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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
□騎士の我が儘編□
133/139

ShortEpisode01-0 再会は唐突に

ナターレ(クリスマス)のエピソードです。

本編の季節が夏なので小ネタ程度の扱いですが、今年一年の感謝を込めて書きましたのでよろしければどうぞ。

 騎士団からの帰り道、キアラは小さな装飾品店の前で思わず足を止めた。

 彼女の目を奪ったのは、2対の指輪。婚約指輪ではないが、恋人同士がつけるものである。

 しかし良くある恋人同士の証とは違い、指輪に彫られているのは可愛らしい装飾ではなく、雄々しい獅子の姿だった。

「それが気になるのかい?」

 あんまり熱心に見ていたせいか、店の中から店員が出てくる。途端気恥ずかしくなりつつも、キアラは何とか声を絞り出した。

「この指輪、ずいぶん前に一度見たんですけど同じ物ですか? 確か去年の冬だったんですけど」

「そうだよ。ナターレにあわせてプレゼント用にと置いたんだけど売れなくてね」

 でも目新しい商品が全て出てしまったので、新作が届くまでの間ショーウィンドウに戻したのだという。

「男性的な装飾だから、女性に不人気でね」

 店員はまさに運命の出会いだと言わんばかりの顔で、キアラに微笑んだ。

「もし良ければ片方だけでも売るよ、揃って在庫になるよりはマシだし」

 値段は少し張るが手が出せない額ではない。思わず買うと言いかけて、彼女ははっと我に返る。

 残念ながら、この手の物を買ってもつける場所が彼女にはない。

 なにせキアラは男装の騎士として有名なガリレオの騎士だ。女っ気より男っ気の方が前に出すぎて、この手の装飾品を着けたことなど一度もない。

 つけたら絶対からかわれる。それにきっと、恋人からの贈り物だとあらぬ誤解をうける。

 そしてそれを恋人に知られたら最後、どうしてねだらなかったのかと散々怒られるに違いない。

「やっぱりいいです」

 誘惑を振り切ってキアラが歩き出すと、店員は諦めたようだった。

 だがあのとき買っておけばと後悔したのは、家に帰ってからのことである。

 上司であり同居人のレナスが酔いつぶれて寝ていたのを起こしたとき、その指に光る恋の証をみつけ不意に後悔が押し寄せてきたのだ。

 恋の証に思わず羨望の眼差しを向け、それからキアラは自己嫌悪に陥る。

 たしかはじめて指輪を見つけた日も、キアラは同じように指輪を求める自分に酷く落ち込んだ。

 確かあれはナターレの日。巡回途中にあの指輪を見つけ、キアラの心が動いた。

 女らしい格好には抵抗があったが、指輪や首飾りなどの装飾品には前々から興味があった。けれど可愛らしい物が自分に似合うとは思えず諦めていたところ、あの獅子の彫り物に目を奪われたのだ。

 これだったら自分にも似合うだろうと一瞬購入を考えたが、恋人同士でつける物だとわかって諦めた。

 あのときは自分に恋人が出来るなんて考えもしなかったのだ。だから縁のない物だと思っていた。

 けれど上官の指に光る指輪を見ていると、やっぱり憧れがわいてくる。

「でも、あんな安物をヴィンセント様がつけるわけないしな」

 何せ相手は王子だと考えて、それから当たり前のように二人でつけることを想像した自分にキアラは真っ赤になる。

 買うとしても一つだけだと念を押してから、キアラはもう一度大きなため息をついた。

 もし今が自分の誕生日であったり、それこそナターレであったら指輪を買う口実になったかも知れない。でも今は7月で、めでたい行事も何もないのだ。

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