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Ep.70  恐れていた事実


 正直どこで打ち明けようかと悩んでいた紗和にとって、その出来事は転機でもあった。


「サワ様、聞いてほしいことが、あります」

「………ここまで引っ張ってきておいて、聞きませんって逃げることは出来ないでしょ」

「そうなんですが」


 挑戦的な視線を向けてくる小柄な少女に苦笑を向けているのは、アーヴィンだ。

 彼は一心に紗和を見つめてくる。

 いつもとは違うその空気に、紗和は思わず表情を強張らせてしまったのは仕方がないこと。彼がなにを言わんとしているか、もしも自惚れでないとしたら、予想はついていた。


 もし違っていたら恥ずかしいことこの上ないが、とりあえず直球でいってみる。


「ねぇ、私の事好きなの?」

「!?」

 アーヴィンは頬を染めて俯いた。その背中には何故か、色とりどりの花々が咲き乱れている。

 紗和は開いた口が塞がらなかった。

「………な」


 ―――なんなのよその乙女な感じ!?普通私がこの台詞を言われて頬染めるところじゃない!?なんで私より何倍も可愛らしい感じになってるのよぉぉ!


 自分から仕掛けておいて、酷い言いぐさである。 

 しばし無言だったアーヴィンが、意を決したように顔を上げた。当たり前ではあるが、その背に花々はもちろん、ない。


「サワ様、俺は、あなたをお慕いしています」

「そう」


 自分に真正面からぶつかって来ようとする、強い瞳だ。せめて、目は逸らさないでいようと、彼女は彼の視線を受け止めていた。


「だから」

「それで、あなたは私にどうしてほしいの?私を抱きたいの?」

「抱き!な、何を!!」

「男女交際なんてそういうもんでしょう。悪いけど、私は生娘ではないわよ」


 あまりにも率直すぎる切り返しに、慌てたのは、茶髪の青年の方である。まるで彼の方が生娘であるかのような初々しい反応と再び染められる頬。


 ―――なんで私がなにかいけない事をしている気分になんなきゃいけないわけ?


 収まっていたはずなのに、また少し腹が立ってきた紗和である。


「アーヴィンくん、あなたは勘違いしているだけよ。悪いけど、あなたを受け入れる気はないから」

「サワ様」

「あなたは私に恋しているの?それとも、クリスティアナちゃんの外見の私に恋をしているの?」

「っ!」

 アーヴィンが目を見開いて息を呑む。

「さ、サワ様、そ、れは」

「あなたは私の本来の姿を見たことさえない。それで愛を乞うなんて、失礼とは思わない?」

「ち、違います!!俺は、本当にサワ様を!」

「なら、何故急にこんなこと」

「それは………」


 目の前の青年は視線を泳がす。言おうかどうか迷うような行動を見せること数十秒。彼は紗和を見た。

 聞いていけない気がしたが、紗和が何かを言う前に、彼が口を開く。


「エドガーも俺と同じ気持ちだと、気づいてしまったから。彼に、負けたくないと思ったからです」


 ―――あぁ、遅かったのか。あれほど、恐れていたことが起こっている。


 紗和は何よりも恐れていたのだ。時間を共に過ごすうちに、側近達の気持ちがクリスティアナではなく、自分に向くことを。彼女の居場所を奪ってしまう事を。

 それは、紗和という人物に対する信頼感だけでなく、紗和という女への恋慕という意味でも。


 女として、アーヴィンの熱い視線を嬉しく思わないわけがなかった。それでなくても、彼は綺麗な容姿をしていたし、なによりも自分を第一に行動してくれている。少し気持ちが浮ついたのは事実だ。


 だけれど、その度に、自分を戒めてきた。

 彼の赤茶の瞳に、クリスティアナの姿が映る度に、心が悲鳴を上げていたのにも気づかぬふりをしてきた。まさか、こうも早く、相手が行動に移すとは思ってはいなかったが。


「アーヴィンくん、もう一度言うわ。あなたの気持ちを受け取ることはできない。エドガーの気持ちはあなたの憶測。想像だけで語るのは褒められたことじゃないわ。ごめんなさい」

 深く頭を下げた。

「あなた達に、クリスティアナちゃんを返してあげる。だから、その愛は彼女に捧げて」


 それが、この物語のハッピーエンドなのだから。


 何も言わないアーヴィンに背を向けて、紗和は歩き出す。

 去っていく少女の背中を見ていたはずのアーヴィンは途中で視線をまったくの反対の方向に向けた。そうして誰も居ないはずの茂みに声をかけた。


「一応振られたが、諦めるつもりはないからな」

「それを私に言ったところで無駄では」


 茶髪の青年のらしくもない挑発的な視線に、観念したように出てきたのは、エドガーだった。


「一応、宣戦布告のつもりだ」

「私はそうつもりはありませんよ。あなたの買い被りでしょう。先ほどサワ様も言っていたではありませんか、憶測で物事を語るなと」

「あぁ、だが、俺は素直に彼女への想いを認めた。だからこそ、同じような瞳をした奴位分かるよ」

「ですから、違うと」

「その割には、ずっと殺気を向けられてたけどな」


 今回ばかりは言い負かされるつもりはないようで、アーヴィンは諦めたような苦笑で肩を竦めてみせる。

 珍しく、エドガーの方が言葉に詰まる番だった。

 脳裏には、今までに交わしてきた紗和との会話の数々とそれを心の底から楽しんでいる自分自身。紗和の輝く笑顔、胡散臭いものを見るような細められた瞳、厄介な事を考え付いたように持ち上がる口の端。

 それらすべてを、消し去ろうとして、失敗した。


「私は、私が可愛いんです」


 エドガーは力なくそう言ってその場を後にした。

 これ以上自分以外の他人に心を暴かれるのは懲り懲りだった。





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