Episode05-2 割に合わない団長命令
「10時から取材。12時から写真撮影。そのあと5時までサッカーの練習で、そこでもまた取材だから」
「…は?」
「だから10時から…」
「新しい暗号か? それとも内密な指令?」
ガリレオ騎士団の事務室前で、唐突にヒューズを呼び止めたのだヴィートだ。
それだけで十分面倒なのに、彼がつげた言葉の意味がまったくわからず、ヒューズは不安そうに眉を寄せる。
直後、違うと声が飛んできたのは事務室の中からだった。
「…ヒューズちゃんの取材をしたいって、新聞社や雑誌社から電話が沢山来てるのよ」
そう言ったのは事務のおばちゃん達。その手の話題が好きな彼女たちは事務室を飛び出し、ヒューズの肩をねぎらうように叩く。
「待ってくれ、取材って言うのは…そういう取材なのか?」
「他に何がある」
ヴィートの言葉に思わず、ヒューズは目の前が真っ白になった。
「勿論全てうけたからな! これは、うちの騎士団を広く知らしめる良いチャンスだ! 主に金持ちに!」
「俺はやらない!」
「やれ、団長命令だ」
それでも食い下がれば、ヴィートはヒューズの肩を掴み、人気のない廊下の隅に引きずってくる。
「うちの資金繰りが危ないの知ってるだろう! あの手の雑誌は貴族のお嬢さんたちに人気だし、そこに火がつけば、親ばかなパーパさんたちが、ウチに出資してくれるかもしれない!」
「そんなうまい話が…」
「実際ガラハド騎士団は、ヴィンセントが入団してから貴族たちからの融資が20%アップした」
「俺にそんな効果があるわけ無いだろう」
「大丈夫、散髪代はだしてやる」
「それだけでどうにかなるか!」
「なる。安心しろ、なる!」
反論する隙も与えず、ヴィートは命令だと繰り返した。
もはやこちらの話を聞く気がないのは明白で、仕方なくヒューズは交換条件があると譲歩した。
「来月から、一人騎士を雇って欲しい」
「お前からの紹介なんて珍しいな」
つまり訳ありかと尋ねられ、ヒューズは頷く。
「俺の…昔の同業者だと言えばわかるか」
「確かに訳ありだな」
「…国王失踪事件の際に戦ったあの魔法使い、どうやら世界的な指名手配班らしくてな」
「その調査で来るって事か……」
「ああ」
「やばい奴なのか?」
「妙な収集癖があるらしくてな」
悪趣味な物だろうと言い当てるヴィートにヒューズは頷く。
「あいつが訪れた国では、特異種族が次々と消えているらしい」
「そう言えば先月、行方不明者の捜索願がいくつか出ていたな」
「結局見つかってない奴だろう? たぶんあいつが関係してる」
「あの魔法使い、ここにまた戻ってくるのか?」
「今はヴェネチア共和国の方で忙しくしてるみたいだが、時間の問題だろう」
「この夏も忙しくなりそうだな」
「そのためにも奴が欲しい。性格は少々難があるが、腕は立つからな」
「いいだろう。お前が信頼してる男なら、俺も信頼する」
「繰り返すが、性格は難がある」
「難がない騎士がここにいるか?」
「……いない」
「なら問題ないだろう」
違う意味では問題有りだと持ったが、その筆頭がヴィートなので指摘する気もおきない。
「じゃあ変わりに、体張って頑張ってきてくれよ」
「取材だけだよな?」
「…カルチョ・ストーリコが荒れるのはこれからが本番だろう?」
ヴィートの不敵な笑みに、ヒューズは彼が抱くもう一つのねらいに気がついた。
「割にあわねぇなぁ」
「その分昨日奢ってやっただろう」
主にお前のお姫様にとつげられて、ヒューズはもう一つの問題に気がついた。
「本当に割にあわねぇ」