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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode06-3 愛しき者のために

 相談したらすぐ帰るという言葉は嘘ではなかったらしく、キアラはお茶も飲まずに部屋を出て行った。

「普通、もう少し一緒にいたいとか思わないか?」

「今日はヴィンがいつにもまして積極的だったからね」

 ことあるがとに甘い言葉を囁くヴィンセントに、どうやらキアラのほうはまだ慣れていないらしい。

「キスくらいしたかった」

「なら自分の部屋で会いなよ」

「あんな可愛い生き物と一緒にいて、手を出さないでいられる自信がない」

「ヴィンってもう少しこらえ性があると思ってた」

「そっちはな」

 少し疲れたような言い方に、そう言えば最近あまり顔色が良くないなとアルベールは思う。

「ちゃんと、血も飲んでる?」

「量を増やしてるが駄目だな」

「もういっそキアラちゃんに貰えば? 一口飲むだけでも違うって」

「本当にやばくなったら打診する」

 本当にする気があるのかとアルベールが不安になるのは、あの溺愛ぶりを見ているからだ。

 ヴィンセントとの付き合いは長いが、彼が一人の女性にこんなにも心酔しているのは初めてだ。

 かつてのヴィンセントは、恋は勿論生活もおざなりだった。だがキアラと出会ってから、彼は毎日を大事に生きているように思う。

「でも俺の前に、レナスさんの問題をどうにかしないとな」

 後もう一人の問題もと呟いた言葉に、アルベールは思わずムッとする。

「協力するなんて、酷すぎる」

「そう思うって事は、お前も気付いてるんだな」

「…あと2日、あと2日でレナスさんが僕の物になったのに!」

 それはないだろうとヴィンセントは思ったが、落胆するアルベールにその言葉はさすがに酷だ。

「でも彼女が好きなら心配にならないか」

「むしろ健康的じゃないか」

「キアラの落胆ぶりを見ただろう。たぶん、本人相当無理してるぞ」

「昨日会ったときは普通だったもん」

「お前が抱く普段の姿と、本当に一緒だったか?」

 尋ねられ、アルベールは上手く答えられなかった。

 キアラが言う違和感を、アルベールも感じていたのは事実だ。

 別れてから今まで、レナスは常に彼女らしい自然な態度でアルベールと接してくれた。

 けれど昨日あった時、彼女はまるで付き合っていた頃のような、作り物の表情と態度を常に纏っていたのだ。

 その原因に気付いたのは、練習を見に来て欲しいと告げた時だ。

 驚くようなことでもないのに、彼女の表情が一瞬、凍り付いたのだ。

 彼女が躊躇う理由がアルベールにはない。

 そう気付いた瞬間わかったのだ。彼女が普通と違うのは、自分ではない誰かが関係していると。

「……協力なら僕がする」

「協力だよな?」

 頷く変わりに、アルベールは部屋の隅に置かれた机へと向かった。

「明日パーティがあるだろう。そこで僕がレナスさんを元気にする」

 アルベールが取りあげたのはカルチョ・ストーリコの主催者たちが執り行う舞踏会の招待状だった。

 参加出来るのは決勝戦に参加する選手達と主催者の招待客、主に貴族たちだ。

「レナスさんこう言う舞踏会好きだし、ここで僕がいかに本気であるかを…」

「…それで本当にどうにかなると思ってるのか?」

「なる、絶対!」

 ヴィンセントは呆れたが、アルベールの確固たる自信を突き崩すことは出来ない。

 結局招待状を渡しに出かけたアルベールを止めることも出来ず、ヴィンセントは更に拗れそうな状況に頭を痛める。

「…もう片方から攻めるしかないか」

 この手の話題にはやたらと疎い友人の顔を思いつつ、ヴィンセントは策を練り始めた。

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