みたいに『結婚するのー』とかわかりやすい嘘ならまだマシですが」

 となにやらブツブツと呟き出すキアラに、ヴィンセントはようやく自分が大きな間違いを犯していたことに気付いた。

「そうか、今日はもう4月か」

「何を今更」

「すまない、確かに君が疑うのも無理はないな。わかった、また日を改めよう」

 言いながらさり気なくキアラの手を取りその甲に口づけを落とせば、今更のように彼女の脳内にヴィンセントの告白が届いたようだった。

「……待ってください、もしかしてさっきの本気だったんですか?」

「では明日、お昼休みにもう一度会いにいくよ。ちなみに好きな花はあるか?」

「本気だったんですか!」

「そう驚くことか? 俺は割とわかりやすく好意を示していたと思うけれど」

 途端に、キアラは真っ赤になってヴィンセントから3メートルほど後退した。

「無理です!」

「せめてちゃんと告白させてくれ。嘘だと突っぱねられた告白に返事を貰っても嬉しくない」

「だってその、私ですよ!」

「でも時々デートはしてくれるじゃないか」

「あれは盗賊退治です! だから急に、そんな本格的な物を求められても無理です!」

「君は返しがいちいちが面白いな。まあそこが気に入っているんだが」

「嘘言わないでください」

「俺は嘘をつくよりつかれたい派だ」

「でも何で突然……」

「本気だと示しておかないと、君は永遠に気付かない気がしてな」

 とはいえまさか遊びだとは思っていなかっただろう? とあえて笑顔で尋ねると、キアラはその場にしゃがみ込む。

「思ってないけど、そう言うのは夢の中の話だと思ってました」

「今の言葉は、俺との交際を夢にみるほど望んでいたと解釈して構わないか?」

「いやっそれはまだっ……その」

「焦らなくて良い、明日ちゃんと告白するからそれまでに考えてくれれば」

「今夜は寝かさないつもりですか!」

 そう言う台詞はもっと違う場所で、甘い声音で囁いて欲しいと思ったが、それを告げたところで彼女が理解しないのは明白なので、ヴィンセントは新たに言葉を探す。

「じゃあ今からもう一度、告白を仕切り直しても?」

 返答は妙なうなり声だったが、その動揺ぶりはみていて可哀想になってくるほどだったので、ヴィンセントは今一度キアラとの距離を縮める。

「君が好きだ」

 彼女に伝わりやすいように、無駄を省いたまっすぐな言葉を差し出せば、キアラは恐る恐るとだがヴィンセントの言葉と手を取る。

「私も、ヴィンセント様のことは嫌いじゃないです」

 酷くたどたどしいその答えも、ヴィンセントにとってははじめての物だった。

 けれど耳まで真っ赤にして、泣きそうになりながら言葉をひねり出すその姿は、今ま出会ってきたどんな恋人よりも愛おしいと彼は思う。

「嬉しいよ」

「でもその、付き合うのはよくわからないし、これから仕事が忙しくなるし、やっぱりよくわからないし」

「わかってる、でも嬉しいんだ」

 そう言ってもう一度手の甲に口づけを落とすと、またしてもキアラは彼と距離を取る。

 けれどそれを、ヴィンセントは無理に縮めない。

「ゆっくりとでいい、俺を少しずつ受け入れてくればそれで」

「……善処はします」

 騎士らしい回答に笑いながら、ヴィンセントは逃げていくキアラを微笑ましく見守る。

 元から答えがすぐ出るなんて期待してはいなかった。

 ただほんの少しでも、彼女の中に自分の居場所が出来ればそれだけでよかった。

 でも願わくば、来年は愛の言葉を嘘と切り捨てられないようにと思いつつ、ヴィンセントは小さくなっていく騎士の背中をいつまでも眺めていた。

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