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右手に剣を左手に恋を  作者: 28号
■隊長達の絆編■
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Episode04-2 否定できない想い

 いつの間にか、レナスは救護室から借りてきたらしい固定用の包帯と添え木、そして痛みを止めるフェアリーパウダー入りのクリームを手にしていた。

「治療の邪魔になるから上着脱いで」

「自分でやる」

「昼間散々人前で裸さらしたくせに、私の前では脱げないの?」

「俺と二人きりの所、アルベールに見られたら事だろう」

「別に私は問題ない」

「あんだけお前のためにしてくれてるんだぞ。少しは…」

「いつもは、自分の気持ちに素直になれって言うくせに」

 零れた言葉に、ヒューズは小さく息を呑む。

「そうだな、あんまり立ち入る事じゃなかった」

「治療したらアルベールの所行く。だから…」

「わかった。お前に任せる」

 上着を脱げば、レナスが慣れた手つきでヒューズのシャツをまくり上げる。

「酷いはれ方…」

「確かに少し痛む」

「少し?」

「……見栄張った」

 寄せられた眉に、ヒューズは仕方なく言い直す。嘘が下手な方ではないはずなのに、昔から彼女にだけは上手く嘘がつけない。

「あんまり無茶しないでよ。もういい年なんだから」

「いい年だけど、怪我はすぐに治る」

「ここまで酷いと時間かかるでしょう」

 クリームを取り、酷くはれた二の腕にレナスはそっと指を走らせる。

 心地よい冷気と共に熱を綺麗に拭っていくクリームに、ヒューズの体から徐々に力が抜けていく。

「添え木は良い、見た目が派手だとみんなに心配かけるしな」

「かければいいのに」

「ようやくアルベールがナーバスから脱却したんだ。ここでまたウジウジされたら面倒くさい」

「じゃあ、少し多めに塗っておく」

 それも良いと言いかけたのは、今更のようにヴィートの言葉を思い出したからだ。

『惚れてるだろう』

 その言葉を否定など出来るはずがなかった。

 誰よりも近くにいて、自分を気づかってくれる存在を、どうして愛おしく想わないでいられるのだ。

 それどころか人ではない自分を受け入れ、恐怖ではなく愛情を始めて向けてくれた相手を好きになるなと言う方がおかしい。

「そう言えば何だっけ、ヒューズが小さい頃教えてくれた痛みが消える東洋のおまじない」

「いたいの飛んでけってやつか」

 それだと笑って、レナスが子どものように呪文を唱える。

「そんなんで消えたら医者はいらねぇよな」

「でもヒューズがやってくれたときは消えた」

「そりゃあ、ガキは対して痛くもないのに想像で痛がるからな」

「昔は色々やってくれたのに、ヒューズ最近ノリわるい」

 つまらないと口をとがらせるレナスはやはりまだまだ子どものようで。

「でも、それで少しでも軽くなるならやったって良いじゃない」

 けれど子どものようだと思っても、そこにいるのは美しく育った大人の女性で。

 ふれられたままの腕から逃げるように、ヒューズは体を反らせた。

「俺はもう少し風に当たってるから、お前は中入ってろ。今日はヴィートのおごりだそうだ」

「うそ! 何でも?」

 何でもだと応えれば、レナスははしゃぎながら店の方へとかけていく。

 彼女が消えた途端、ヒューズの胸に芽生えたのは寂しさ。

 自分でせかしたくせにと自らを嘲笑しながら、ヒューズはレナスが触れた腕を見つめた。

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