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ガチャ089回目:ぶら下がり木登り

 『フォレストボスウルフ』は、子分たちと違って警戒は続けているようだが、今すぐ襲ってくる気配はない。その立ち振る舞いは知性と理性を兼ね備えているようであり、この森のボスとしての風格も併せ持っているように感じた。


「イリス、話せるか試してみてくれるか?」

『プル~!』


 イリスは肩から降りて、俺の腕の中にすっぽり収まると、そこでプルプルし始めた。


『プルプル!』

『……』

『プル~! プルプル!』

『……グルル』


 お、応えた。てことは話が通じたか?


『プル? プルプルプル!』

『ガウガウッ』

『ププルプルプル! ププルプル!』

『ガウガウ。ガウ!』

『グルル』

『ワォーン!』


 そうしてボスが子分に何かを話すと、彼らはウルフの死体3つを咥えて下がって行った。


「もう少し欲しいならやるって言ってあげてくれ」

『プル。プルプルプルル』

『ガウ』

『プル』


 イリスが触手でVサインを出した。……ああ、2頭ね。

 鞄から連中の死体を放り投げると、ボスはうまい具合に口でキャッチして配下に渡した。そうして配下は全て森の奥へと消えていき、最後にもう1頭を放り投げると、今度は捕まえる為ではなく捕食のために喰らい付き、前脚を使って豪快に食べ始めた。


「やっぱ、腹減ってたんだなぁ」

『プル~』


 最初は慎ましかったが、だんだんガツガツと食べるようになった『フォレストボスウルフ』の貴重な食事シーンを眺める事数分。丸々一頭分の肉を余すことなく食べ、骨も皮も全て飲み込んでしまった。素材の事はとやかく言うまい。どれだけ綺麗に倒そうと、しっちゃかめっちゃかに貪られた死体からは、品質の悪そうな皮しか残らないだろうしな。


『ガウガウ』

『プルプル』

『ガウ? ガウガウ』

『プル~。プルプル』

『グルル……ガウガウ』

『プル!』


 食事を終えた後、ボスは再びイリスと話をし始めた。なんだろう、もう1頭くれとか言ってるのかな?

 そう思ってると、ボスは背を見せて奥へと歩いて行った。


「ん?」

『プル! プルル!』

「なんだ、ついて来いって?」

『プル~!』


 どうやら案内をしてくれるようだ。大人しく着いて行ってみよう。

 正直このボスも、普通にそこらのモンスターと大差はないのかもしれないし、冒険者の視点で言えば討伐すべき対象だ。けど今は本命のダンジョン破壊に使えそうだから使うまでだ。その後で、こいつが実は悪さをしていて罪のない人間を殺しまくってる札付きの悪党だったと判明するのなら、その時はその時にきっちり制裁を加えれば良い話だ。


『ガウッ』

「ん?」


 ボスは樹齢何百年か分からない大樹の前までやってくると、その樹にポンと前足を置いた。

 なんだなんだ?


『ガウガウ』

『プルプルー?』

『ガウッ!』

『プルーン。プルプル』

「……なんて?」

『プル!』


 イリスもまた触手を伸ばして大樹を指し示す。


「これに触れればいいのか?」

『プル!』

「え、違う?」

『プルプルプル!』

「……上に登れって?」

『プル~』


 この樹を登るのか。……ステータス20ちょっとというのは、地球の一般人よりは強いけど、大樹を道具無しに登攀できるほどのステータスじゃないんだがな。


「イリス、流石にきついから縄代わりになってくれない?」

『プル? プルプル!』


 イリスを頭上の枝に放り投げる。すると枝に絡みついたイリスは、触手を2本伸ばして俺の身体に巻き付けてくる。


「ん?」

『プルル~!!』


 どうやら、自身を滑車に見立てて俺を吊り上げるつもりらしい。まあイリスのステータスをもってすれば、『形状変化』で硬質化も可能だし、割と行けるのかもな。

 そうしてブラブラと不安定な浮遊感を感じながら俺は吊り上げられていき、10メートルくらいの高さの枝まで辿り着くと、そこからは自分で枝につかまり乗り上げた。


「サンキューイリス」

『プル~!』

『ガウ!』


 あ、忘れてた。直下にいるボスが、今度は右の方へアゴをくいっとしたのでそちらの方へと視線を向ける。するとそこには、森の中に切り開かれた空間があり、その中心部には岩を積み重ねたような奇妙な空間が存在していた。

 ここからでは周囲の木々が邪魔で、岩の根元がどうなっているか視えないが……あそこは露骨に怪しいな。行ってみる価値がありそうだ。


「けど、そんな場所に直接案内せずに、見晴らしの良い場所から見ろって伝えてくるって事は、あそこはダンジョン化している可能性が高そうだな」

『プルプル』

「もしくは、ダンジョンから発生した狼が縄張りにしていて、ボスも鎮座してるとかかな」

『プル~!』


 イリスの反応からしても、それで合ってるっぽいな。


「本来なら突っ込んでさっさと終わらせたいところだけど、問題は周囲の雑魚なんだよなぁ。とりあえず降りるか。イリス、また頼むわ」

『プル~ン』


 そうして登る時よりも簡単にするすると降りて行き、地面に辿り着くとイリスが上から降って来たのでキャッチする。


「ありがとなー」

『プル~。プル、プルル!』

『ガウ? ガウガウ!』

『プルプル!』

『グルル……』

『プル! ププルプルプル!』

『……』


 ん~? 何か言い合いしてるっぽいけど、なんだろ。

 ボス的には教えたんだから後は任せたって感じか? けど、雑魚がいるから無理とイリスが突っぱねたのかな。それで喧嘩腰になったけどイリスが言い負かした感じか。

 どっちの会話も分からないと、こういう時困るよなぁ。

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