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EP.37  三匹の兄弟

 

 「………」


 目の前にいる『それら』を見つめ、紗和はしばし硬直状態に陥っていた。

 そもそもどうしてこんな状態になってしまったのかさえ、些か疑問なところである。



 今紗和が見つめているのは、生まれたての子犬のような、子猫のような生き物達。しかも三匹も居た。

 目さえ開いていないその生き物達は、鼻を微かに動かして周りの様子を一生懸命に確認している。紗和の匂いに気がついた一匹が、短い手足を動かしてやってきた。

 覚束ない足取りで、けれどしっかり一直線に紗和の元へやってくる。

 無意識の内に手を差し出せば、その鼻を摺り寄せてきた。


 「……っ」


 他の二匹も、同様に紗和の手に鼻を摺り寄せて、そして体を摺り寄せてくるではないか。


 ―――なにこの生き物!?かわいすぎぃぃぃぃぃっ。


 心が、色々な意味で震えた。


 紗和にまったく警戒心を見せない生き物達を撫でながら、紗和は何故こんな状況になってしまったのか回想する。





 朝はいつもと同じだった。


 いつものように一時課の鐘で目を覚まし、エイダと相談して決めたドレスを着て、ベティの用意してくれた朝食を食べる。

 ベリアの診察で、順調に回復しているという嬉しい報告に安心したのもいつもと一緒だ。

 エドガー、アーヴィン、そしてフランと共に外に出たのも、今に始まったことではない。


 ただ、ここで紗和がエドガーに許可をもらったのが毎日とは異なった行事だったような気もする。毎日同じ場所だと飽きるからという理由で、少し足を伸ばしてもいいかと尋ねたのだ。

 後は、少し一人で居たいとも言った。

 屋敷の正面には街が広がっているが、その後ろは森で覆われている。常に護衛達が居るというその森は絶対に安全で、そのためエドガーも紗和が森にいくことを許可した。

 もちろん、常にエドガーかアーヴィン、フランが駆けつけられる範囲でという約束付きだ。

 エドガーがいとも簡単に許してくれたことを意外に思いつつ、紗和は嬉しさ交じりの軽やかな足取りで屋敷の裏に回った。


 そこで聞こえた微かな泣き声を辿っていった結果。




 「君達に会ったわけだ」


 ここで回想は終了した。


 犬とも猫ともつかぬその生き物達は、いまや紗和の膝の上、肩の上、手の上を我が物顔で占領しつつある。そのため紗和は動けずに固まる。

 目が見えていない様子のその子達は、己の嗅覚と聴覚だけで紗和が何者なのかを確認しているようだ。いや、というか紗和という人物を探検しているようにも見受けられる。 


 「あ、ちょっ、あぶなっ」


 肩の上にいた子が、頭の上に移動しようと紗和の耳に両足をかける。

 慌てて止めようとするが、手の上にいた子が今度は腕の方に歩き出した。


 「ちょっ」


 思った以上に身軽らしいその子達は、あっという間に一匹は頭の上に乗り、一匹は匂いを嗅ぎながら器用に腕を伝い、そしてもう一匹は膝の上でなにやら丸まってしまった。

 とりあえず腕の子を膝に乗せて、続いて頭に座っている一匹を抱きかかえた。

 膝の上に集まった己の手のひらほどの小さな三匹をマジマジと観察し、再び疑問が生まれる。


 ―――猫、犬、ではないよね。


 そもそも、普通の生き物でもないようだ。


 ―――アニマル、じゃない。………モンスター?


 一番やんちゃらしい頭の上に陣取っていた子は、猫のようなやわらかで真っ黒な毛並みを持ちながら、しかしその尻尾は爬虫類のように長く先が尖っている。耳もまるで折り畳んでいるかのようなそんな不思議な形をしていた。


 真面目に紗和という人物を知ろうと匂いを嗅ぎながら進んでいたのは全体が白で、耳と尻尾が茶色という、どこか三毛猫を思い出させる子だった。しかし明らかに猫ではない―――その背中には小さな羽が生えている。


 そして最後に、特になにも気にした様子もなく紗和の膝で眠ろうとしていたマイペースな子、三匹の中で一番小柄な生き物は、体を鱗で覆われていた。紺色のその肌は、光の反射で美しい光沢を持つなにやらわけのわからないものだった。


 最初は三匹を兄弟かとも思ったが、ここまで違っていてはそれも考えにくい。

 あまりにも違いすぎる三匹だ。


 「でも、どうするかなぁ」


 紗和の匂いに慣れしまった彼らは、紗和が自分達に害のない人物と認識したらしい。どうやら完全に膝を占領することにしたようだ。

 困った様子で己を見下ろす人間の少女なんぞ気にした様子もなく、体を丸めて眠りを決め込むように動かなくなった。


 「う~ん」


 かわいいからといって持って帰るわけにもいかない。


 アニマルであればそれも考えただろうが、彼らはモンスターだ。もし親が居るなら、攫われたと思って屋敷を攻撃しに来る確立もある。

 彼らの姿形から察するに、少々危険な生き物である可能性もあった。

 ここで一人悩んでいても仕方がないのでオリバー達にでも相談するかと三匹を腕に抱えて立ち上がった。


 と、その時、後ろから生温いが吹いた。


 同時に聞こえた何かのうなり声。


 紗和は一度動きを止めた。規則正しく止んでは、また吹かれる、生暖かい風。同調するかのように揺れる己の服と髪。そして聞こえる低い何かの唸り声。

 生き物達を抱える腕に力を込めながら、紗和は恐る恐る後ろを振り返った。


 「ひっ!」


 いつの間にか彼女の背後に佇んでいた大蛇のような生き物。それと目を合わせた瞬間、紗和は短い悲鳴を上げた。






登場人物の一人、エドガーをオリバーと表記していたのを訂正いたしました。読者の皆様を混乱させてしまい、申し訳ありませんでした。

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