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EP.20  侍女の怒りに逆らうべからず



 「………」


 キラキラという効果音がつきそうな麗しい顔が紗和の前に現れる。

 綺麗な人を見るといつも怖くなるのは、昔のトラウマのせいで。


 ―――な、中身よ、中身を見るの。たとえ顔が綺麗だとしても、この人はロリコンツンデレ腹黒執事なんだから!そう、さっきまでの喧嘩を思い出して………。


 頭を振って脳内を切り替える。

 そして目の前をみれば、やはり地球で騒がれているアイドルやハリウッドスターすら足元にも及ばないのではないかという綺麗な造作が視界に入ってくる。

 ブラウン管越しならまだ受け入れることもできる。が、いざ目の前にくるとやはり変な冷や汗が流れ出すというもので。

 切れ長の青い瞳は、今まで見たことがないほど長い睫で縁取られている。外国人にも負けないすっと通った高い鼻とその薄い唇。小さな顔は女性であっても羨ましくなってしまうだろう。その驚きに満ちた表情でさえも、その表情ゆえかとても色っぽく感じてしまい―――。


 「「「お嬢様!?」」」


 色気という部分に気を取られた瞬間、紗和はその場に倒れた。まるでどこぞの流行遅れの映画のヒロインのようによろよろと床に横座りに倒れこむ。

 驚いた側近達が彼女に駆け寄る。


 「だ、大丈夫、うん、生きてる」


 頭を抑えて紗和は引きつり笑いを浮かべた。

 立ち尽くすエドガーに再び問答無用で仮面を被せて、紗和の傍に膝をついたエイダは――もちろんハタキは左手にある――にっこり笑った。


 「サワ様、よく耐えられました。わたし、心の中で百以上は数えられましたよ」

 「ほ、ほんと!?」

 「はい」

 「よっしゃっ!」


 思わずガッツポーズをとった紗和を見つめながら、側近達はやはり説明を促す視線をエイダに向けた。


 「サワ様の『麗人恐怖症』は筋金入りなのです。昔何度か克服されようとがんばったらしいんですが、いつも綺麗な人をみると一瞬で逃げ出してしまっていたそうなんです。それに、皆様はサワ様のいらした国の人々とは比べものにならないほど美しいそうで、もしかしたら顔を直視する前に気が遠くなるどころか、気を失ってしまうかもしれないと危惧していたんです」

 「でも、結果は上々よ」


 紗和は嬉しそうに笑った。


 その笑顔に側近達は胸をつかれた。

 わけのわからない人ではあるけれど、この人はこんなにも考えれがんばろうとしているのだ。


 「お嬢様」

 「ん?」


 仮面をきちんと被りなおしたエドガーは、紗和と対等になる視線の位置まで座り込み、まっすぐに彼女の顔を見つめた。


 「今度、少し遠出でもしてみましょうか」

 「え、ほんと!?」

 「キース様には、私の方から進言しておきます」

 「今の貴女の健康状態には、自然の恵みも必要かと思われます。私もお口添えいたそう」


 ベリアも口元を緩ませてそう言った。


 「おぉ!」


 思わぬ申し出に紗和は喜びを隠そうともせずに嬉しそうに笑った。

 皆が笑顔になりかけたその時、扉が勢い良く開いた。見れば、なにやら体を上下にかすかに震わせているベティがいる。


 「な……」


 少し下を見つめていた彼女はそれから顔を上げると、鬼のような形相で部屋の中央に集まる人間達に向かって声を張り上げた。


 「あなた方は何をやっているのですか!!」


 その声の大きさにさしもの側近達も肩を揺らす。


 「エイダ、あなた掃除は終わったのですか!?」

 「い、いますぐ!」


 まずはベティの形相に珍しく肩を震わせたエイダがその場を立ち去る。 


 「フラン様っ。お嬢様を床に座らせるなど言語両断、すぐにベッドの上に運んでくださいませ!」

 「お、おうっ」


 次に名指しで指示をされたフランが紗和を抱き上げベッドの方へ向かう。


 「ベリア様、診断の方、お忘れではないでしょうね!?」

 「っ」


 荷物を取りに、ベリアが普段は絶対に見ることができないだろう焦りの表情で部屋を出た。


 「チェスター様、エドガー様、旦那様がお呼びです!」

 「か、かしこまりました!」

 「今すぐにっ」


 チェスターとエドガーも優雅ではあるがとりあえず早足で部屋を出て行った。


 残されたのは二人。

 何をすればいいのかと立ち尽くしていた二人に向かって、鬼の形相の侍女は怒りを隠すことなくにっこりと笑った。その怖さ、三割り増しである。


 「……アーヴィン様、コリン様、お暇なら今すぐにこの部屋からお立ち去りくださいな」

 「「は、はい!!」」


 二人が飛び上がって部屋を出た後を、己の使命を終えたフランがまるで俺を置いていくなとでも言いたそうな表情で追う。


 「こわぁぁ」


 毛布から顔を覗かせたままその一連の流れを見ていた紗和の感想はその一言につきる。




 ベティの本気を見た瞬間だった。






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