ShortEpisode01-2 飼い犬と飼い主
翌日、仕事が終わると同時に騎士団を飛び出したヴィンセントを待ち受けていたのは、一匹の狼とその首輪についた鎖をがっちり掴むレナスの姿だった。
ガラハド騎士団の前にガリレオの騎士がいると言うだけで目立つのに、犬連れということで更なる異彩を放っている。
「こっちこっちー」
と手を振るレナスに苦笑しつつ、ヴィンセントは鎖の先で尾を下げている狼を見た。
狼と言うより目つきの鋭い犬という印象を受けるのは、はじめてその姿を見たときより一回りほど大きさが違うからだろう。
あのときは戦闘中であったこともあり雄々しく巨大な印象を受けたが、レナスに手綱を取られたその姿は面倒な飼い主を持った哀れな飼い犬である。
「お待たせしました」
と言いつつ笑いをこらえきれなかったのは、やはり狼の首に付けられた首輪とそこに繋がる鎖がおかしかったからだ。
「ヒューズさんってそう言う趣味だったんですね」
「アホか!」
と思わず怒鳴ったヒューズに、レナスが蹴りを食らわせる。
「わんちゃんは普通喋らないでしょう」
「誰の所為だと思って…」
先ほどより幾分か小声でそう言うヒューズに、レナスはすまし顔だ。
「こんな大きな犬がウロウロしてたら、怖がる人もいるでしょ」
それにいつもの事じゃないと言い切るあたり、過去にもこの手の扱いを受けたことはあるのだろう。
「じゃあ早速行こうか」
と微笑むレナスに引きずられるように歩き出すヒューズは無言。しかしその尾が悲しいくらいに下向きなのがおかしくて、ヴィンセントはヒューズがお目当ての場所を見つけるまで何度と無く笑いをこらえるハメになった。
けれど情けないながらもヒューズは凹みながらも優秀な追跡者だった。
彼は一度も足を止めることなく、わずか15分足らずでお目当ての場所を見つけた。
「この通りみたいだな」
「さすが早い」
「俺の鼻が良いんじゃない。ただ探しやすかっただけだ」
そう言ってヒューズが鼻を向けた先には、何よりの目印が立っていた。
薄暗い通りの奥、小さな宝飾店の出窓に張り付いていたのはキアラだったのである。
「相当未練があるのね」
と言いつつ側のワイン樽に身を隠したのはレナス。
「その方が、初めての贈り物に丁度良い」
ヒューズとレナスに礼を言って、ヴィンセントは颯爽とキアラの元に歩み寄った。
一方残されたヒューズはワイン樽の影でにやついているレナスにため息だ。
「盗み見は感心しねぇな」
「情報提供者として、お駄賃ぐらい貰わなきゃ」
「お駄賃ってお前……」
「あんたにも後でジェラート買ってあげるから、今は黙ってクッションになりなさい」
二人の様子が見やすいようヒューズの体にのし掛かりながら、レナスは楽しげな瞳で王子と騎士の動向を見守った。