EP.48 紅い瞳の彼
「じゃから言うたろうが。自業自得じゃ」
「そうそう」
両頬に紅い紅葉を咲かせたその美人は生気のない瞳に些か苛立ちの篭った色を浮かべていたが、目の前にいる老人と少女はまったく動じた様子もなく、否、それ以上に彼自身の行動を非難する言葉を紡いでいた。
美人は怒ると怖いとは昔からよく言うが、彼らには通用しないようである。
「だからって、初対面で殴るか?」
「変態行為に鉄拳を食らわせてやっただけですぅ。正当防衛です!!」
変態すぎるその人物をびしっと指差して紗和は胸を張って言った。
「じゃがな、あそこまで跡が残るのは………見ていて痛々しいのぉ。お主顔の色が白いだけに尚更」
「だったら止めろよ」
まるで自分が痛がっているかのように首を竦めるサイラスに咎めるような視線をやれば、素知らぬ様子で無視をされた。
「よいではないか。こんな体験中々出来んぞー」
完全に他人事である。
そうだ、こいつは昔からこんなやつだった。
「ちっ。……ジョンダイルから聞いてた娘がこんなに乱暴者だってぇのは知らなかったぜ。麗人見ればすぐに悲鳴あげるっつぅから見に来てみりゃ、叫ぶや変態呼ばわりされるわ殴られるわ」
「だから自業自得だと言っておろぅ」
「そうそう。初対面で普通耳に息吹きかけたり、舐めたりする?普通」
身震いしながら批判する紗和の視線はすでに変態を見つめる冷たいものでしかない。
「つーかお前らさっきまでものすげぇ黒いオーラ出して話してなかったか?なんだって急に仲良く隣同士で座ってんだよ」
目の前のソファーに並んで座る二人の人間を見つめて、彼は言った。もうその瞳には苛立ちの色は見られない。すでに魚の死んだ目に戻ってしまっている。
「仲良しなんて失礼な。この距離が見えない?」
そう言って紗和は自分の隣に腕を広げる。彼女が右腕を一杯に伸ばしたその少し先に、サイラスは座っている。それは彼女達が決して近くに座っているわけではないことを示していた。まぁ厳密にいえば、隣同士、とはいえるのだろう。
「そこまで力いっぱい否定せんでも……」
そこでサイラスははて、と気づいた。
「………確かお前さん、美しい者は直視できんのではなかったか?こやつとは普通に話せておるではないか」
今目の前にいる人物は通常の人間達より遥かに美しいはずだ。
「いや、もう『変態』って言葉が脳に刷り込まれたらしくって。顔なんかよりそっちの印象の方が強かったみたい」
面白いわねぇー新発見だわー、そう言って紗和はほけほけと笑う。そうして暢気に笑っていた紗和はふと動きを止めて目の前の人物を見た。
「ん?なんかジョンダイルって言ってたよね?それってダイちゃんのこと?」
それから今更といえば今更の質問を再び投げかけた。
「てか、誰よこの人」
「………もう少しはよぉその質問をしてくれてもいいと思うんじゃがのぅ」
サイラスは呆れたように紗和を見た。本当にわけのわからない娘なのだと、改めて実感する。
「ダイちゃんの知り合い?」
「知り合いなんて仲じゃねぇ。ただの顔見知りだ」
ダイちゃんの名を出せば、イラついた様に舌打ちをされた。
「嘘付きもんが。お主とジョンダイルは同士であろう」
「あんなめんどくさいやつと一緒にすんじゃねぇよ。俺はあいつよりはましだ」
「そこは認めよう」
「……あの、話が見えないんですが」
仲が良いらしいということはわかった。ダイちゃんがめんどくさい性格をしているということは、彼を良く知らない限りわからないはずだから。サイラスの言う通り浅い関係ではないのだろう。
「まぁいずれ会うことにはなったじゃろうて。この娘がこんなことになってしまったのもお主らのせいだしのぅ」
「だから、あいつらと一緒にすんな。俺が忠告したっていうのに……」
「原因?あいつら?」
そこでサイラスが紗和の方を向いた。
「お主、堕天使の話は聞いておるか?遥か昔に、神に反逆し地よりも下に落とされた第五の天使の話は」
そう言って思い返されたのはエイダの言葉。あの後ダイちゃんにも確認して裏はとった。そこで紗和は頷く。
確かに知っている。話だけならば。
「それ、俺」
自分を指差して、目の前に座る美人さんは言った。
「…………………は?」