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EP.15  偽りの理由


 「行方、不明?」


 疑問を覚えた単語を復唱すると、ダイちゃんが肯定するように頷いた。

 頭の中を整理する。

 何度か瞳を瞬かせて、そして意識を浮上させると紗話はそのまま勢いよく椅子から立ち上がった。


 「な、なんでそんな重要なこと黙ってたのよ!馬鹿じゃないの!?」


 基本大人な態度で物事に取り組む紗和だが、時々必要以上に驚いて冷静になれない時もある。そしてそういう時の彼女はよく、暴言を吐く傾向にあった。


 それをわかってるだけに、ダイちゃんは馬鹿呼ばわりされてもただ黙って俯いていた。


 「クリスティアナちゃんの魂が行方不明って、え、もし戻らなかったらどうするの?私一生このま ま!?ってか、絶対あの側近達に殺されるじゃんか!」


 やはり心配なのは彼らである。


 魂がなくなることはつまり、死と同じ意味を持つこと。それはとても深刻な問題だ。

 パニックに陥っている紗和を落ち着けるために、ダイちゃんは声を張り上げる。といっても、時間帯も時間帯なので、叫び声というわけはなかったが。


 「紗和、少し落ち着いて、まだ完全になくなったわけじゃないんだ」

 「どういうこと」

 「クリスティアナの魂の気配はまだこの国のどこかにある。それは僕たち天使が保障する。ただ、どこにいるかまではわからないんだ」


 ダイちゃんは子犬のようにうな垂れたまま、とりあえず紗和を落ち着かせるために詳しい説明を続ける。


 「大丈夫だから、ね?僕たちを信じて待っててほしいんだ。それでなくても紗和は新しい環境に慣れようって必死にがんばってる。これ以上は心配しないでいいよ。また何かあればちゃんと報告するから」


 ダイちゃんがそう告げたときには、紗和もだいぶ落ち着きを取り戻していたところだった。


 「……わかった、そういうことなら、私も手伝う」

 「え?」

 「私はクリスティアナちゃんのためにここに残ることを決めたんだから、その本人が大変なことになってるんだったら私も手伝わないといけないでしょーが」

 「紗和……」


 自分が予想していた通りの言葉を、紗和は言ってくれた。そのことにダイちゃんは安堵の気持ちを覚えると共に、先日仲間の天使が言っていた言葉を思い出していた。




 『お前は、その幼馴染とやらを利用してるだけだ。彼女のためなんていうのは言い訳で、本当はお前が彼女に会いたかったから無理やりこの世界に呼び出した。そして彼女との時間を共有したいために彼女をこの世界に留めている。結局あの子のやさしさに甘えてるだけなんだよ、お前は』





 クリスティアナの行方が杳として知れない中、この世界とはまったく関係ない場所で生きてきた紗和を呼んでしまったこと、それを天使達は問題視している。最初はすぐに終わると思っていたから了承したのであって、クリスティアナの魂が行方不明になってしまったことはまったくの誤算だった。


 本来ならばすでに彼女は世界に居てはいけない存在。その証拠に、彼女の亡骸はすでに埋葬されてどこの世界にも残っていないのだ。


 紗和自身はそのことをすべて受け入れた上でクリスティアナを救う役目を買って出てくれた。それについては感謝をしても仕切れない。ただ、クリスティアナが戻ってきたとき、果たして紗和はその事実を受け入れることができるのだろうか。ようやく慣れてきたこの世界からまた自分達の都合で切り離されることを恨みはしないだろうか。


 「ダイちゃん?」


 紗和の声が耳に入り込んできたことで、ダイちゃんは我に返った。


 「どうした、なんかすっごい考え込んでたけど」

 「ううん、なんでも、なんでもないよ」


 冷や汗が頬を伝う。幸い鏡越しで話をしている紗和には気づかれなかった。


 確かに彼は紗和を利用している部分もあるのだろう。それでも、どんなに責められても、ダイちゃんは紗和を引き離すつもりはなかった。


 大切にしたいと思っていた。あの時、何も知らない自分を、すべてを偽って過ごしていた自分と遊んでくれた女の子を、ずっと大事に思っていた。

 神様に呼び戻された時も、本来なら紗和の記憶も消さなければいけなかったのに、それができなかったのは彼女に自分のことを覚えていてほしかったから。自分の我侭が結果的に紗和を苦しめてしまったけれど、そしてそれは現在進行形で彼女を苦しめているとしても、それでもどうしようもなかったのだ。


 消えてしまってからも、ずっと彼女のことを見守ってきた。


 今ようやくこうして話すことができる。笑い合う事ができる。昔みたいに、怒ってもらうことができるのだ。この時間がただ愛おしい。


 自分がこの世界に来た理由を、ここに留まっている本当の理由を正直に話したとき、紗和はどんな顔をするのだろうか。

 悲しむだろうか。怒るだろうか。それとも、呆れてしまうのだろうか。


 「おーい、ダイちゃーん?」


 再び紗和の声に呼び戻された。


 見れば眉をしかめた少女の姿が目に入った。


 天使だからか、それとも紗和の本来の姿を知っているからか、彼にはその少女の姿と重なるようにして見える女性の姿があった。


 「で、手伝うの了承してくれるの?天使様は」


 何も知らず、だからこそ心の底から自分を助けようと、クリスティアナを助けようとする紗和を見て、ダイちゃんは仮面の下で泣き笑いの表情をひっそりと見せたのだった。


 「うん、紗和にも、お願いするよ」


 紗和はきっと、自分が本当の事を言っても許してくれるだろう。

 怒った顔をした後に、苦笑いをして、「しょうがないなぁ」と笑ってくれるのだろう。



 その甘さとやさしさを、ジョンダイルは卑怯にも利用し続けるのだ。





 


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