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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode08-4 その強さはドレスの下に

「すいません、足が限界です」

「だから言ったでしょ、ヘタだって」

 もう100回以上の踏まれた足を引きずってダンスの輪から外れれば、アルベールは壁際に置かれた椅子に座り込む。

「まあ警護するのは楽で良いけどね。踊ってれば喧嘩は売られないし」

「もっと他に感想は無いんですか?」

「あんたダンスのリードヘタね」

「僕の所為!?」

 思わず嘆くがレナスは笑うばかりである。

 そんなとき、突等に通信機のスイッチが自動的に入った。緊急信号だと気付くと同時に、響いたのはヒューズの声と打ち合う剣の音だ。

「非常事態発生。武装した複数の敵と交戦中。繰り返す、非常事態発生。現在武装した複数の敵と交戦中。各員は速やかに周囲の状況を確認せよ!」

 周囲の騎士達の視線をあわせた次の瞬間、側にいた貴族の男が、唐突に袖の下ナイフを抜いた。

 その切っ先はアルベールに向けられており、レナスはとっさにその腕を蹴り上げる。

 ナイフは飛んだが、相手はすぐさま距離を取り、新しいナイフを抜き放つ。それはどう見ても、素人の動きではなかった。

「アルベール、剣を貸して!」

「大丈夫です、僕だってやれる」

 剣を引き抜きアルベールは男へと躍りかかる。それをレナスは声で制したが、伸ばした腕は届かなかった。

 アルベールは男向けて、素早く剣を振り下ろす。

 だが予想より手応えが浅く、彼は思わず息をのんだ。アルベールが思うよりも相手の動きは速く、そして的確な回避行動を取ったのだ。

 アルベールが再び体勢を立て直すより、男が回避から攻撃へと転じる方が早い。一撃目で深く男に近づきすぎていた彼には、もはや回避を行う暇はなかった。

 やられる。

 アルベールが恐怖に立ちすくんだそのとき、ようやくレナスの腕が届いた。

 剣から逃すようにアルベールを引き倒し、レナスは隠し持っていたナイフを構える。しかし相手はその動きを読んでいた。

 アルベールの所為で上手く動けないのを想定し、男はレナスに刃を向けた。

 素早く間合いに入り込まれたレナスは為す術無く、アルベールが素早く剣を差し入れたが、間に合わなかった。

 ぎりぎりで体を反らした物の、男の刃はレナスの額と右目、そして頬にかけてを無惨にも切り裂いていく。

 飛び散る鮮血に、悲鳴あげたのはアルベールの方だった。

 男もまたその一撃で、レナスの動きが止まると思っていた。

 だが彼女は、切り裂かれてもなおその場に立ち続ける。その上アルベールの腕から剣を奪うと、油断していた男のナイフをたたき落とした。

 続けざまに蹴りを放てば、男は転倒し、そして駆け寄った騎士がそれを取り押さえる。

「この馬鹿!」

 レナスは剣を支えに膝をついたのは、そう怒鳴って、彼の頬を殴り飛ばした後だった。

「ごめんなさい、僕…」

「謝罪は良いから下がって! 敵はまだいる!」 

 言いながらドレスを引き裂き、出血が酷い傷にそれを巻く。

 完全には止血できないが、何もしないよりはマシだ。

「陣形を組んで一人一人確実にしとめろ」

 いつの間にか周りに揃う部下たちに声をかければ、皆一斉にドレスの下に隠していた武器を構えた。

 そして同時に身動きが取れるよう、騎士達は一斉にドレスの裾を切り裂く。

「結局一日で駄目になるのよね」

 そんな恨み言を漏らしたのはレナス。

 自分の怪我で周り動揺をさせないようにとの配慮だったが、それに部下達はちゃんと乗ってくる。

「でも、いい男見つけましたから!」

 誰かが張り上げたその一言に、良い意味で空気が緩み、そして彼女たちは気高い笑顔を顔に貼り付けた。

 その笑顔こそが開戦の合図。敵へと躍りかかる騎士達は、ドレスの動き難さなど物ともせず、武器を振り上げる。

 逆に裾を目くらましに使ったり、攻撃の一手にしたりと、彼女達の戦い方は可憐で大胆だ。

 剣術の腕だけで言えば、アルベールよりも劣る者が殆どだ。けれど少なくとも、彼女たちは敵の強さを見誤ったりはしない。

 そんな騎士達の前にアルベールの出番などあるわけもなく、周囲の制圧が終わるのは一瞬だった。

 逃げようとする者達も入り口の警備に捕まり、客たちが混乱するよりも前に騎士達に軍配が上がった。

 危機が去った事にアルベールはホッとして、それから慌ててレナスの姿を探す。

「…すぐに救護を」

 そう言う部下に頷きつつも、今後の指示を飛ばすことは忘れないレナスに、アルベールはただただ唖然とするほか無かった。

 そんなとき、その場へと駆け戻ってきたのはヒューズとヴィンセントだ。

 多少髪と服は乱れているものの、彼らには傷ひとつ無い。

「こちらも終わったようだな」

 ヒューズの言葉にレナスが顔を上げ、ヒューズもまた彼女の顔を見た。

 しかし彼は動揺ひとつしなかった。ただ平気かと小さく声をかけ、レナスが頷くのを確認すると、すぐさま客達の避難を行うため、その場をあとにする。

 自分だったら、きっとレナスの怪我を見て取り乱すことしかできない。

 今更のように彼が隊長である理由をまざまざと見せつけられ、アルベールは落胆した。

 そんな彼の肩を叩いたのはヴィンセント。彼は薄々、レナスの怪我の原因に気付いているのだろう。

「彼女を救護班の所まで連れて行け、この場の整理は俺達が行う」

 すぐに頷いたのはレナスが心配というのもあるが、この場にいても、自分に出来ることがないと彼は気付いたのだ。

「…レナスさん」

「大丈夫よ、こんなのツバつけとけば」

 今度こそ謝ろうとしたアルベールの頬を、今度は優しく叩き、レナスは大丈夫だと笑う。

「でもこれ以上ドレス汚したくないから、エスコートされてあげるわ」

 部下にすぐ戻ると告げるレナスの手を、アルベールは歯がゆい思いでとる。

 そうして歩き出せば、レナスが軽くアルベールの足を蹴った。

「失敗したと思うなら、今日のことを次に生かしなさい」

「はい」

「あと必要以上にクヨクヨしない。あんたは騎士で王子。あんたの顔色ひとつでみんなが不安になる」

「はい」

「あと傷つけられたくらいで、あんたの評価を上げたり下げたりはしないから、今日はしっかり休んで明日の試合に備えるように」

「レナスさん」

「何?」

「格好良すぎます」

「でもあんたの評価は元々高くないから、あんまり期待はしないでね」

 うなだれたアルベールの背を、レナスは活を入れるように力強く叩いた。

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