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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
106/139

Episode06-2 相談役は二人の王子

 アルベールの部屋。それはすなわち、王子の寝所だ。

 故にキアラがその日の夕方向かったのは、フロレンティアの中心。ヴェッキオ宮殿と呼ばれる宮殿だ。

 ヴェッキオ宮殿は、フロレンティア建国以前に政庁舎として造られた物で、故に他国の宮殿と比べると華やかさはまるでない。

 内装は初代国王が手を入れたのでさすがに豪華だそうだが、キアラは未だ見たことがなかった。

 城の警備を行うのは王家に使える近衛兵なので、キアラが赴く機会は無いに等しい。

「話を付けておくから気軽に来てくれ」

 何てヴィンセントは笑っていたが、ただでさえ馴染みが薄い宮殿に気軽には入るなんて真似が、真面目なキアラに出来るわけもない。

 それでも勇気を出して入り口の兵に声をかければ、キアラが尋ねるまでも、アルベールの部屋へと案内される。

 外観は地味で、宮殿の上にそびえ立つ時計塔くらいしか目を引く物はないと思っていたキアラだが、中に入ればその考えは一変する。

 せっかくなのでと、観光客にも一部開放されている有名な広間をいくつか覗かせて貰ったのだが、どの部屋でも目を引くのは見事な天井画だ。

 有名な画家達が描いた見事な絵画と、それを囲む細やかで豪華な彫り物は圧巻で、芸術に詳しくないキアラもその美しさには息をのんだ。

 そしてもちろん、目的地であるアルベールの部屋もまたキアラを唸らせる。

「…うちの部屋より広い」

 思わずそうこぼしたキアラを出迎えたのは、装飾過多な調度品が埋め尽くす部屋。

 そしてそこに違和感なくとけ込む二人の王子だ。

 天井にはもちろん色鮮やかな彫り物と天井画が描かれており、2LDKの狭くて質素なアパート暮らしには酷く落ち着かない。

 とはいえそのまま惚けているわけにも行かないので、キアラは慌てて頭を下げた。

「突然お邪魔してすいません」

「…ごめんね、邪魔者がいて」

「いえ、邪魔者はこちらですので」

「謝るのはヴィンの方だよ、こらえ性がないからってさ」

 と笑うアルベールにヴィンセントが苦笑したが、キアラは彼の言葉より、着ている服を気にしているようだった。

 アルベールと、そしてヴィンセントが纏っているのはいつも制服ではなく、王子として式典に出るときに纏う礼服だった。それを指摘すれば、30分ほど前まで新聞の取材を受けていたという。

「最近ずっとですよね」

 言い方が若干卑屈になったことに自分でも気付いていたが、後悔してももう遅い。

「会えないことを寂しく思っているのは、俺だけかと思っていた」

「寂しいなんて…」

 思っていないと言うが、下がった語尾は肯定しているも同じだ。

「ちょっと、人の部屋でイチャイチャするのやめてくれない?」

 アルベールの言葉にキアラは真っ赤になってうつむくが、ヴィンセントは何処吹く風だ。

 それどころか愛情に溢れたエスコートで、彼は応接用のソファーにキアラを座らせる。

 その後もさり気なくキアラの隣に座り、同時に入り口前に控えていた侍女に飲み物を頼むその姿は、まさしく王子。

 普段は騎士としての姿ばかりを目にするので、王子としてのヴィンセントは新鮮で、それでいてどこか歯がゆい。

「王子より騎士の方が好み?」

 そして勿論、聡いヴィンセントはキアラの複雑な気持ちを読んでいく。

 キアラは真っ赤になって違うと怒鳴るが、ヴィンセントはそれすらも愛しいと恥じらいもなく告げる。

「だから、イチャイチャしないでよ」

 本日2度目のツッコミにようやく冷静さを取り戻し、キアラはいつの間にか握られていたヴィンセントの手を振り払いながら、真剣な顔を作った。

「実はちょっと悩んでることがあるんです。…そして出来たら、アルベール様にも聞いて頂きたいんです」

「僕?」

「悩みって言うのは、その、レナス隊長の事なんです」

 ヴィンセントより先に食いついたのはアルベール。

 身を乗り出す彼に、キアラは最近起きている異変について語り出した。

「最近、隊長すごく真面目なんです。仕事にも遅刻しないし、いつもの3倍の早さで書類仕事を片づけるし、定時で上がるとそのまま家に帰って、お酒も飲まずに寝ちゃうんです」

「…それが、変なのか?」

 尋ねずにはいられなかったヴィンセントに、キアラは変だと断言する。

「それにお昼も自腹で食べてるし」

「…それは、普通だろう」

「給料日前なんです! 普通だったらヒューズ隊長の財布か、ヒューズ隊長ごと連れて毎日のようにリストランテに行くのに、最近はいつも一人で」

 キアラの顔は、上司の身を心から案じている顔だった。

 その表情と言葉に、ヴィンセントは理由がわかったようだった。

 一方アルベールも何かに気付いたようだが、ヴィンセントのように素直に頷くことが出来なかった。

「でも、良い事ならそのままでも良いんじゃないかな?」

「それはわかってるんです。レナス隊長がもっと仕事熱心だったらって、ずっと思ってたんです。でも何故だか、仕事熱心なレナス隊長を見てると、どういう訳か心が痛くなるんです」

 キアラは本当に胸を痛めているようで、ヴィンセントとアルベールは思わず顔を見合わせる。

「でもレナス隊長が真面目になる原因もわからなくて……」

 むしろこんな事を思う私の方がおかしいんでしょうかと、真面目な顔でうなだれるキアラ。勿論その恋人は、彼女の不安を拭おうと優しく髪を撫でる。

「原因に見当はついてる。俺も協力しよう」

「ええっ!」

 と声を上げたのはアルベールだ。

 どうやら彼もまた、原因に気付いている風である。

 とはいえヴィンセントにとって、この場合気づかうべきは恋人だ。

「ありがとうございます。やっぱりヴィンセント様に相談して良かった」

 いつもは見せない花のような笑顔に、ヴィンセントもまた微笑む。

「だからイチャイチャしないでよ」

 力のない声でアルベールはつげたが、効果があるわけがなかった。

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