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EP.17  問題の解決策



 久々に外の空気を満喫した紗和は、エドガーの呼びかけにより、屋敷の中に撤収することとなった。


 そこで先ほどの少女と青年の話を聞く。


 もちろん、説明をしてくれるのは『お嬢様』のことならば何でも知っていると自負するエドガーである。紗和は最近彼に『ロリコン閣下』という大変不名誉なあだ名を付けようかと画策中である。もちろん、エドガー本人に教える気はまったくないが。


 「あの少女の名前はデイジー・ロア・エインズワーズ。クリスティアナ様の従妹に当たるお方です」

 「え、従妹なの!?」


 驚きのあまり目を瞬かせる。あんなに対極な印象を与える二人の少女がまさか親戚で、しかもかなり近しい親戚だとは。


 「デイジー様のお母上とクリスティアナ様のお母上はご姉妹なのですよ」

 「それにしては、デイジーって子、クリスティアナちゃんの事嫌ってるみたいだったけど。顔は笑ってたけど目が全然笑ってなかったよ」


 紗和のその言葉に、エドガー、フラン、チェスターの歩みが止まる。

 何事かと思って彼らを見やれば、三人とも思案するような空気を漂わせていた。


 「なに?」


 自分は何かまずいことでも言ったのかと思ったが、そうでもないらしい。

 すぐに立ち直ったエドガーが眼鏡のずり上げる。


 「あなたの洞察力には感心しますが、あまり鋭すぎるのもこれから先問題になりかねませんね、と、思いまして」

 「ん?なに、貴族の陰謀とかのこと?それなら気にしないでいいって、その時はよほどのことがないかぎり干渉はしないし」


 そう言って紗和はカラカラと笑った。


 その言葉に三人は再び沈黙する。

 本当に彼女は、どこまでわかってそんな事を言っているのだろうか。


 「じゃあさ、なんで二人は仲が悪いわけ?……いや、そのデイジーちゃんが一方的に毛嫌いしてるのかな?」


 回りの側近達が自分の事をどう評価しているのか知る由もない紗和は、一人で話を進めていた。


 「お嬢様は、クリスティアナ様のもう一つの呼称を知っておられますか?」


 チェスターが控え気味に話に加わってきた。


 「うん。聖女様、でしょ」

 「では、なぜそう謳われるようになったかについては?」


 エドガーが尋ねる。それについても紗和は澱みなく答えを出した。すべてダイちゃんからの説明済みだ。


 「確か、前の聖女様が亡くなった日に生まれたんだったよね。その日に生まれた赤ん坊はクリスティアナちゃん以外この何百年生まれなかったって」

 「デイジー様はその次の日に生まれた。だが、本来はクリスティアナ様と同じ日に生まれるはずだったお方だ」


 フランが言った。

 その言葉により、紗和は大体の原因を把握する。


 ―――劣等感ってやつか。


 「なるほど」


 紗和は鷹揚に頷いてみせた。


 「あなたが察しの良い方で助かりますよ」


 エドガーが苦笑した。


 「じゃあ、あのお兄さんは誰?」

 「ルーク殿の事でしょうか」


 チェスターの声に紗和は肯定の意を示す。


 「彼はデイジー様の護衛の青年です」

 「あれはまた良い男だったわ。直視できなかったもん」

 「威張ることではありませんよ」


 紗和が感服するように頷いていると、すぐにエドガーの手厳しい言葉飛んできた。


 彼は紗和に対してはまったく容赦がないのだ。


 そのことを不服に思いつつ、それらの行動がすべてクリスティアナという少女のためなのだと思うと少し微笑ましく思ってしまう。


 外を回っている最中でも、エドガーの視線は常に紗和の姿を追っていたし、少し綺麗な薔薇があったため物珍しく近づけばすぐに大きな声で待ったをかけられたものだ。彼曰く、薔薇の棘で怪我をしては大変だという。

 そのあまりの心配性に呆れを通り越して笑ってしまったのは紗和だけではなかった。フランとチェスターも笑っていた。



 デイジーとルークの話も十分聞いたところで、四人はお嬢様の部屋に向かって歩き出した。


 部屋に戻ると、いつものようにエイダが笑顔で出迎えてくれた。すでにテラスには紅茶の用意がされていて、部屋の主を待っている。

 ちょうど喉が渇いていた紗和は、部屋まで送ってくれた側近達にお礼を言って別れを告げたあと嬉々としてテラスに向かった。


 ちょうど考えたいこともあったのだ。何かを考えるとき、外の空気に当たっていると意外なほど心が落ち着く。それに紅茶が付けば文句はない。そしてエイダはいつもそのすべてを揃えてくれている。


