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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode09-2 不器用な騎士達

「レナスさんの様子はどうだ?」

 治療が長引きそうなレナスに代わり、サロンへと戻ってきたキアラに声をかけたのはヴィンセントだった。

「傷が深いですが、失明はせずにすみそうです」

「それにしては暗い顔をしているが?」

「疲れ果てたんです、隊長に2回も投げ飛ばされて」

 でも今はヒューズ隊長のお陰で落ち着いたと微笑むキアラに、ヴィンセントはホッとした顔をする。

「そう言えば、私わかりましたよ。レナス隊長がおかしかった理由」

 そう言って得意げに理由を語るキアラに、勿論ヴィンセントは苦笑だ。

「見ていれば普通気付くだろう」

「ヴィンセント様はいつから?」

「君よりもずっと前に」

 その言葉に今度はむくれるキアラ。それを愛でながら、ヴィンセントはヒューズの言葉を思い出す。

『異形が恋などすると思うか』

 そう聞く彼の顔は既に恋をしている男の物で。

 でもその恋を彼が認める気がないのは、ずっと前から知っていた。

 それを自分の言葉で打ち崩せた自信はない。

 しかしそれでも上手くいくと思えるのは、ヒューズが恋をしているのが、彼の全てを変えた女性だからだ。

 キアラが言うとおりレナスもまたヒューズを好いている。そしてそれを自覚したのだとしたら、きっとそれから逃げるようなことはしない。ガリレオの女騎士はどんなことからも目を背けないからだ。

「でも良いんですか、アルベール様は?」

「相手が悪すぎるからな」

 それはキアラも同意のようだ。

「やっぱり、レナス隊長に釣り合うのは騎士として立派な人だと思うんです」

 そう言って不機嫌になったキアラの表情から察するに、多分レナスに怪我を負わせたことを多少なりとも怒っているのだろう。

 騎士としての規律に厳しいキアラである。アルベールの未熟さと、それを顧みない部分が許せるとは思えない。

「その怒りをぶつけるのは俺にしてくれ。アルベールを、未熟なまま放置させたのは俺だからな」

 そう言うヴィンセントの顔は、レナスやヒューズと同じ騎士隊長の物だった。

「ぶつけません。レナス隊長が、それを許しませんから」

「そう言うところ、少し妬ける」

 何気なく微笑めば、キアラが真っ赤になって下を向いた。

 はぐらかす気だろうなと思うヴィンセントの前で、案の定キアラは慌てて話題を変える。

「ちなみに今、アルベール様は?」

「ラウンジで貴族達の相手をさせている。君たちの対処が早いお陰で混乱はないが、不安がっている方々もいるのでな」

 元々王子として顔が広いアルベールは、その手の役には適任なのだろう。

 そしてそう言う部分は、キアラも評価している

「聞き込みが終わるまでもう少し時間がかかりそうなので、アルベール様の口からそれを伝えて貰うことは可能ですか?」

「それを聞きに来たんだ。まだ酒と料理が余ってるので問題ないが、時間がかかりすぎると機嫌を損ねる輩もいるからな」

「そこまで長くは取らないと思います。襲撃者の正体はわかっているので」

 さすがに調査が早いなと感心すれば、キアラが声をすぼめる。

「ただちょっと、面倒なことにはなっています」

 どう面倒なのか聞きたいところだったが、遠くでキアラの名を呼ぶ声がしたので断念する。

「引き留めて悪かったな。あと、貴族達のご機嫌取りは任せてくれ」

「お願いします」

 そう言って駆け出そうとして、キアラが慣れないヒールに軽くよろける。

 その様子に、彼女がまだヒールを履いていたことにヴィンセントは驚いた。

「脱いでしまったらどうだ? 苦手なんだろう?」

 どうせドレスの裾で見えないからと、他の騎士達が歩き慣れないヒールを脱ぎ捨てる姿をヴィンセントは見ていた。

 だからキアラも、いやむしろ誰よりも先に脱ぎ捨てていると思っていたのだ。

「…大丈夫です」

「もらい物だからと遠慮しているなら気にするな。さほど高い物ではない」

「でもせっかくヴィンセント様に貰ったのに、無くしたらいやですし」

 呟かれた言葉に、ヴィンセントは頬を打たれたような衝撃を受けた。

 ドレスと靴を試着していた時の嫌がりようは正直傷つくほどで、もう少しくらい喜んで欲しいと思っていたのだ。しかしどうやら、あれは照れ隠しだったらしい。

「あとその、ドレスも破っちゃってすいませんでした」

「かまわない。それに、乱れた姿もなかなか素敵だ」

 思わず微笑めば、キアラが顔を真っ赤にしてかけ出した。

 やはり時々姿勢を崩すが、そこは騎士なので上手いこと速度だけは落とさない。

 器用なんだか不器用なんだかわからない姿に苦笑して、それからヴィンセントはラウンジへと戻った。

「ヴィン、顔がにやけてるけど何があったの?」

 目ざとく気付いたアルベールに何でもないと答えて、彼もまた不安げな貴族達に声をかける。

 優秀な騎士達が事態を収拾するのはさほど時間がかからないだろう。

 ならば彼女たちの仕事を増やさぬようにと、ヴィンセントはこんな状況でも酒を飲み続ける貴族達を静かに監視した。

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