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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode08-2 ダンスフロアは遥か遠くに

 午後8時。

 誰も彼もが酔いに頬を染め始めると、舞踏会はその姿を一変させる。

 選手対選手の喧嘩は勿論だが、酔いが回った貴族同士の間でも諍いが始まるのがこの時間だ。

 お互いひいきのチームが違うので、どちらが強いかを論議している内に気がつけば手が出てしまうらしい。

『入り口横で乱闘。側にいる騎士は至急仲裁に入れ』

 ヒューズの耳に入ってきた通信に、位置的にすぐ近くだと読んだヒューズは、自分が向かうと宣言する。

「おい、無視してんじゃねぇ!」

 だがそんな彼の前に、見知らぬ男が立ちはだかった。

 もはや何が原因で喧嘩を売られたかも覚えていないが、とりあえず任務の邪魔になるなら倒すしかない。

 殴りかかってきた男の鳩尾に拳をたたき込み、ヒューズはあっという間に男を床に放った。

 彼の足下には、返り討ちにされた男が他にも3人ほど倒れている。

 1人は選手、もう3人は彼の連れのようだった。

 舞踏会の招待状1枚で、会場には入れるのは4人。故に選手たちの殆どは、恋人とそして護衛役を連れてくる。

 自分が怪我をすると事なので、大抵は護衛役に他の選手を攻撃され、本人は恋人と踊りあかすというのが通例だ。

 なのでヒューズに向かってきた奴は相当な愚か者なのだろう。とはいえ勿論、売られた喧嘩に本気を出すような大人げのない真似をするつもりはない。

 護衛役と言っても腕に覚えがある程度であり、騎士を職業にするヒューズとの差は歴然だ。

 過剰な正当防衛はすべきではないと思っているし、特に選手には怪我をさせたくない。

 念のため倒れた男達に怪我がないかを確認し、それから報告のあった乱闘騒ぎに駆けつける。

 現場では、二人の男が服を引っ張り合い、片方などは尻を出している。

 見苦しさは半端ないが、双方に大した怪我はまだないようだった。

「そこら辺にしておけ」

 男たちの首根っこを掴み、ヒューズは二人を無理矢理引きはがす。

 同時にキツイ睨みをきかせれば、手元の二人は黙り込んだ。

「こいつらを外に出せ」

 部下に男達を渡し、とりあえずは一件落着かと周囲を見回すヒューズ。

 そのとき彼は、奥のフロアでアルベールと踊るレナスに気がついた。

 昼間見たとき以上に美しく着飾ったレナス。その美貌に多くの男達の目が釘付けになっているが、ヒューズはそれよりも時折不自然に飛び上がるアルベールが気になった。

 あれは多分、物凄い勢いで足を踏まれている。

 昔からレナスはダンスが下手で、その上一歩一歩にやたらと力が入るせいか、相手の足を痛めつける拷問器具のような踊り方をするのだ。

 ヒューズはもう慣れたのでそれなりの回避行動が取れるが、アルベールはまだ無理なのだろう。

 それがおかしくて、その反面今まではあの場所が自分の物だったのにと、女々しく思う自分にヒューズはふっと苦笑する。

 下手な自覚があるのか、彼女は舞踏会に参加しても大抵は踊らない。

「でもあんたの足は壊しても良いから」

 と躊躇い無く腕を取るのは、ヒューズの腕だけだった。

 だからいつもなら、周りの男がどんな目を向けようと気にせずにいられた。

 けどもう、彼女の特別でいられる時間は終わる。

 もう甘えないと宣言したレナスの言葉を思い出し、ヒューズは彼女から目をそらした。

 そんな彼の背に、軽い衝撃が走ったのは、その直後の事だった。

 響いた悲鳴に背後を振り返れば、男がへし折れた木の椅子を掲げている。

 軽い衝撃、とヒューズは思ったが、周りの慌て方からしてかなりの勢いで椅子をぶつけられたらしい。

「…器物破損で現行犯逮捕だ」

 折れた椅子を掴んで体を引き寄せ、あとは背負い投げで相手を地面に叩き付ける。

 意識はまだあるようだったが、素早く手錠をかかればさすがに大人しくなった。

「大丈夫ですか?」

 そう言って声をかけてきた相手が、一瞬誰だかわからなかった。

「……キアラか?」

「どうしてみんな怪訝な顔で尋ねるんです!」

 そんなに綺麗に化けたらわかるまいと思ったが、下手に褒めると拗れるのであえて言わないでおく。

 ヴィンセントが見立てたドレスは上手い具合に彼女の寂しい胸元を寄せ上げており、ウィッグと化粧で彩られた彼女の顔には騎士の面影はない。

 さり気なくドレスの裾から刃物が覗いているが、ぱっと見ただけで騎士だと気付くのは無理だ。

「手錠まだあるか? 俺のはストックが切れた」

 ヒューズの言葉に、これまた器用に隠した手錠を取り出して、キアラがため息をつく。

「今年はいつもより激しいですね」

「煽るに煽ったからな」

 そう言ってさり気なく視線を走らせれば、キアラから少し遅れて、ヴィンセントがこちらにやってくる。

「凄い音がしましたけど」

「ヒューズ隊長が、背中で椅子を粉砕しました」

「俺が壊したみたいな言うなよ」

 キアラの言葉にヒューズが深いため息をこぼす。

 同時に背中を軽くさすりながら、彼は周囲に目をこらした。

「ずいぶんと殺気立ってきたし、そろそろプランBでいくか」

「じゃあ、中庭の方、人払いをさせておきます」

 そう言って歩き出すキアラを見送りつつ、ヴィンセントはヒューズに目を向ける。

「大丈夫ですか」

「椅子くらい平気だ」

「レナスさんの事ですよ」

 言い当てられとは思っていなかったのか、ヒューズが思わず動きを止める。

「それ以外で、あなたが背後を取られるようなことがありますか?」

「目ざといな」

「…敵が集まるまで、お話聞きましょうか」

 ヒューズの肩を叩き、ヴィンセントは中庭を指さした。

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