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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
□隊長達の葛藤編□
132/139

AnotherEpisode   除け者の理由

出番のなかった二人の小話です。

短い上にベタ甘ですが、耐性がある方は是非どうぞ

 デートしているときより取り調べをしている方が生き生きしているというのは、彼氏としては非常に複雑だ。

「もっもう勘弁してください!」

「泣き言は聞きません。貴方がしたことは、嫌がらせではなく犯罪なんですから!」

 ガリレオ騎士団の第4取調室で、数時間前に捕まった通り魔にくどくど説教をしているのはキアラ。

 そしてそれを、部屋の隅に置かれた椅子に腰掛け、ぼんやりと眺めているのは現在進行形で彼女とデートをしているはずのヴィンセントだった。

 取り調べ自体はもう1時間も前に終わっている。しかし反省の色がないからと、キアラが犯人を開放する気配はまだない。

 別に物理的な拷問を加えているわけではないが、人を射殺すような視線に1時間も見つめられては犯人の精神はそろそろ限界だろう。

「もうそのくらいで良いだろう。監獄の方でも、キツイお仕置きが待ってるだろうし」

「しかし……」

 なにやら言いよどむキアラを無視して、ヴィンセントは取調室の扉を開け、待機していた騎士に犯人を連れて行くように声をかけた。

 連れて行かれる犯人を見つめるキアラは不服そうで、しかし彼女自身もさすがに怒鳴りっぱなしで疲れていたのか、引き留めるようなマネはしない。

「満足したか?」

 犯人がいなくなった取調室で、ヴィンセントがそう尋ねるとキアラは首を横に振る。

「今日はやけに苛立ってるな」

「罪もない恋人達に嫌がらせするなんて酷すぎます。それにあの人、レナス隊長まで刺そうとしたんですよ!」

 怒りの原因は主に後者なのだろうとヴィンセントが思うのは、自分以上にレナスに懐いているのが少し面白くないからである。

「それに、捜査もさせてくれなかったし」

「取り調べで忘れているかも知れないが、俺達は今日デートしてるんだぞ」

 進行形であることを強調するために語尾を強めてみたが、キアラが気付いた様子はない。

 こんな事なら、ヴィートに捕まったときさっさと逃げれば良かったとヴィンセントは後悔する。

 とはいえ勿論ヴィートも二人のデートの邪魔をする気はなかったようなので彼を怒ることも出来ない。通り魔の捜査をしていたと聞き、「なんで声をかけないんですか」「レナス隊長が仕事していたなら、自分が後を引き継ぎます」と言い出したのは他ならぬキアラなのである。

 ヴィンセントは勘弁してくれと思ったが、残念ながら彼女の気は未だ晴れてはいなかった。

「デートならなおさら、捜査させてくれても良いじゃないですか! 前よりは恋人っぽくなってきたし、囮捜査くらい私だって……」

 むくれるキアラに黙って背を向けると、ヴィンセントは突然取調室の扉を閉める。

「なら、試してみるか?」

 閉めた上に鍵をかけたヴィンセントにキアラが慌てた直後、彼女の体は取り調べ室の机に横たえられていた。

 その手際の良さと力に驚くと同時に、ヴィンセントはキアラの首筋に深い口づけを落とす。

「首ぃぃぃぃいい!?!?」

 そして響いた叫び声はあまりに色気が無くて、ヴィンセントも思わずからだから力が抜ける。

「酷いです! くっくくく首なんて酷いです!」

「君が出来ると言ったんだろう」

「とっ突然だから!」

「じゃあ今度は耳だ」

「耳もいやです! ダメです!」

「……そんなので囮捜査ができると本気で思っているのか?」

 言われて、キアラがシュンとした顔で縮こまる。

「っていうか、そんな大声で嫌とか言われたら俺でも傷つくぞ」

「お、驚いてしまって、だからその!」

 言い訳をするが、起きあがるヴィンセントの表情はさすがに暗い。

 さすがにあの嫌がり方は酷いと自分でもわかる。

 でも考える間もなく飛び出す悲鳴を、押さえるだけの経験がキアラにはまだない。

「…ごめんなさい」

「いい、俺も悪かった」

 その上、こういう場合に折れるのはいつもヴィンセントの方で、それがキアラは心苦しくて仕方がない。

 だから彼女は意を決して、ヴィンセントの腕を強く引いた。

 不意打ちによろける彼を、机に膝立ちしたキアラが腕で支えた。

「高さは、丁度良いですね」

「おい何を!」

「こうすれば、私にも出来ます!」

 何がだと尋ねる前に、キアラがヴィンセントの首にキスをした。

 必死になって吸い付くそれはあまりにつたないが、ヴィンセントの思考を停止させるだけの効果はあった。

「どうで…しょう…か」

 息も絶え絶えでに口を離した彼女から、ヴィンセントは思わず目をそらす。

「やっぱり…ダメですか?」

「頼むからそんな可愛いらしい顔で首をかしげるな」

 可愛いという言葉に真っ赤になるキアラを、ヴィンセントがそっと抱き寄せる。

「君は悪魔だな」

「くっ首にキスしたのは、その手の物をリスペクトしたわけではなくて!」

 私は吸血鬼でもないしと見当違いの言い訳を重ねるところもまた可愛くて、ヴィンセントはもう一度彼女の首筋に触れるだけの口づけを落とす。

「……今度はこらえましたよ」

「いちいち報告しなくて良い」

 また失敗したとキアラはうなだれるが、彼女の報告がなければ理性が飛んでいたかも知れないと、ヴィンセントはこっそり安堵する。

「ともかく君に囮捜査は無理だから、観念して俺とのデートに戻ってくれ」

「でももう夜だし、私はそろそろ……」

「多分まだ、君の家にはヒューズ隊長がいると思うぞ」

 さすがに、今帰れば二人の邪魔になる事くらいはキアラにもわかる。

「夕飯を一緒に食べよう」

「でも昨日も食べたし」

「俺は毎日でも食べたいが」

「でもヴィンセント様奢らせてくれないから…」

「何処の国に恋人に食事を奢らせる王子がいる」

「でも私だって何かお返ししたいです」

「ならキスが欲しい」

 今度は唇にと微笑めば、キアラは心の準備をさせてくださいと、真っ赤になってうなだれた。



AnotherEpisode【END】

※11/10日誤字修正致しました。(ご指摘ありがとうございます)

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