 日本の高校生のようなノリが目立つエイダも、実際はとても気が利く娘なのだ。だからこそ、今こうして自分の身の回りの世話をしてくれているのだろうと、テラスの椅子に座りながら紗和は思う。


 「サワ様、どうでした?久々の外は」

 「うん、楽しかった。やっぱりいいね、生の地面は」

 「そうですね」


 最初はのんびりとした空気が流れる。

 その空気を満喫した後、紗和は切り出した。


 「あのさ、エイダ、少し相談があるんだけど」

 「はい?」


 スコーンのおかわりを皿に盛っていたエイダは、主人のその一言に一旦自分の動きを止めた。見れば少し真剣そうな顔をする紗和の瞳と視線が交錯した。


 「どうされました?」


 普段の紗和らしくない。


 スコーンを盛り付け終わり、エイダは紗和の座る位置の向かい側に座った。本来ならば、エイダのような一概のメイドが、主人と共に座ることは許されない。しかしその約束事も紗和の笑いと共になくなった。

 彼女曰く、『いやぁ、そんなの気にしてたら良い信頼関係なんて生まれんもんだよ。時と場合によっては、腹を割って話さないとね』なのだそうだ。


 「あのね」


 そう言って紗和は話しだす。


 このままエドガー達に仮面を強要させるのはまずいと思い始めたこと、自分の『麗人恐怖症』はこの先クリスティアナという少女にとって不利な結果を生み出してしまうかもしれないこと、そろそろ本格的にこの苦手意識をどうにかしなくてはいけないということ。


 今の心配事をすべて話して聞かせた。


 エイダは最後まで黙って聞いてくれた。


 「―――というわけよ」

 「確かに、『麗人恐怖症』というのは、この国において非常に困ったことではありますね」

 「でしょ?」

 「それに」


 エイダが急に怖い瞳をした。その空気に紗和は緊張感を覚え思わず姿勢を正す。


 「それに?」

 「あんなに美しいアーヴィン様やエドガー様達のお姿を見ることができないなんて、サワ様は人生の半分以上を棒に振っています!」

 「そっちかっ!」


 まるで祈るように手を組みまっすぐ自分を見て力説した侍女の言葉に、身を乗り出して突っ込みをいれてしまった。しかも突っ込む際、思わず手までもが、どこかの漫画のような漫才仕様になってしまう。


 突っ込んだ右手を左手で押さえ戻して、紗和は気を取り直す。


 「だからさ、まずはどうにかしてエドガー達の顔を直視できるようにしたいわけよ。……こういうこと相談できるの、エイダちゃんだけだし、なんか良い案ない?」

 「……そうですねぇ」


 二人で考え込んだ。


 約数分後、エイダが何かを思いついたように両手を叩く。何事かと思って彼女を見れば、非常にキラキラした表情の彼女を見つけた。


 「では、なにか顔以外に集中できるところを見つけては?」

 「顔以外?」

 「サワ様は顔に意識がいってしまうから、必要以上にそちらに気を取られ、『恐怖症』が発動してしまうと思うんです」


 意外に筋の通った意見に紗和は頷く。


 「ですから、あまり顔を意識しなければ良いのではないでしょうか」

 「内面に目を向けろと?」

 「はい」

 「………そうね、男は外見じゃない、中身だもんね!」

 「えぇ、その通りです!」

 「顔より心よね!」

 「そうです!」

 「男は財力!」

 「サワ様、良いことをおっしゃいましたっ」

 「よし、じゃあ、これからは側近達の『顔以外』のいい所を見つけてみるよ!そして『麗人恐怖症』を克服してみせる!!」

 「それでこそわたしのサワ様です!!」


 拳を掲げて立ち上がり、高らかに宣言をした紗和を止めることなく、逆に煽るように拍手をするエイダ。彼女たちはこれらを素でやっているのだから性質が悪い。


 「男は……」

 「コホンッ」

 「あ、ベティ」

 「………夕食の時間でございます」


 その果てしないと思われた一連の行動に終止符を打ったのは、今の今まで気配すら見せなかったもう一人の世話係、ベティーナであった。

 




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