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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode08-1 美しさと憂いと

 夕刻、舞踏会の会場となっている高級ホテルのサロンで、アルベールはレナスを今か今かと待っていた。

 フロレンティアの南東、古い貴族の邸宅を改装して作られたそのホテルは、海外の要人や映画俳優なども訪れる有名な三つ星ホテルだ。

 ホテルを格調高い物にしているのは舞踏会のメイン会場となっているサロン。

 通称鏡の間と呼ばれるサロンは、巨大な2対のシャンデリアと、ヴェッキオ宮殿にも負けない美しいフレスコ画が天井を彩る、それは見事な物なのだ。

 その部屋の美しさに負けぬよう、貴族達は派手なくらいに着飾っているが、王子の礼装で佇むアルベールはその中でも特に目を引いた。

 騎士としては未熟で、レナスの前では男としても未熟な彼だが、王子としての立ち居振る舞いは一流。

 故に多くの女性達が彼に甘い視線を送っていたが、彼が待っているのはただ一人。

 もちろんそれは、昨晩招待状を渡したレナスである。

 渡したとき、正直レナスはあまり乗る気ではなかった。

 しかし、どうしてもと言えば彼女は渋々頷いてくれた。

「まあ行く用事はあったし」

 と言う言葉に若干不安は覚えたが、絶対だからと念を押したので多分大丈夫だろう。

 大丈夫なはずだ。万が一にも来なかったら……いや彼女に限って来ないことはあり得ない。多分。

 希望を失わないようそう念じ続けていると、背後から突然肩を叩かれた。

 振り返り、そしてアルベールは息をのむ。

「ごめん、仕事があって裏にいたの」

 ドレスに合わせたメイクと髪型で完璧に決めたレナスは、アルベールの想像より遥かに美しかった。

 結い上げられた金糸の髪は美しく輝き、顔を彩るほお紅は白くつややかな肌を暖かく彩っている。

 いつもより濃いめの化粧を施しているはずなのに、不自然さはそこにはなく、ただ純粋な美貌だけがそこにはあった。

「い、今までで一番綺麗だ」

 唇にキスをしたい衝動を何とかおさえ、膝をついて手の甲に口づけを落とす。

「そうしてると王子様よね」

「そうして無くても王子様です」

 若干ムッとしながらも、アルベールは彼女の手を引きサロンへと足を踏み入れた。

「今日は、絶対忘れられない夜にするんだ。むしろ今すぐ告白してとかせがまれるくらい熱い夜に…」

 独り言に近いその言葉を、レナスは何かに気を取られ聞いていなかったが、アルベールは構わず続ける。

「今日は一晩中踊り明かしましょう。だから僕だけのお姫様でいてくださいね」

 それは、アルベールが女性を落としたいときに使う本気の殺し文句。

 だがそれに答えたのはレナスではなく、無機質なノイズと伝令だった。

『竜族の団体さんが来た、一同配置に付け』

 それはレナスが耳に付けているイヤリング…に見せかけた通信機からの物で、アルベールはレナスの言っていた「仕事」が何であるかようやく気がついた。

「安心しなさい。言われなくても一晩中、あんたの側にいて守ってあげるから」

「え?」

 唖然とするアルベール。その横に、部下らしき騎士を従えたヒューズがやってきた。

「5番テーブルは騒がしいからアルベールを近付けるな。あと料理を取るなら8番テーブルはやめろ、どこかの馬鹿が痺れ薬を盛ったらしい」

 了解と答える声はいつもの物。すれ違うような僅かな間に現状を報告しあい、すぐさま職務に戻る二人にアルベールは驚くほか無い。

「レナスさん、ヒューズさんと喧嘩とかしてたんだよね?」

「どこからで聞いたのよ、その情報」

「いや、その…」

「っていうか、今仕事中なの。喧嘩してても、こういう場所じゃあ持ち出さないわよ」

 と言いつつ、レナスが一瞬だけヒューズを目で追っているのに気付いてしまう。

 式典の時などに纏う礼装に身を包んだヒューズは、さすがに髪と髭も整えているのでいつもより凛々しく見える。

 そしてそんな彼に、周りの女性たちは甘い視線を送っており、それを見たレナス顔に暗い影が降りた。

 けれど彼女は慌てて明るい表情を作り、そしてアルベールの肩を押す。

「とりあえずなんか食べましょうか。せっかくごちそうがあるし、めちゃくちゃにされたら勿体ない」

「めちゃくちゃ?」

「知らないの、このパーティーのこと」

 ただのパーティでしょうと応える彼は今年が初参加。仕方なくレナスがこの会の裏の顔をつげた瞬間、アルベールの顔から血の気が引いた。

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